Which do you love?


セミファイナルが近くなってきた今日。律たちも既にコンディションは整ってるみたいだしこのままいけば当日はとてもいい演奏ができそうだ。
てわけで、少し余裕もでてきたところ、俺は学院に寄った帰りに少し部の様子を見ようと部室まで足を運ばせていた。これでも一応、副部長だし。

ガチャ


「あ、大地先輩!」


扉をあけて飛び込んできた光景に、俺は笑顔を見せるのも忘れて小さくため息をついた。


「…………優香ちゃん、制服のままで脚立使わないでって、何回言ったかな?」
「あ!ご、ごめんなさい!楽譜の確認だけしたくって…ちょっとだけだしいいかなーと」
「それでもだよ。君は女の子なんだから気にしなきゃ」
「う……」


俺と同じ普通科の優香ちゃんは、普段はしっかりしていて副部長の俺のサポートなどを率先してやってくれる頼もしくて気遣いが上手な女の子、なのだが。
たまにこういったことをしてのけるから気が気ではない。俺が気にしすぎなところもあるかもしれないが、先輩として同じ部員として女の子として見ていると、つい言葉が先走る。

彼女の両脇に手を添えて、強制的に脚立から降ろす。これでよし。距離が近かったためか、君は少し顔を赤くしながら「ありがとうございます」と歯切れ悪く言う。


「まったく。これはお仕置きが必要かな」
「えええっ!そ、それはちょっと」
「近所のお婆さんからもらったお茶菓子、誰かと半分こしようかと思ってたんだけど。違う人を探そうかな」
「………」


机においたビニール袋を横目に彼女を見る。何かいいたげな顔でこちらを見つめてる優香ちゃん、それはぞくにいう上目遣いっていうやつだ。気づかないでやってるのがまた君の可愛いところだね。


「あはは、ごめんごめん。じゃあ一緒に食べよっか」
「! やった〜っ」


頭をぽんぽん、優しく叩くと目を細めて君が笑う。


可愛い後輩。初めて会ったのは2年の時。普通科のしかも女の子の制服が部室に入ってきたのは新鮮な記憶として今も覚えてる。

音楽科がほとんどのオケ部の中で俺たちは普通科の生徒だ。
いつからだろう。それに優越感を覚え、気づけば君ばかりを目で追っていたのは。


「優香ちゃん」
「はい?」
「ファイナルが終わったら―――」


「Espera!! ちょーっといいかなー?」


「! 新くん?!」
「…………はぁ」


どうしても君が、邪魔しにくるんだね。





***





「んーおいひー!」
「うん!あまくて幸せ〜」


成り行きでもう一人加わったため彼女と二人で食べようと思ってたそれを向いに座るうちの後輩とよその後輩クンは美味しそうにほおばった。
…まぁ正直甘いのは苦手だったのでふたりが食べてくれて助かった。そこはいいのだが。


「どうしてあそこに水嶋がいたんだ?」


まず聞きたいことはそれだ。


「好奇心ですよー。星奏学院の校舎ってどんな感じなのかなぁって探索してたんです。そしたらオケ部の部室が見えて気になってー…って感じで」
「(あんなタイミングよく、ね)」
「そうだったんだ。こんど私でよければ案内するよ?」
「viva!! やったね!」


そして隣に座る彼女に抱きつく。君も君で顔を赤くして恥じらう、その姿は可愛いのだがそれはこの水嶋のせいで、だ。
こちらとしては不愉快で仕方ないが顔にはださず「ずいぶん仲良くなったみたいだね」苦笑まじりに言った。


「優香ちゃんって話しやすくて一緒にいて楽しいから、俺の好みにドンピシャ!なんです」
「あ、新くん…」
「そうだね。この子はとてもいい子だから、水嶋が気に入るのも当たり前だろう。……でも、ひとついいか?」
「はい?」
「優香ちゃん、恥ずかしがっててかたまってるよ」
「え、あ、ごめんねっ」
「う、うん」
「水嶋。君はがっつきすぎ。八木沢によく言われないか?」
「ううーん?」
「あはは。新くんのそういうまっすぐなとこはいいと思うな。は、ハグはびっくりするけど…人前はちょっと」(ボソッ)
「…というわけだから、場所を考えること」
「じゃあ後でいっぱいギューしまーす」


こいつは手ごわいな。おまけに純真ときた。あざといように見えてこれら全部が素直で通ってるのだから憎めない。


「おーい#那加#ー!ちょっといいかー」

「あ、江口先輩の声だ。ちょっといってきますね!」
「俺も部に顔出しに行こうかな。江口にも言っときたいことがあるからね」


君が立ち上がると同時に俺も席を立つ。ここで水嶋もきっとついてくるだろう。安易に想像できるものだからやはりそこがお前のいいところなんだろうな。八木沢たちが可愛がってるのも、まぁうなづける。だけども、彼女絡みなのならば話は別だ。
扉まで駆けてゆく優香ちゃんの肩に、そっと触れてこちらに抱き寄せる。ふわりと揺れた髪の間に指をからませ優しく撫でると「だ、大地先輩?」困惑してるだろう君の声が腕の中から聞こえてきた。


「うちの可愛い部員を、至誠館の一年にみすみす渡すわけにも行かないからね」
「………。宣戦布告ですか?」
「そうとってくれて構わないよ」
「え? 新くん、大地先輩??」


さっきの行動といい、今までの君たちの仲の良さっぷりに、俺は気付かないうちに相当嫉妬をため込んでたらしい。もう後戻りはできそうもないかな。

優香ちゃん。俺は君に恋をしてたみたいだ。



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