Fantastic


とある日の朝。

今日も朝から気分爽快絶好調!のオレはるんるん気分でロビーへと顔を出す。
…ん?話し声が聞こえる。皆が起き出すより少し早い時間だけど、誰だろう。

(あ、なーんだあの二人か〜)
椅子に腰掛けて座る後ろ姿は、東金さんと茉莉ちゃんカップルだ。こんな朝っぱらから二人で会ってるなんて…意味深ー。


「どうしましょうか、これから」
「まずは子供服に着替えさせた方がいいだろうな」


子供服?


「……。こうしてみると、ふたりがふうふにしかみえない」


?? 二人ではない幼い声が聞こえた。


「見事にひらがな変換だね…っていやいやいやいや、フウフとか、なに言ってんの!」
「まだ早いな」
「千秋さんも話にのらないでくださいよ!!」


その声は優香ちゃんに似ている気がしたけど、それにしては呂律が回ってない。小さい子どものようなたどたどしいものだ。

まぁそんな子が朝からココにいるわけないよね。ってことで。
ここで立ち聞きも飽きてきたことだし、なによりあの二人にただならぬ事件が起きたんじゃ。優香ちゃんと話が盛り上がりそうなネタがうまれそうかも。


「朝っぱらからアツアツなおふたりさーん!おっはよう!」


後ろから声をかけると「げっ!」振り返った茉莉ちゃんがオレを見て顔をしかめた。
んん?オレ挨拶しただけなんだけど、そんなに二人の邪魔をしたのがカンに触ったのか。対する東金さんは「むしろ好都合なヤツがきたんじゃないか?」なんてくつくつ笑ってるし。
いったいなんなんだ。


「………?」


視線を下に落とすと、東金さんと#まりお#ちゃんの間に小さな女の子がちょこんと座っていた。
両肩が上がってて手を力いっぱい握ってていかにも緊張してます、なその子。うつむいてるから顔はよく見えないけどその面影は初めて会った優香ちゃんと重なって見えた。……似てるなぁ。

あじゃあさっきの声はこの子か。背丈がないから見えないのもあたりまえだ。
―――にしてもどうしてこんな小さな子が。


「は…!まさかお二人の!隠し子?!」

「えええええいやいやいやありえないありえない」
「初めから責任とるつもりだぜ?」
「ちょっとなに言ってるかわからないですねええええ!!!」


夫婦漫才(?)は置いといて。気になるのはその女の子。屈んで「こんにちは」と話しかけると、恥ずかしそうに茉莉ちゃんの背に顔を隠した。かわいーなー。


「あれ?優香ちゃんどうしたの、愛しの水嶋くんだよ?」
「だ、だってこんなちいさくなったところ、はずかしくて!」

「………え?」


優香ちゃんと言ったのか。いま。
会話が成り立ってるあたりさっきのは聞き間違えではなさそうだし。(どういうこと?)同じ現場にいる東金さんに目でうったえるとニヤリと口角をあげて笑うだけ。あ、この人楽しんでる。

あたまの中であれやこれやと考えてくうちに、もしかして、という出来事が思い浮かんだ。いやでもそんなまさか。

しばらく固まっていたんだろうオレに、「あのね?」茉莉ちゃんが話を切り出した。


「この子は―――あなたの彼女さんです」


その、もしかして、が的中してしまった。



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