携帯の目覚ましで目を覚ますといつもの寝室ではなかった。ただ、どこか懐かしい部屋だった。昨日は少し夜更かしをしたくらいでいつも通りベッドで寝たはずだ。よくわからないのでもう一度布団に入ろうとすると、母が部屋に入ってきて学校に遅れるよと私に言った。学校なんて数年前に卒業してるし、両親は離婚していて私は父と一緒に住んでいたはずだ。夢かな?と思い少し体を抓ると痛かった。どうやら夢ではないようだ。よくわからないが私はこれから学校に行かなければならないらしい。考えることを放棄し、とりあえず準備をしようと部屋を見渡してみると、昔の自分の部屋に似ていた。ハンガーに制服がかかっていたのでとりあえず着替えることにした。通っていた学校の制服とは違うが、携帯を持っているので中学ではなく高校だろう。リビングへ行くと母がご飯の準備をしていた。私の知っている母ではあるが、性格は少し違うようだ。なぜなら母は料理ができなかったからだ。用意された朝ご飯を食べながらテレビを見ていると、どうやら今日は4月7日らしい。制服だけだとどこの高校に通うのかはわからないが、母に通う高校は何高校だっけなんて聞けないのでとりあえず家を出た。
外に出ると、ちょうど隣の部屋に荷物が運ばれて来ているところだった。こんな朝早くから引っ越しなんて大変だなあと思いつつ通りすぎようとすると格好いいお兄さんが今日からよろしく、なんて軽い挨拶をしてきたのでこちらも軽く挨拶をした。どこかで見たことあるような顔だった。
家の外は住んでいたところにそっくりだった。とりあえず通っていた高校の道を辿っていくと、同じ制服を着た人たちが同じところに向かっているのがわかった。地名やお店の名前は変わってるけど、道はだいたい同じのようだ。学校に着くと、どうやら今日は入学式で、私は新入生のようだ。入学式と書いてある立て看板の横で写真を撮ってる親子を見て、昔は私も母と一緒に撮ったことを思い出し何とも言えない気持ちになった。私は一体何高校に通うのかと学校名を見ると、そこには見たことがある名前が書いてあった。
「……帝探高校」
これは夢だ。でなければ漫画に出てくる高校が目の前にあるわけがない。再び体を抓るが、変わらず痛みを感じた。きっと痛みを感じる夢だ。深く考えるのも面倒だし、考えても仕方がない。覚めるまではもうどうにでもなれ!と私は入学式へと足を進めた。
校長先生の長い話を聞いてるときに、朝のお兄さんが誰なのかを思い出した。萩原研二だった。彼が生きているということは、まだ工藤新一はコナンにはなっていなくて、物語は始まっていないということになる。つまり、ここにまだ彼らはいないので少し安心した。コナンは普通に好きだったけど、特定のキャラが好きだっただけで話の流れや内容はほとんど知らない。何より事件に巻き込まれるのは御免だ。なので、彼らには極力関わらないよう心がけ、よくわからないこの生活を早く終われと思いながらなんとなく過ごした。そんなある日に、爆発事件のニュースが流れた。ああ、萩原研二が死んだのかなと思った。正直彼についてそこまで知らないし、意図的に避けていたので、たまに挨拶する程度で特別悲しいという感情はわかなかった。テレビでよく見る、知らない人への可哀想に……という思いだけだ。11月7日の事件だった。
次の日目を覚ますと、11月にしては暖かい朝だった。いつも通り学校の支度をして家をでると、隣に誰かが引っ越してくるかのように業者の人が荷物を運び入れていた。萩原が死んだのならば、荷物を入れるのではなく出すんじゃないだろうか?まあ、私が気にしても仕方がないので邪魔にならによう端に寄りながらエレベーターへ向かうと、中から出てきたのは萩原だった。死んだはずの萩原がまた、隣に引っ越してきた。いつもはおはようと挨拶してくれたが、今日はそれがなかった。私の事を知らないようで、見向きもしなかった。訳がわからず学校へ行くと、入学式という立て看板が校門にかけてあった。慌てて携帯を見ると、今日は高校の入学式の4月7日、私のこの変な生活が始まった日だった。全く訳が分からないまま、これは夢、これは夢と思いながら同じように2度目の帝丹高校生活を送った。そうして特に問題なく過ごした2度目の11月7日に前と変わらない爆発事件のニュースを見た。次の日はまた4月7日だった。3度目の4月7日に頭を抱えながらも、再度夢だと自分に言い聞かせ帝丹高校の校門を跨いだ。しかし、3度目の高校生活はうまくいかなかった。一度仲良くなった子と一から仲良くして過ごしていくのは難しく、無意識のうちに前に聞いたことをポロっと言葉にしてしまった。なんで知ってるの?と言われ、誤魔化すことが多々あった。そんな私を、皆は段々気味悪がった。仲間外れにされることが増え、無視されるようになり、いじめに発展した。テレビでよく見た"いじめが発覚!"というニュースを、可哀想にと他人事で見ていたことが今自分に起きている。もちろん学校は見て見ぬふりだし、こっちの親には言えなかった。言って解決できることでもない。いじめられてまで生きて、もしかしたら4月7日にまた戻って終わらない高校一年生を過ごすために今頑張って耐える必要なんて、あるのだろうか……。そう思いながら、彼女達に見せしめるように下校時間に屋上から飛び降りた。とてつもなく痛かったような気がした。
目を覚ますと今はもう見慣れた自分の部屋で、もう少ししたら、母が学校遅れるよと言いに来るだろう。携帯を見ると4月7日と表示されている。どうやら私は死ねないらしい。また家を出ると萩原が引っ越してきていて、これからよろしくお願いしますと言葉を交わすのだろう。このわけがわからない生活を無理やり受け止めて過ごしてきたが、もう夢なんだと自分を誤魔化すことはできない。私はもう、帰れない。
ならばどうしたら先に進めるのだろうか。