1回目
・初日
赤月「…ふ、ふわ〜ぁあ、よく寝たなぁ…。いま何時だろ?」
「…って、ここどこ!?なんだか、すごくゴージャスな部屋なんだけど…。」
「それに、なんで私ったら、こんなおしゃれ、かつ、恥ずかしいパジャマを着てる訳?」
「う〜ん…。まさか私って、実はフランスの王女様だったとか?」
「…あれっ、なんだか、そんな気がしてきたかも!」
「そうだ!フランス王女だったんだっけ、私!」
「なんで今まで自分の設定を忘れちゃってたんだろ?…ま、いっか!」
(あ、こんな町の娘みたいな話し方してたら、またお父様やばあやに叱られちゃう!)
(王女たる者、ひとりでいるときも、立場を忘れちゃいけないのよ!)
(とは言え、連日遅くまで舞踏会だと神経が参っちゃうよ。作り笑いって結構、疲れるんだよね…。)
(はっ!いけない、いけない!王女の私がにこやかに笑うのも、国が安定してる証拠になるのよ。)
(王家に生まれた私のお仕事みたいなものなんだから、ガマンしなくちゃ!)
・2日目以降
赤月「…ふ、ふわ〜ぁあ、もうお昼ぅ?まだ眠いよぉ。」
「夕べも遅くまで舞踏会だったから、仕方ないかぁ。さて、今日のブランチはなにかな〜?」
(あ、いっけない。こんな町の娘みたいな話し方してたら、またお父様やばあやに叱られちゃう!)
(私はフランスの王女だもん、ひとりきりでいるときも、立場を忘れちゃいけないのよ!)
(でも、パーティーで笑ってるのってけっこう疲れるんだよね。それも、ほとんど連日なんだもん…。)
(はっ!いけない、いけない!王女の私がにこやかに笑うのも、国が安定してる証拠になるのよ。)
(王家に生まれた私のお仕事みたいなものなんだから、ガマンしなくちゃ!)
赤月「あら、跡部伯爵。ごきげんよう。やはり今夜は、あなたもいらしていたのね。」
(この人は侯爵家の跡取り息子なんだけど、まだ家を継いでいないから本人の身分は伯爵なのよね。)
(お父様のお供で外国に行くことが多くて、その功績で伯爵の位をもらってるんだから、すごいわ。)
跡部「王女様にはごきげんうるわしく。…みなが、お声が掛かるのを待っております。さあ…。」
赤月(そうなのよね。私より身分が低い人が、先に私に声をかけてはいけないの!)
(おかげで、名のある貴族には、みんな声を掛けないという訳。…疲れるわぁ。)
「そうね。みなさんにご挨拶しましょうか。」
→「エスコートは結構よ。」
赤月「エスコートは結構よ。」
跡部「そういう訳には参りません。」
赤月「…わかったわ。では、跡部伯爵、エスコートのほど、よしなに。」
跡部「はい。」
→「エスコートしてくださるわよね?」
赤月「もちろん、エスコートしてくださるわよね?」
跡部「仰せのままに。」
赤月「ありがとう。」
赤月(今夜は遊学中の外国の王子も来てるし、国中のほとんどの貴族が来てる…。)
(はぁ、ユウウツだなぁ…。だって事実上のお見合いなんだもん。)
(あっと、いけない!…笑顔、笑顔っと!)
「ごきげんよう、宍戸様。お国はデンマークでしたわね。フランスはいかがかしら?」
(この人がデンマーク王子で、フランスに遊学中。何人目の王子だっけ?ヤバッ、忘れた!)
(…でも外国に遊学出来るなんて、いいなぁ。うらやましい。)
宍戸「たいへん豊かな国ですね。国土が広くて、うらやましいです。それに、王女様がお美しい。」
赤月「まぁ、お上手。王宮主催の今夜のパーティー、楽しんでくださいね。」
「鳳先生、今夜の曲はあなたが作曲したのかしら?」
(彼は宮廷楽士…王宮で雇っている作曲家で、指揮もするし、自分で楽器を演奏することも出来る。)
(これってポイント高いよね。女性のピアノに合わせたヴァイオリン演奏は貴族男性のたしなみ、だも
の。)
(私もたまにピアノを教わってるから『先生』なのよね。)
鳳 「こ、これは、王女様。なにか、お気に召さない音がありましたでしょうか?」
「この前お教えしましたが、これはウィーンで最近はやり出したワルツという音楽ですが…?」
赤月「ふふっ、誉めているのよ。ダンスのワルツはあまり好みではないけれど…。」
「曲だけ聞くなら悪くないわね。(ワルツって身体を密着させるから私にはまだ…ねぇ?)」
鳳 「ありがとうございます。」
赤月「あら、近衛連隊長の忍足准将。ごきげんよう。いつも警備、ご苦労さまです。」
(王族の護衛をするのが近衛連隊の仕事で、この人は隊長さん。)
(まだ若いのに准将なのは、貴族だから、なんだけどね。)
忍足「もったいないお言葉です、王女様。」
赤月「今日は誰かの護衛?それともあなたもパーティーに招かれていらしたのかしら?」
忍足「ホンマ、お答えしにくいことを聞きますなぁ。…ここはご想像にお任せいたします。」
赤月「あら、教えてくださらないの?まぁいいわ、許してあげる。」
「向日子爵、ごきげんよう。今日はとりまきは一緒じゃないのね。」
(この人は伯爵家の長男で、いわゆる『かわいい』タイプだから、年配のご婦人に大人気なのよね。)
(ウワサはいろいろ聞いてるけど、まぁウワサだもんね。)
(それでも、本人が子爵の位をもらってるのは、伯爵家が由緒正しいから…なのよ。)
向日「みんな、王女様にお声を掛けていただける身分ではないので、逃げて行ってしまいましたよ。」
赤月「あら、私のせいだっておっしゃるの?」
向日「これは失礼いたしました。でも、あなたの美しさに負けを認めて去ったのは事実です。」
赤月「くすっ。そういう甘い言葉で、みんなをとりこにするワケね。」
「あら、樺地中将。もうフランスに戻っていらしたのね。久しぶりの故郷はいかが?」
(海軍将校の彼は、カリブ海まで行くこともあるから、長く国をあけているのよね。)
樺地「…ウス。少し…街の雰囲気が変わりました。」
赤月「あら、そうなの?あまり街には出してもらえないから知らなかったわ。」
(さて、と。どうしても今日、挨拶する必要があったのは今の人たちだけよね。)
(はぁ…。この人たちのうち誰かを夫に選びなさいだなんて、お父様ったら…。)
(まだ結婚なんて考えられないよ。それに、お隣の国イギリスと違ってうちは女王の前例がないんだし。)
(つまり、次の王様を選べってことになるのよね〜。)
→(結婚なんて早いよ。)
赤月(まだ結婚なんて考えられない。でも、私の立場上、そうも言ってられないし。)
→(難しい問題よね。)
赤月(いまの人たちのうち、誰がこの国を治めるのにふさわしいか。…難しい問題よね。)
→(さっぱりわかんない!)
赤月(もう、責任重大すぎ!誰を選んだらいいのかさっぱりわかんないわ!)
赤月(他の貴族の娘だと、親の決めた相手と結婚するのが当たり前だから選べるだけまだマシだけど…。)
(も〜〜〜、ど〜しよ〜〜〜!王族の宿命とは言っても…。私の好みで決めていいのぉ!?)
「きゃっ!」
日吉「危ないっ!」
跡部「貴様、王女の体に触れるとは!身分をわきまえろっ!」
赤月「ねぇ、跡部伯爵。よそ見してぶつかったのは私の方ですよ。彼は助けてくれたんじゃない。」
跡部「ですが、こやつはたかだか1代男爵。王女様と口をきける身分ではありません。」
赤月「あら、じゃあ私があのまま床に倒れて、ケガをした方がよかったっておっしゃるの?」
跡部「そ、そんなことは…!」
芥川「あははははっ。跡部、オメェの負けだろ。王女様を助けたんだから褒美をやったらどうだ?」
跡部「ジロー!?お前、家を捨ててどこぞの画家に弟子入りしたんじゃなかったのか?」
芥川「ああ。お師匠様が宮廷画家として招かれたんで、弟子の俺も王宮に置いてもらってるんだ。」
赤月「あら、ふたりとも知り合い?ジローさんって、もともとは貴族だったの?」
跡部「王女様、ジローをご存じでしたか。」
赤月「この前、肖像画を描いてもらったわ。まぁ、私が練習に付き合ってあげた、ということね。」
芥川「おかげさまで、いい絵が仕上がりそうです、王女様。」
赤月「そう?期待して待っていてよ。あ、そうそう。男爵、え〜っと…?」
日吉「日吉と申します。」
赤月「ありがとう、日吉男爵。おかげでケガをしなくてすみました。」
日吉「もったいないお言葉です、王女様。」
跡部「王女!軽々しくお声を掛けていい相手ではないと、先程から…!」
→「跡部伯爵をさとす」
赤月「落ち着いてくださるかしら、跡部伯爵。この者を許すのも、貴族の器量かと。」
跡部「……はぁ。」
→「跡部伯爵をたしなめる」
赤月「ねぇ、跡部伯爵。あなた、ばあやよりも、うるさいわ。私って、お礼も言えないのね。」
跡部「ば、ばあやより!?…王家の権威が損なわれると申し上げているのです、王女!」
忍足「王女様、おケガがなくてなによりでしたな。」
跡部「忍足、お前がついていながら、どういうことだ?」
忍足「目を離したんは近衛兵です。あとでキツく叱っときますからそこまで声をあらげんでも…。」
赤月「ケガしてないのだからいいわよ。忍足准将、叱ると言ってもほどほどにね。」
忍足「ありがとうございます、王女様。」
赤月(ふぅ、せっかくのパーティーなんだし、どうせなら楽しくやらないとね…。)
跡部「フランス王国の栄華を祝して、乾杯。…そして、王女様に永遠の忠誠を!」
一同「永遠の忠誠を!」
跡部「おや、お疲れですか?お顔の色が、冴えないようですが…。」
赤月「少し、ひとりになりたいわ。テラスにいるから…」
赤月(あー、疲れちゃった。王女するのも大変よねー。)
☆鳳
鳳 「こんなところにいらしたんですか?風にあたりすぎると毒ですよ。」
赤月「あ、鳳先生…。少し、人いきれで気分が悪くなってしまって…。」
鳳 「…先生はよしてください。俺はただの地方貴族の息子です。」
「それより、ジュースをお持ちしましたが、飲みますか?」
赤月「あ、ジュース!ありがとうございます。もう、喉カラカラで。」
「ふぅ。少し落ち着きましたわ。ありがとうございます。」
「…それで、さっきの話ですけど。」
→「先生は先生よ。」
赤月「ピアノの先生だから『先生』ってお呼びしてるんです。」
「やめてほしいのなら、鳳先生もレッスンのときみたいに話してください。」
→「身分は関係なくてよ。」
赤月「これには身分は関係なくてよ。貴方は私の先生だから『先生』ってお呼びしてるんです。」
「やめてほしいのなら、鳳先生もレッスンのときみたいに話してください。」
→「他の呼び名がよろしくて?」
赤月「他の呼び名がよろしくて?貴方だけの、特別な。」
鳳 「女官や兵に聞かれます。されごとはおやめください。」
赤月「今をときめく有名作曲家の先生が、どうしてこんなに腰が低いのかしら?」
鳳 「みんなの要求どおりの曲を書いているだけです。だから、気に入られている…。」
赤月「…先生が書きたいのはもっと違う曲なんですか?」
鳳 「前にザルツブルグから来た作曲家がいたでしょう?彼のような天上の音楽を書いてみたいよ。」
「俺にそこまで才能があるかどうかわからないけど…。」
赤月「ザルツブルグから?ああ、かなり前に来たあの人…。雇ってあげられなかったけど。」
「すごく子供っぽい人だったわ…。大声で笑って、下品で。買いかぶりすぎじゃない?」
「ザルツブルグに戻ってから、最近は低俗なオペラばっかり作ってるって言うじゃない。」
鳳 「…子供っぽい態度で、人と折りが合わずに損をしているだけですよ。彼は神がつかわした奇跡です。」
赤月「まぁ、単純なメロディだけど、きれいな曲ではあるわね。ピアノの練習曲も悪くないし。」
鳳 「いずれ、バッハと並ぶ大作曲家だと世間にも知れわたるようになると俺は確信していますよ。」
赤月「天上の音楽…天国の音楽かぁ。」
→「そんなの、ある訳ないですよ。」
赤月「そんなの、ある訳ないですよ。今まで書き上げた人がいないし、…歴史が無理だって言ってます。」
鳳 「確かに…でも、諦めたらそこで終わりです。俺だって、いつかは書いてみたい。」
→「どんな音楽なんだろう?」
赤月「どんな音楽なんだろう?きっと素晴らしいんだろうなぁ。」
鳳 「そうですね。まだ、今の俺には想像すらつきませんが、いつかはそんな曲を書いてみたい。」
→「本当にあるのなら聞いてみたいな。」
赤月「本当にあるのなら聞いてみたいな。先生、頑張って書いてよ。」
鳳 「努力は…していますよ。いつだって。」
赤月「あ、でも、もし王様になったら作ってられないですね。」
鳳 「俺が王にだなんて、冗談じゃないですよ。」
赤月「それって、私と結婚するつもりはカケラもないってことですか?」
鳳 「そうじゃなくて!俺は、そんな器じゃないって言ってるんです。」
赤月「別にいいじゃない。外交や国内の政治は、やれそうな人に任せれば。」
「跡部伯爵なんて、喜んでやると思うわ。」
鳳 「王女、本気ですか?本気で相手は俺がいい…とおっしゃるんですか?」
赤月「え?その…そこまでは…。まだ結婚なんて、よくわからないし。」
鳳 「…だと思いました。人をからかわないでください。いや…男をなめないでください。」
赤月「…鳳先生。(あっちゃぁ〜。怒らせちゃった?ち、違う?なんだろ…?)」
「ごめんなさい。」
鳳 「いえ、俺こそキツい言葉をつかって大変失礼なことを…。」
「…俺が候補に上がっているとは聞いていました。だから、王女さえその気なら…。」
「それに、今おっしゃったように俺では足りない分を誰かが補えるというのであれば…。」
「真剣に考えていただきたいと思います。俺とのことを。」
赤月「はい。からかうつもりはなかったんです。…真剣に考えます。」
鳳 「そんなに、おびえないで。すっかり怖がらせてしまったかな。」
赤月「いいえ、怖がってなんか…。私、中に戻ります。風にあたり過ぎたみたい。」
赤月(あ、あらら…?追いかけてきてくれないんだ。)
(う〜ん…。もうちょっと、付き合えばよかったかなぁ?)
(…ま、いっか。次のパーティーのときにでもまた話せばいいよね!)
(疲れるパーティーもあの人と話せる場所だと思えばちょっとは楽しみかな…。)