中学に入って人生初めての女友達ができた。女の、というよりおそ松くんたち以外の友達が初めてだった。すごく嬉しかった。彼女とすること全てが初めてのことだった。朝登校したらおはようから始まって、休み時間もいっぱい喋れて部活がない日は遊ぶ。学校が終わればお家に遊びにいったし遊びにも来てもらった。一緒にお菓子を作ったり、ショッピングに行ったり。今までに体験したことない、お友達との学校での時間と学校外での時間。こういうことを女の子としたかった。
 私は彼女のことで頭がいっぱいだった。そんな私に久しぶりに会いに来たおそ松くんを見てはっとした。そうだ、彼らはコミュニケーション力が高い。高いがゆえに私から彼女を奪うんじゃないか。それだけは阻止しなければ。初めてできた友達を彼らにとられたくない。
 しかしそんな心配は不要だった。おそ松くんたちは私にしか興味がないようで、彼女とは軽く話す程度だった。心の底からほっとした。
 風邪をひいてしまった。頭がボーッとする。ふと携帯を見ると彼女からメールが来ていた。私の体調の心配と、一人で寂しいという内容だった。それを見て彼女には私しかいないと思えて嬉しかった。いっぱい寝てすぐ治そう、彼女のために。
 なんとその日に治った。友達ってすごい。
 次の日、いつもより少し遅めに登校した。そこには私の席に座っているトド松くんと、その前の席に座って楽しそうに話している彼女がいた。その光景をみて私は彼女がトド松くんを好きだと知った。考えてみたらトド松くんにだけやたら話しかけていたような気がする。彼らが彼女に興味がないからと油断していた。トド松くんは彼女のこと何も言ってなかったからなんとも思ってないんだろうけど。
ああ、知りたくなかった。トト子だけのなまえちゃんでいて欲しかった。トド松くんにそんな笑顔を向けないで。私だけに笑って。私だけを見ていて。いかないで。私をまた、一人にしないで。そんなことを考えて教室の前で立っていると彼女が私に気づいておはよう、と笑った。そうだ、まだ大丈夫。彼女の口から聞いた訳じゃない。知らないふりをすればいい。そう言い聞かせた。
 とにかくトド松くんの話題は避けた。トド松くんの話をしなければ今まで通りの私たち。私は何も知らないし、彼女も何も言わない。これからも、ずっとこのままでいられる。
 そう思っていたある日、おそ松くんたちが私にメモを渡してきた。とりあえず見て欲しいと言われた。そのメモにはトド松くんの悪口が書いてあった。あ、この字は……。喜びそうになった自分をぐっと押さえた。彼女はトド松くんを好きではなかった。その事実が、ここにある。やっぱり彼女はトト子だけのもの。嬉しい。

「この字、彼女の字だよね……?」

 トド松くんがぽつりと呟いた。うん、そうだね。そう言った瞬間おそ松くんたちの顔つきが変わった。それを見た私はやばいと思った。しかしそれはもう手遅れだった。兄弟のことで怒った彼らを止めることはできない。彼らはとても兄弟思いなのだ。
 次の日彼女を教室に呼び出すよう言われた。彼女の字だと肯定してしまった手前、断ることができなかった。ああ、どうしよう。私のせいで彼女が責められてしまう。教室に入ってきた彼女と目が合った。でも、どんな顔をすればいいのかわからずすぐに逸らしてしまった。ごめんね、なまえちゃん。あの時、トド松くんのことを好きじゃないと思ったら他の事を考える余裕がなくなったの。本当に、ごめんなさい。なまえちゃんがそんなこと書くわけないのにね。そんなこと考えている間も彼女はみんなに責められ続けていた。自分のことで頭がいっぱいでちゃんと聞いていなかった。終わったのかな?あ、目、逸らされた。そして私はトド松くんに腕を引かれる形でその場をあとにした。
 結局彼女が書いたわけではなかったらしい。謝りたい、彼女に。でもなんて声をかけたらいいのだろうか。気まずくなるのはもちろん初めてだった。悩んでいると、おそ松くんがいつも通りでいいんじゃない?と言うので、いつもの感じで謝りのメールを送った。
 返事は来なかった。