SURPRISE!


『屋上に来てください。佐伯より』


世間はゴールデンウィークということで、学院の練習室を利用する人は数人だけ、と佐伯先輩から聞いた。僕はそこを狙って今日も練習室を利用しにきたのだが。

部屋にあるグランドピアノの上に置かれたでかでかとかかれたメモ用紙をみて「…は?」呆気に取られた。その隣には茶饅頭が。これには見覚えがある。たしか佐伯先輩が僕に差し入れとして何回かくれたものだ。今日、先輩も来てるのか。

じゃあやっぱりこれは先輩が。


「………行ってみるか」











「ハルくんお誕生日おめでとう!」


佐伯先輩から手渡されたのは、とある楽譜だった。


屋上に付くなり先輩の楽器、トロンボーンでバースデーマーチを演奏したり得意のパフォーマンスをしたりなど忙しい人だな、なんて思って聴いてたがやはりそこは1つ上の先輩。技術力、表現力もあり、なにより楽しそうに吹き鳴らす姿に、1年の差はやはり大きいなと改めて感じた。(どこかの従兄弟のことを思い出したのはここだけの話)

演奏が終わって、チェロ用に編曲されたとある曲の楽譜を受け取った。目を瞬いてると、ふふん、と先輩は得意げに鼻を鳴らす。


「この良き日に可愛い後輩と1曲合わせたい、ってことで!」
「単に先輩が合わせたいだけなんじゃないですか?この曲をみれば丸わかりです」
「う、さすがハルくん。バレバレだ」
「………。待っててください、今チェロを持ってきます」
「え!いいの?」
「さっきの演奏のお返しですよ」
「やった!ハルくんありがとう!」
「…それは、こっちの台詞ですよ」


移動する時に譜読みを済ませておこう。さらっとやるつもりが、なかなかに難解で…そもそもこれ、手書きの楽譜じゃないか。


「先輩、これ…」
「おかえりハルくん。あーごめんね見づらくて。下手なんだ編曲するの」
「え、先輩がやったんですか?」
「そー。チェロと合わせたくて昨日必死こいて譜面とにらめっこばっかりしてたよー」


青空に向かってスライドを伸ばす、にへらと笑う先輩。やることなすこと突発的で僕は一瞬だけ思考が遠くの方に飛んでいった。
…この人はほんとに音楽が好きなんだな。でなきゃこんな面倒な事しないだろう。

そう思わずにはいられないのが音楽を心から楽しんでる一人だから。



先輩が拍を取り、目配せをし、大きく息を吸って。屋上から響きわたる先輩の音は青空に広がった。


この曲は映画の主題歌にもなった曲。なかなかにマイナーため隠れた名曲として中では有名だ。
それを大胆にアレンジし、映画のストーリーを思わせるような浮き沈みが激しいものとなっている。普段の先輩からじゃ考えつかない表現なども取り入れられていて、少し驚いた。物語を忠実に再現している。

題材として取り上げる音楽を何よりも大切にしてるのが、音を通して楽譜にも伝わってくる。

〜♪

先輩の音が優しく僕の音に触れた。とても心地よい感覚に自然と頬が緩む。横目で先輩を見上げると、器用に笑って吹いていて。

不思議な高揚感がそこにはあった。これが誕生日プレゼントというのだから笑ってしまう。あなたは不器用で自分に素直だ。好きなものを惜しみなく与えてくれる。

そんな音楽を通して先輩を気にかけてる僕もまた、彼女の音楽に魅了されてしまった一人なのかもしれない。



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