中学を卒業してから今まで彼女を見かけたことは一度もなかった。
家にも行ってみたが会いたくないようで出て来てくれることはなかったし、学校で話しかけようとしても避けられ続けた。結局あの日から卒業まで彼女と一言も言葉を交わすことは出来なかった。そして卒業を境に彼女は引越したため、見かけることすらなくなった。
 あれから十年。私は今でも彼女を追い求めている。なんでこんなにも彼女に執着するのか。最初にできた女の子の友達だったからだと当時は思っていたが、今ではこれが恋なのだとはっきりわかる。私は彼女に恋をしているのだ。だからあの時彼女に好かれていたトド松くんに嫉妬していた。ライバルだと思っていた。
 彼女に私を見て欲しいがためにアイドルを初めてみた。もちろんちやほやされたいというのもある。有名になればテレビに出れるし、テレビに出れば嫌でも彼女は私を見ることになる。私のことを少しでも考えてくれる。思い出してくれる。友達にアイドルの子がいるっていうだけでステータスだと思わない?うん、誰だって思うはず。だから有名になればきっと、彼女も私と友達に戻りたいって思ってくれる。
 現実は甘くなかった。すぐに有名になんてなれなかった。チョロ松くんの好きなあの猫アイドルでさえ地下でライブをして握手会もやっている。ちゃんとファンがいる。あの子より私のほうが絶対可愛い。でもそんなあの子より私はダメらしい。つまり可愛いだけではだめなのだ。それでも諦められなかった。彼女にどうしても今の私を見て欲しかった。
 実家が魚屋のせいで魚については割りと詳しいので、とりあえず魚アイドルとして活動してみた。まあ、結果はやっぱりダメだった。
チョロ松くんと次のライブの打ち合わせが終わり、一人で今後の活動について考えようと思い街を歩く事にした。服とか見たら何か思いつくかもしれないし。
 最近新しく赤塚カフェというオシャレなカフェが出来たの思い出す。雑誌に乗っていてとても気になっていた。こういうお店は中学の時に彼女と行ったのが最後だ。あれから一度も行く事はなかった。行けなかった。行く人がいなかった。つい考えてしまう。このカフェに彼女と笑って行ける日は来るのだろうか、と。…ううん、絶対来る。そのために有名になってみせる。
そのカフェの目の前を通る際に店内を覗いてみた。本当に、ちらっと覗くだけ。

「…え?」

 思いがけない光景に立ち止まったが、すぐに歩きだす。そこには少し大人っぽくなった彼女がいた。わずか数秒の出来事がすごく長く感じた。間違いない、絶対に彼女だ。私が彼女を見間違うはずがない。本当にたまたま通っただけだった。これはきっとただの偶然じゃない。私と彼女は巡り合う運命なのだ。このカフェにいるということはまたこっちに戻ってきたということ。だったら、私が有名になれば会いに行ける。今はまだ会えないけど、すぐに。そう思うと自然と歩く足が速くなる。
嬉しい。やっと、やっと…

「見つけた、私のなまえちゃん」