隣の席のみよじなまえはいつも外を眺めている。いつも一人でいるが、がり勉の地味な女の子というわけではなく、女子には珍しい群れないタイプの子だった。初めて席についた時に社交辞令で個性を聞くと、内緒と返されそれ以来会話という会話はしていない。親しい人がいる様子はないのに、昼休みになるとすぐに教室から出ていくし、帰りのHRも終わるとすぐに帰る。とにかく謎が多いのがみよじなまえだった。
 ある日、授業が自習になった。静かに自習するように、と告げて出て行った先生だが、静かに勉強する人などおらず、すぐに騒がしくなった。そんな中彼女がぽつりと言葉をこぼした。

「邪魔だなあ…」
「…何が邪魔なの?」
「え、いや、別になんでもない」

 数か月ぶりの会話だった。外を見ながら言ったその言葉は穏やかではない。多少気にはなったが、なんでもないと言って笑う彼女の顔は誰にでもわかるくらいの作り笑顔で、何も聞くなと言われているようだった。
 親にどうしても買ってきて欲しい物があると連絡があり、仕方なく学校からスーパーに向かった。買い物を終え、家へと帰る道を歩いていると少し変な歩き方をしているみよじを見かけた。どうせ素っ気なく返事をされるだろうが、挨拶すべきかどうか迷いながら彼女を見ていると、立ち止まったり少し歩いたり小走りになったりしていてどう見てもおかしかった。何かあるのかと思い、みよじの視線の先を辿ると、1年A組の轟焦凍がいることに気が付いた。まるで後をつけているようだった。それを見た後にみよじに声をかける勇気もなく家に帰った。
 次の日からどうしてもみよじが気になってしまい、昼に一人でどこに行くのだろうと後をつけてしまった。2階の空き教室に入ったみよじは窓側に座り下を見ながら昼ごはんを食べていた。その視線の先は轟焦凍なのだろうか。3階の空き教室から下を眺めてみた。そこには予想通り轟焦凍が一人でベンチに座って昼ごはんを食べていた。この日からたまに彼女のあとをつけてみたが、やはり昼も帰りも轟焦凍を追いかけていた。
 彼女が轟焦凍のストーカーだとわかったところで俺がどうこうするわけもなく、今まで通り過ごしていたある日の朝、急遽全校集会が行われた。最近1-Aが暮らしていた寮が何者かに火をつけられ半分程燃えたらしい。セキュリティが行き届いてるはずの寮だが、少しずつじわじわと燃やされたようで気づくのが遅くなり、気づいた瞬間に燃え上がったようだ。計画的犯行。敵の仕業だろう、注意を怠るなと先生は言った。誰もが敵の仕業だと思っているだろうが、俺だけは違う。きっとみよじだ。いや、みよじに違いない。彼女は自分の個性を内緒だと言った。別にこういう事をするために隠していたわけではないだろうが、いつかやるかもしれないからそう言ったんじゃないだろうか。邪魔だと呟いたとき、彼女の目線の先は寮だったんじゃないだろうか。集会が終わってすぐに、担任の先生に彼女の個性を聞いた。そういうことは本人に聞けよ、コミュニケーションコミュニケーション、と笑いながら言った彼女の個性はやはり炎だった。先生に対しお礼も言わずに俺は教室へ走った。いつもと変わらず外を眺めているみよじに近づくと、薄く笑っているのか見え、今までに感じたことのない程の恐怖が俺を襲ってきた。

「な、なあ、寮、燃えたらしいな」
「…え?ああ、そうみたいだね」

 そういって笑う彼女の笑顔は、やはりどう見ても作り笑顔だった。