中学生になって約三ヶ月。もうクラスにも馴染み、トト子ちゃんという可愛い友達もできた。なんと私の学年には世にも珍しい六つ子がいる。そして全員いたずら好きのせいか不良グループと仲がいい。だからといって怖いわけではなく、むしろ優しいため女子には人気である。そんな六つ子とトト子ちゃんは幼馴染みらしく、よくトト子ちゃんに会いに私たちのクラスに顔を出す。そのおかげで私も六つ子と話す機会が増えた。
 それから恋に落ちるのは簡単だった。私が好きになったのは六男のトド松くんだった。好きになってからはすぐにいろいろアプローチをしてみた。可愛い物の写真をメールで送ってみたり、お出かけしたらちょっとしたお土産をあげた。すれ違う度に話しかけたし、遊びに誘ってみたりもしてみた。ちなみに遊んだくれたことはない。頑張ってアプローチしてもトド松くんはトト子ちゃんばっかり。諦めようかな、と何度思ったことか……。結局諦められず、私はアプローチをし続けた。
 ある日トト子ちゃんが風邪でお休みした。いつも休み時間はトト子ちゃんと話してたから、お休みだと一人になり寂しかった。トド松くんはトト子ちゃんがお休みのせいか遊びに来ない。とてもショックである。お昼休みになり、トト子ちゃんにメールをした後なにしようかな〜と考えていたら一松くんにいきなり話しかけられた。
「お前トド松のこと好きだろ。見てたら分かる」
一松くんはそれだけ言って去っていった。そんなに分かりやすかっただろうか。おかしいなあ、トト子ちゃんにはばれてなかったのに……。

*

 それから一ヶ月後、事件は起こった。トド松くんの悪口が書いてあったメモが見つかったらしい。そして六つ子と仲のいい不良グループが犯人探しを始めたのだ。誰が犯人か検討もつかないようで、目星をつけて呼びだしているらしい。みんな自分が呼び出されたらどうしよう、とビクビクしていた。もちろん私もだ。
 その数日後、部活がミーティングだけだったのでトト子ちゃんと買い物に行くことになった。終わるまで待ってもらっていたので走って待ち合わせ場所の自分のクラスへ向かった。扉を開けると、六つ子と不良グループの子が何人かとトト子ちゃんがいた。そしてなぜかみんな私を睨んでいる。トト子ちゃんに視線を向けるとなぜか逸らされた。あれ、これって……?

「なあ、お前だろ?トド松の悪口書いたやつって」

 六つ子の誰かが言う。
私が、トド松くんの悪口を書いた?トド松くんを好きな私が?おかしな話だ。……ああ、私は疑われているのか。好きな人に。一番仲良しだったトト子ちゃんに。そして私の気持ちを知ってるはずの一松くんにも。

「やって、ません……。」

 何分たっただろうか。何度やってないと言っても無駄だった。証拠は?やってないって誓える?やってたらお前のこと殴るよ?本当にやってない?まるで脅されているようだった。やりましたと言えと。好きな人にそんなことできるわけがない、なんて言えるはずもなくただただやってませんと答えていた。

「結局私が何度やっていないと言っても、あなたたちが私を犯人だと決めつれば私は犯人なんでしょう?」

 そう、ここにいるみんなが私を疑っている限り、みんなの中で私は犯人なのだ。私が何を言おうとみんなには届かない。トド松くんにもトト子ちゃんにも、届かない。

「こいつまじなにいってんの?意味わかんねーわ。時間の無駄だし帰ろーぜ。」

 誰が言ったかはわからないが、助かった。解放される。教室をでようとするトト子ちゃんと目があったが今度は私が逸らした。やっと、終わった……。結局私がやってないって納得はしてくれなかった。でももうなんでもよかった。私はトト子ちゃんの中でも、六つ子の中でもちっぽけな存在だった。むしろ存在などしていなかったのかもしれない。
 その日の夜、トト子ちゃんからメールが来た。

「なまえちゃんが犯人じゃなかったみたい!なんか疑ってごめんね!みんなもそういってた!」

 次の日から卒業するまでの間、私はトト子ちゃんと六つ子と言葉を交わすことはなかった。
 10年経った今でも、私は松野兄弟と弱井魚魚子が大嫌いだ。