I can't be your friend


「ソラくんおはよー」
「………はいどーぞ」
「はや!何も言ってないのにオレンジシャーベットが目の前に」
「毎回こっぴどくオレンジオレンジ千秋さんあげるとかぴーちく騒いでたら嫌でも覚える」
「ど、どーも」


とにかく煩かった。変な商品を買ってはきゃいきゃいレジの前で騒ぐはお目当てのオレンジシャーベットを買った時は贈る相手の自慢話を仕事中の僕に勝手に話始めるは。君は都会に孫を持つ田舎の御老体かなにかだろうか。

心底めんどくさかったためいつも聞き流していたがどこをどうしてか、この客はBPで支払いをする。それに目を疑ったが背負う楽器ケースを見て、またその楽器が本人に似合った楽器だったから笑った。この人の音楽が安易に想像できたから。それが第一印象。


「…今日はお友だちさんはいないみたいだね」
「そう!意中の彼とデートですって!」
「ふーん」
「え、まさかソラくん、優香ちゃんのこと!?」
「少なくとも気狂いな君よりは好意をもてる相手だと思うけど」
「………客に向かってキチガイとはなんたる店員」
「なに?上に話してオレンジシャーベットもう入荷させないよ」
「これからもお得意さまとして通わせていただきます!」


表情豊かで愛くるしい、というフレーズをよく聞くがこの人の場合愛くるしいもなにもうざったい。直情過ぎて何も考えてなさそうな、そう、考えるよりもまず行動派。かと思えば変なところで遠慮する。とにかくよくわからない。僕の苦手なタイプだった。

苦手なのだが、少し気がかりなことがある。

お会計はBP。慣れた手つきで彼女は僕の手のひらに自身の手を重ねた。ああ、やっぱり。ここ何日かで貯まってきてる。


「………急にどうしたの」
「へ?なにが」
「BP。今までの倍稼いできてるけど」
「あーもしかすると。最近音の調子が良くってさ、曲練してるといつの間にか人が寄ってきたりするから…それのおかげ?」
「ふーん」
「なにその笑顔」
「小さな頭でよく考えてみれば?こっちには丸分かりだから」
「え、」
「まいどありがとーございます。またどーぞ」


どさり。商品を入れたレジ袋を彼女の前に突き出す。何か言われる前にさっさと出ていってほしいから、荷物を受け取ったのを確認して、ぽかんとしてる能天気女の背を軽く前に押した。
流れるままにそのまま自動ドアに受け入れられコンビニから出ていく姿をみて息を吐く。

あのままいたら質問攻めにあっていただろう。面倒極まりない。

半ば強制的にコンビニから出されたあんただ。どうせこの後すぐに切り替えしてくるにちがいない。


「ソラくん!さっきの詳しく!」


ほらやっぱり。
もちろん僕はしらを切って品出しを始める。

その手にぶら下げてる袋の中身、溶けるから早く渡しに行ったらどうだろうか。その相手のおかげで君はいい意味で変わったんだから。


………なんて絶対口にするもんか。短いつきあいなのに。まるで僕があんたのこと本当に気にかけてるみたいじゃないか。



(僕は美味しく頂ければそれでいい。彼女は僕ののために動いてくれる働き蜂。それだけだ)



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