ホワイトデーにはアフターヌーンティーを

「ど、どうかな?」

加茂さんがホワイトデーに連れ出してくれたのは、加茂さんに似合わないファンシーなパンケーキ屋さんだった。雰囲気がどうとか、メニューがどうとかいう以前に加茂さんがどうやってここを調べて、どうしてここを選んだのか。その方が気になってしまった。


「加茂さん、熱ありますか?」
「ない。なぜだ?」
「だって、加茂さんがこういうお店来るって思わなかったので」
「なまえが喜ぶと思ったんだが、ダメだっただろうか」

居心地が悪そうにソワソワしながらも、加茂さんはメニューを開く。そんな風に言われてしまったら全部私のためなんじゃないかって期待しちゃうから、ほどほどにして欲しい。だって、私は一般人で、加茂さんは名門御三家の人間なんだから。生まれた時から、人間としての出来が違うんだよ。期待したって、悲しい結末にしかならない。真依先輩から、禪院家とか御三家の話をさんざん聞かされているんだ。身分が違いすぎるってことは、私が一番よくわかってる。



「なまえはどれにする?」
「加茂さんは?」
「……このネーミングを口にするのは少々厳しいな」
「だったら指さししてください。私が頼みます」


こんな楽しい時間にまだずっと先の未来のことを考えるなんて野暮なことだ。今は、こうして不似合いながらも私のために、ここに来てくれた加茂さんの優しさに甘えてしまおう。メニューの名前が口に出せないでいる加茂さんに顔を寄せて、一緒にメニューを覗き込む。森のくまさんのおもてなし、うさぎさんのお花畑。名前だけ口にすれば、なんのことか分からないような名前が並ぶメニュー。加茂さんはほうじ茶とホワイトデー限定メニューを指さした。ホワイトデー限定メニューは、マカロンやマドレーヌ、マシュマロなんかがティースタンドに乗ったものだった。ちょっと意外だな、と思った。甘いものを食べている加茂さんを見たことがなかったから、こういう俗っぽい食べ物も食べるんだと感じてしまったからだ。


「加茂さんのって一人で食べます?」
「……なまえが食べると思ったんだが」
「なら一緒に食べさせて貰おうっと」


店員さんを呼び出して、加茂さんのほうじ茶と自分用のアップルティ、それとホワイトデー限定メニューを頼んだ。そういえば、加茂さんはバレンタインには三輪にも真依先輩にも西宮先輩にも義理チョコ貰ってたはずなのに、どうして私だけこうして連れ出してくれたんだろう。もしかして、私があげたチョコが本命だってバレたんじゃないだろうか。身の程知らずが、と忠告するためなんじゃないだろうか。

加茂さんが無口すぎて、意図をくみ取ることができない。もどかしいと同時に、ちょっとだけ期待してしまう自分が恨めしい。そんなこと絶対ありえないってわかってるくせに、ね。



「なまえ、これ」
「なんですか?これ」
「俺と一緒に行ってほしい」
「USJのチケットじゃないですか?どうしたんですか?」
「深い意味はない。バレンタインのお返しだ」
「え?ここがバレンタインのお返しなんじゃないんですか?」


頭に疑問符がいくつも浮かぶ。加茂さんの言葉は断片的過ぎて、理解が追い付かない。100%を説明して欲しいわけではない。せめて半分くらいは説明して欲しいと思うだけなんだ。


「俺と二人では不服か?」
「全然!めちゃくちゃ嬉しいです」
「……なまえ、深い意味があったとしたらどう思う?」
「深い意味の内容によります」
「なまえと一緒に居たいって意味だとしたら?」
「……すごい嬉しいですよ、私は」
「そうか」


ふふ、と微笑んで、届いたばかりのほうじ茶に加茂さんは口をつける。笑ってる加茂さんが好きだ。少しでも多く笑っていて欲しい。出来れば私が一緒に居る時に。