FantasticV


「優香ちゃん水嶋くん夕ご飯だよ。…って、なんて幸せな図」
「でかい子どもが転がってるな」
「千秋さん!しーっ!」
「…佐伯、お前のほうが声大きいぜ」
「え!?」
「ん〜」
「あ、水嶋くんが起きた」
「…あれ?オレ寝ちゃってたの?」
「ああ。隣の小さい彼女と一緒にな」


その隣とやらをみるとすーすー寝息をたてて眠る優香ちゃんが。
ああそうだ。遊び疲れて眠っちゃった君を布団に移動させてオレも横になったらいつのまにか…そこからの記憶がない。あたりの風景はもうオレンジ色に染まってるし。ずいぶん眠りこけてたらしい。

まだ起きないもう一人のねぼすけさんは、軽く揺すっても「優香ちゃんー」と名前を呼んでも気持ちよさそうに寝入ってる。

オレたちを呼びに来たらしい茉莉ちゃんは「目覚めのキスでもしたら起きるんじゃないの?」東金さんを思わせるようなニヤリとした顔を見せると2人はダイニングへと戻っていった。
…すっかり東金さんに影響されてるな、彼女。(遠くのほうで痛い!とか声が聞こえてきたけど東金さんに何かやられたんだろう)


「……んー」
「あ、起きた?」
「…あらたくん?」
「うん。もう夕飯だって」
「………ごはん?」
「(寝ぼけてる)そう、ごはん!移動しようよ」
「………だっこ」
「もーしょうがないなぁ」


腕をのばす君を抱き上げてオレも立ち上がる。いろいろあったけどもう夕方か。「あらたくん」腕の中ですっかりと覚醒した優香ちゃんが大きな目でオレを見上げる。なぁにと頬を緩ませながら聞くと「だいすき」首に手をまわしてぎゅーっと抱きついた。

とてつもなく嬉しいことを言われた。どっきーんなんてもんじゃない。胸のうちからふわふわとあったかくなるような不思議な感覚。

なにか言葉を発するでもなくオレも小さな君を抱き返す。背中だって腕が全部まわってしまう。ああ、小さい。オレの好きな君は、今は子どもだ。この姿でもとても可愛いけど、何もできない。それがもどかしく、さびしいと感じてしまった。
ねぇ、はやくもとの君に戻ってほしいな。
そんな意味合いも込めて、おでこにちゅ。触れたか触れないかのとても軽いキスをおとす。君は真っ赤になってオレの肩に顔を埋めた。





***




「やだー!」
「優香ちゃん!ワガママ言わないのー!」
「茉莉のいじわる!」
「ここは寮だぞ。何か問題でも起きたらどうするんだ」
「ほら、火積くんもこういってる!」

「なになに?どうしたの?あ、火積先輩も優香ちゃんに癒されにきたんですか?」
「なわけねぇだろ…」
「! あらたくんいっしょにねよ!!」
「………は!?」


予想だにしない爆弾がオレの頭に投下された。はて、この子はなんといったのか。

またまた可愛らしいパジャマに着替えてラウンジでくつろいでいた優香ちゃん。その間にオレはお風呂にいっていた。そこまではいいのだが。
茉莉ちゃんの部屋で寝ることは前々から決まってたよね。なのにそれが今はどうだ。
いっ しょ に ね よ ?
オレの服にしがみついて離れないし。「とにかく次の朝が危ないからだめ!」と友人に叱られても頑なに頭を振るだけ。


「………ええっと、これってどうしたほうがいいですかね、先輩」
「………俺に聞くなよ」


たまたまその現場に居合わせてた火積先輩。小さい子どもだからってほっとけなかったんだろうな。まぁでもそんな先輩も頭抱えだしちゃったし。オレもこれには本当にまいった。


「優香ちゃん。もしかすると、次の日の朝には元の姿にもどってるかもしれないよ?それでもいいの?」
「? いいよ!」
「まったく。ここぞとばかりに水嶋くん好きーを発揮するんだから」

「………ほんとに連れてっちゃうよ?オレ」
「うん!あらたくんといっしょがいい!」
「だめー!後悔するからきっと。おとなしくわたしの部屋で寝るよ!」
「や、やーだー!」

「別にいいんじゃねぇか?」
「! ち、千秋さん…!」


就寝前のラフな格好でふらりと現れた東金さんに「お前はどうなんだ?」と俺に話を振られた。え?どうって…。そりゃ一緒に寝たいにきまってるけど。だけどここは寮だ。なにか問題でも起きたらどうなるんだ。


「そこまで深く考えることでもないだろ。こいつは今はただのガキだぜ?」
「まぁ…確かに」
「そのあとのことは明日考えろ。とりあえずさっさと寝ろよ。子どもにこの時間帯はキツイだろ」
「あ、やばっもうこんな時間なんですね」
「なんだったら、お前も俺の部屋にくるか?茉莉」
「そーいう時だけ名前呼びやめてくださいもー!紅茶用意するんでちょっと黙っててくださいー!」


顔を赤くしながら東金さんの背を押してラウンジから遠ざかってくカップルの背を、少しうらやましく思いながら見送る。

それもそうか。深く考えても拉致があかないし、早くこの子のためにも寝る場所を用意しなきゃいけない。
ふっきれたオレは優香ちゃんの手を握って部屋へと戻る。意図することがわかったのだろう、君はるんるん気分で両手でオレの手を引っ張りはじめた。


「水嶋、わかってるだろうな」
「わかってますって〜!心配症だなぁ先輩」
「ふぁ〜」
「あ、早く寝よっか優香ちゃん。部屋まで歩ける?」
「だっこ〜」
「あーもうそれ反則だってば!」




なんだかんだで。
ドタバタしながらも穏やかな1日はこれにて終了した。翌日の朝になにが起きたかはだれもしらない。それはもちろんオレと優香ちゃんのヒミツ!



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