brillante


「ううっ、千秋さんごめんなさいいい」
『これでようやくわかった。お前は正真正銘の………バカだ』
「改めて言わないでくださいよ!なんでためたし!」
『はぁ…。出口でまっててやるからお前は無駄口たたいてないでさっさと来い』
「その出口がわからないから電話してるんじゃ、」
『俺が道案内できるとでも思ったか?そこまで万能じゃねぇよ自力で来い』
「はい…」


どうしてこうなったのか。

それは千秋さんと都内の有名な遊園地でデートをしたいというわたしの願望からだった。おもわず口にしたときには遅くて。わがままでいったのにもかかわらず彼はわたしの腕をひっぱり「行くぞ」と。
いきなりだったし時間も夕方に近かったため本当に行くのか半信半疑だったが、そこは東金千秋さま。ものの数十分で到着してしまった。

やっと思いが通じ合ったっていうのにあと少しで神戸に戻っちゃうもんね。一緒にいられる時間を、こうして千秋さんも作ってくれてるのかなって思うとにやけがとまらない。

―――と、そんな時間をぶち壊したのは数分前のこと。

きがついたら閉園数十分前ってことで遊べるものは遊んでおこうと走り回ってたら、目にとまったのが ″巨大迷路″ 。興味本位で足を踏み入れて…路頭に迷ってどれくらいたっただろ。
そこは難解すぎて大人の迷子が続出する泥沼迷路だった。


「千秋さんはなんで入らなかったんですかあああ」
『こうなるだろうと予想したから。そもそもお前が俺の手を放してまで駆け出して、迷路に頭突っ込んだのが悪い』
「………。千秋さんといられる時間、あとちょっとなのにね…。ごめんなさい」
『…そう思うんなら早くこっち来いよ』
「はい!」

『………』

「……………」

『………。…………』

「…えっと、これは切らなくていいんですか?」
『切ってほしいのか?』
「…ほしくない、です」

『ああ。お前に寂しいとは言わせないぜ?』
「う、うん」


そういうところがカッコイイなって思う。千秋さんと離れて自分が電話をかけようと思ったら矢先に彼からの着信音が鳴って。心細いなぁって思うその前になにかにおいて千秋さんから連絡がくる。わたしはそれにあまえてばかりだった。





「………わたしも」
『?』
「わたしも千秋さんに―――」


せいいっぱいの 愛してる を伝えたい





それが言葉となって口に出たとき、角を曲がった先にまってたのは、愛しい恋人。
目が合って、溢れだしてくるこの気持ち。あなたの腕で受け止めて。
タックルにも近いわたしのハグに千秋さんはよろめくこともなくその腕で抱きとめてくれた。


「熱烈な再会だな」
「無事ゴールできましたー」
「あぁ。…待ってたぜ茉莉」


ちゅっと口に落ちてきたキスは、やっぱりまだ慣れない。恥ずかしさで顔を千秋さんの胸にうめるとなにが楽しいのか、千秋さんはくつくつと笑い出した。「これからが見ものだな」ひとり満足そうな顔をしてつぶやくと、こんどはおでこにやわらかい感触。付き合ってからというものの、千秋さんにはやられてばかりだ。

こうなれば、やはり有言実行である。さらに情熱的な女を目指して千秋さんの顔をまっかっかにさせる。
わたしの千秋さん攻略計画(済)の新しい目標が加わった。



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