FantasticU


茉莉ちゃんの話によると昨晩の出来事が始まりだったらしい。


『じゃじゃーん!みてみて優香ちゃん!!』
『茉莉ーコンビニから帰ってくるの遅いよーってなにその変なジュース!』
『1日限定!ときめきリメイクファンタジー!効果:体が小さくなります。だって!』


…あのコンビニ何から何まで売ってるよなぁ。飲むハメとなったのは優香ちゃんで。その結果、翌日に事件が起きて今に至るのであった。
まぁ原因は言わずもがなそのドリンクで間違いないだろう。

ちなみに。現場にパにくった茉莉ちゃんは東金さんに一番に連絡したらしくラウンジで相談してたところにオレが現れたらしい。








「こんなこと、ほんとーに起こるんだねぇ〜」
「あらたくんどうしよう。もとにもどらなかったら、わたし…」
「優香ちゃん、きっと大丈夫だって!」
「うぅ〜っ」
「(精神的にも退化するんだ)あーほら、きっとなんとかなるから、さ!」


泣きだそうとする彼女を抱き寄せると、すっぽりと腕のなかにおさまってしまってびっくり。3、4歳あたりだろうか。ほんとに小さくなっちゃったんだ。
改めて実感し、オレも少しばかり不安…になるかと思ったら案外そうでもないのがオレのいいところ!今はこの状況をおおいに楽しもうじゃないか。

脇に手を添えてたかいたかいをすると、きょとん。目をまんまるにしてオレをみつめる。にこりと笑うと優香ちゃんもにっこり。(笑った…)なんだか嬉しくなって、何度もたかいたかいを繰り返しては優香ちゃんと一緒に笑っていた。


「あらたくん!もっともっと!」
「いいよ〜!そーれっ」

「わ〜。完全に子どもに戻ってるね…」
「ただのガキだな」
「あ!茉莉、とうがねさんおかえり〜」
「2人とも、こんな可愛い優香ちゃん差し置いてどこいってたんですか?」
「子ども服調達してきたんだよ!はいこれ」
「こどもふく?」


キッズサイズの服を手渡された優香ちゃんは首を傾げてオレを見上げる。どっきーん。なにいまの。すっげー可愛い。「じゃあさっそく着替えよっか!」茉莉ちゃんに手を引かれ、数分後。可愛いワンピースに着替えた小さい彼女がとてとてと走ってきた。
軽い振動とともに抱き着いてきた優香ちゃんにこっちも膝を曲げてぎゅーっと抱き返す。普段からこんなに積極的になってくれればな。ぷに、と人差し指で頬を押すと顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。…恥ずかしかったのかな?そういうところは変わらないんだ。(やっぱりいつも通りの君が一番かな)
こっちの顔色を窺うようにちらりと目を向けた君に目を細めた。





***





「はぁぁ?」
「いや、うん。びっくりするよねハル君」
「茉莉先輩の話は信じますけど。そんな非現実的な事が目の前で起こってる事に少し眩暈が…」
「どうハルちゃん、榊さん。かっわいいでしょ〜優香ちゃん〜」
「おはようございます、だいちしぇんぱい、はるくん」


話を聞きつけてリンデンホールにやってきたハルちゃん、榊さんの前に、元気いっぱい挨拶をした優香ちゃん。呂律が回らず、せが、しぇになってるとか。榊さんは「まいったね…」なんて片手で額を覆って空笑い。うん、その気持ちすごくわかります。


「新………。お前は自分の彼女がこんな目にあってるのになんとも思わないのか?」
「次の日には戻ってるって話だし平気だってハルちゃん〜!ね、優香ちゃん」
「うん。はるくんも、あそぼ!だいちしぇんぱいも!」
「こんな可愛い子のお誘いだ。これは、断れないね…」
「え、僕もですか?ちょ、引っ張らないでくださいよ!…って響也先輩たちも何してるんですか………」
「見ての通り鬼ごっこに付き合わされてんだよ。ったく朝起きたらこいつがチビになってるとか、意味わかんねぇ」


寮に下宿してるみんなで鬼ごっこ。それは優香ちゃんの思い付きからはじまったのだった。愚痴ってる人もいるけどなんだかんだで途中から本気になり延長戦にまで勃発してる。男数人に女の子ひとり。本気だして鬼ごっこしてる高校男子とその間に挟まれてる女の子とか…異様な光景なんだろうな。

「次は水嶋君が鬼ー!」審判らしい茉莉ちゃんが叫ぶと、周囲にいた人たちが一斉に逃げ出した。ガチだな…。とくに火積先輩とかこういうのぜってーやらないと思ってたのに、筋トレでもあるよという八木沢部長の一言で今じゃ目ギラギラでやってるし。おお怖い。先輩を捕まえるのも楽しそうだけど、捕まえるのはもちろん―――


「あらたくん!こっちこっち!」


オレの先を走る優香ちゃんだ。逃げ回る君の小さな背中を、大股走りで追いかける。それを見た君は面白そうに笑って走り出す。もーちょっとで君に追いつく。大きく腕を広げて後ろから抱きしめるように、捕まえた。きゃっきゃ笑う君にオレも笑う。

なんとも穏やかな午前だ。



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