10年ぶりに戻ってきた赤塚で偶然再会した相田さんとなぜかお茶することになり、同窓会に無理やり参加を取り付けられ断れない自分を呪いながら帰ろうとすると私の大嫌いな松野に遭遇した。一瞬どの松野だろうかと考えたが、紫色のパーカーを着ている彼を見て松野一松なのだと思った。変わっていない彼らの見分け方が私を不快にさせる。それをつい顔に出してしまい、目を逸らしてどう逃げようかと考えていると彼はよくわからない事を言って走り去った。彼が何のためにその言葉を私にかけたのかは分からないが、知りたいとも思わなかった。

*

 同窓会当日、糞上司のせいで定時に終われず急いでお店へ向かった。案内されたところですぐ皆に謝罪をすると、聞いたことがあるような声で各々返事をくれた。どこに座ろうか見渡すと、ついこの間会った顔が座っていた。服の色はピンク。この世で会いたくないベスト7に入る松野トド松だ。話しかけられたら困るので、すぐに目を逸らし丁度空いていた相田さんの隣の席へ向かう。

「ねえ、松野兄弟は呼んでないって言ってたよね?」
「ごめん!さっきたまたま会って誘っちゃった!そんなに仲悪かったっけ?」

 そう聞かれて私は答えに詰まった。何も言わない私に相田さんは首を傾げるが、あまり深く聞かれたくないので曖昧に返事をして話題を切り上げた。とにかく彼と目を合わせないように、そしてそれが不自然に見えないよう心がけてこの同窓会を乗り切ろう。そう心に決めて酒を煽った。彼氏できた?というお決まりの話題で盛り上がる相田さんたちの話を聞き流しつつ、自分に話を振られないように躱していたがその努力も虚しく、浮いた話は全くないと答えざる負えなかった。
 そろそろ解散かな?と店の時計を見たときに、此方を見ていた彼と目が合った。最後の最後で気を抜いた私を殴りたい……。数秒目を合わせたままだったが、相田さんにどうしたの?と声をかけられ自然と彼から目を逸らせた。

「そろそろいい時間じゃないかな?私、明日も仕事だからそろそろ帰らないと」
「わっほんとだ!みんな〜そろそろお開きにしましょう〜」

 相田さんの一言で皆が帰る準備を始める。彼と帰る方向が同じだったらと思うと怖くなり、急いでお金を取り出し帰ろうとすると、名前ちゃんだよね?と声をかけられた。振り向かなくてもわかる。松野トド松だ。あとは帰るだけだったのに、どうして今更……。

「あのさ、今度二人きりで会えないかな?綺麗になったよね、なまえちゃん。あ、今彼氏いないんだよね?僕立候補したいんだけど、どうかな?とりあえずLIME交換しよう!友達からでもいいからさ!僕今フリーターだからなまえちゃんの都合に合わせるよ」

 この男は一体何を言っているんだ……いや、何を企んでいるんだ?それとも昔自分達が私にしたことを忘れてしまったんだろうか。もう一人の被害者である彼と仲が悪いわけじゃなかった。弱井さんを通してだが、よく話していたと思う。彼が、私がやるとは思えないと言ってくれさえすればきっとあんなことにはならなかったはずだ。つまり彼は少なからず私を疑っていたのだ。何事もなかったかのように接してくる彼らと、変わらず怯えている私。そんなこともあったね、なんて笑って言えるように、私も彼らのように変わらなければいけないのだろうか。……そんなの無理だ。忘れたくて忘れらるような出来事ではなかったし、忘れられるんだったらとっくの昔に忘れてる。昔のことをふと思い出すたびにこびりついてくるあの出来事を頭の片隅に追いやって昔のように仲良く笑って過ごすことなんてできない。したくなんか、ない。何も言わない私に松野トド松が再度声をかけてくる。連絡先の交換なんて断りたい気持ちでいっぱいだが、皆がいる前で断れるはずもなくされるがままにLIMEを交換させられる。綺麗?立候補?友達?何を考えているのかわからない彼が、怖い。この状況からとにかく逃げたくて私は一人で先に店を出た。

「なまえちゃん、またね」

 そういった彼は、携帯を持ちながら笑顔で私に手を振った。彼の言葉で心臓が波打つのは、期待なのか恐怖なのか。