I want a present


キィの間の狭い場所を丁寧に掃除をする。日頃の手入れがいいからだろう、あまりよごれが目立たず癖も見当たらない。さすが、BPでお会計を済ます子なだけあって楽器の愛着も人より高いんだろう。


「はい。メンテナンス終わり」
「ありがとうございます!」
「大切に扱ってるんだね。ほとんど癖がなかったよ」
「ほんとですか?フルートとは長い付き合いですからね〜」


となりで見学してたうちのお得意様、兼この楽器の持ち主はえへへと笑う。ここ、横浜でバイトを始めるその前からここに通っていたらしい君は、俺と初めて会ったときのよそよそしさはなくなり今ではくだけた態度で接するようになった。働いてる俺としては嬉しいことだ。なにより音楽が好きな可愛い子だしなおさら。

? ふと、いつもより静かな部屋に違和感を感じた。…ああ、あの子がいないのか。こういう時に横入りしてくる君の友人の姿が見当たらないことに気が付いた。


「そういえば、いつも一緒にいる子は?」
「茉莉ですか?今日は東金さんと出かけるって言ってたんで…」
「東金って、東金千秋?」
「はい。ふふふ、今ではいい感じなんですよ」
「へぇ…まさか西の覇者があの子にね」
「もう茉莉もデレッデレでしてね」
「君は?」
「へ?」
「君も恋をしてるのかな?」
「わ、私は、えっと〜………なんといいますか…」
「はは。その様子だと進行中かな?君も隅におけないね」


悪戯に笑うと君は頬を赤くしうつむいてしまう。女の子らしい可愛い反応をするものだからそりゃ健全な男たちは黙ってないだろう。かくいう俺もお気に入り、として君を見てる一人である。


「お兄さんもなにか楽器やってるんですか?」
「なんだと思う?」
「…サックス」
「お、それはいいね。今度吹いてみようかな」
「本当はなんの楽器やってるんですか…」
「そうだな。とある知人は君と同じフルートを吹いてるよ」
「今はお兄さんのことを聞いてるんです!」


別に隠すことではないがさすがに話題を逸らしすぎてしまったか。如何せん深く関わってしまうとそのとある知人とやらが煩いからな。観念した君は息をつきながらさっき俺が淹れたラテをひとくち。その間にお詫びのクロスでもそっと楽器ケースにしのばせておこう。(おまけに魔法もね)


「演奏会頑張ってね。応援してるよ」
「はい。ありがとうございました!」


出口まで見送りを済ませ小さくなっていく普通科の制服姿に、なぜだか目をほめてる自分がいた。
君の音楽は人を惹きつける。聴きおわると同時に胸がじんわりとするあたたかさ。あのヴァイオリンの女の子じゃなく君の友人にもない君だけのもの。君はどうしてそんな音がだせるのかどうして音楽をやってるのか、君に興味がでてきたんだ。

「すいませーん」聞こえてきた来店中のお客さんに呼ばれた。ああ何を考えてたんだ俺は。それもこれもこのひと夏でおわりだというのに。君が歩いて行った通りに目もくれず楽器店の店員として踵を返した。

(ま、演奏会には足を運ぶけどさ)



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