今日はいつもより室内が騒がしい。自然と眉間にシワが寄ってたらしく近くの女共が俺を見てはコワイだの近寄りたくないだの危険物を見るかのような物言いに、知らずとため息を吐いた。クラス替えして早くに見せ物扱い。悪人面なのはわかってるけどな。
隣の席のマルコは「今日は転校生が来るんだって」と、この騒ぎの原因を聞く前に答えた。なるほど。噂によると女らしく男子がうるさいのも、まぁ頷ける。
窓の外に視線を外し頬杖えつく。だれが来たってどうでもいい。マルコは苦笑し「楽しみだなぁ」と呟いたのが耳に入ってきたのは転校生様やらの自己紹介の時だった。
「―――エリス・ユーリーナです。よろしくお願いします。」
またお前はそうやっていきなり現れる。昔から変わらず締まらないふにゃっとした顔がなんとも憎たらしい。ムカツク。その反面胸がじんわりと暖かくなって。目の奥が熱くなってきた。耐えろよ俺カッコわりぃだろ。
ふと視線が合った。目が離せない俺とは対照にアイツは、愛想のいい笑顔で少し頭をさげた。
レベルが低い芋女の質問にアイツが真剣に答え始めて数分が経つだろう、そこで我に返った。なんださっきの態度。ちょっと傷つく。ちょっとどころじゃねぇすげぇ傷ついた。
程なくして鐘が鳴り、俺は真っ先に教室を出た。
「………はぁああ」
声をかければよかった無理やりにでも連れ出して話がしたかった、今までどこにいた何してたんだ一発ぶん殴らせろ。それができたらこんなとこで頭抱えて泣き言呻いてるわけねぇだろくそが腹立つ。
おもいため息は屋上に繋がる階段奥に響きわたった。最悪な気分だ。平和な日常がなんにも覚えてないアイツのせいでこれから狂っていくんだ。ゆううつで仕方ない。
「(笑ってたな…)」
昔はあまり笑った顔を見たことない。あんな顔もできたんだな。昔と今を思い返すだけでまた目元が熱くなってきた。情けね。
なぁ、やっぱお前、バカみてぇにふにゃふにゃな顔で笑ってた方が数倍マシだ。この世界はお前が望んでた幸せってのがいっぱいつまってるぜ。だから、
「俺のいないところで笑ってろよ」
「大丈夫?」
呑気な声にゆっくり顔をあげた。転校生というアイツが目の前にいる。不思議と驚きはしなかった。きっとこうなるんじゃないかと頭の片隅で考えてたらしい。無意識に良い記憶を手繰り寄せてる快適な頭(そう言った張本人はムカつく)が笑えてくる。
そうだよな、コイツはいつも俺を―――
眉を下げてにへらと笑う転校生。俺の顔をまた見ると首を傾げた。「………ああぁ、そのですね、えっと」意図することがわかったみたいでどうしてここにいるのか目で訴えてると、急にもぞもぞし始める。
「気になって探してたの」
心臓が大きく脈打つ。
俺を?お前が?どうして。
「………タイプだったから?」
「ぶっ」
コイツの口からタイプだとか。鼻で笑う前に吹き出してしまった。
「あ、今のは、ちがっ」
「なんだ違うのか?」
「………心配だったから」
あなた、泣いてたから。
これには鼻で笑った。俺が泣いてる?バカ言えそんなわけねぇだろ。そう心の中で反論しつつ袖で目元を拭う。かっこ悪い姿を見せてしまった今の状況が耐えがたく膝の間に顔をうめた。
「あ!!まさかどこか痛いの?!だ、だひ、大丈夫?!どうしよう!」
「ぴーちくうるせぇよ黙ってろター坊」
「た、ター坊!??私女の子だからせめてターちゃんにしてよ!!!」
どっかのジャングル思い出すからそれはやめてほしい。指先も青くなるんじゃないかってぐらい血の気がひいてる転校生の慌てぶりは度が超えてて怖い。とりあえず耳元で叫ぶの止めろ。「あ!!じゃあ保健室の先生!呼んでくるね!」起点が回ってようやく立ち上がった。
近くに感じていたお前が俺から離れてく。背中が小さい。行くな動くなここに、いろ。
胸のうちからどす黒いなにかがはい上がってきた。
「………。…あの、」
「あ?」
「手、が…」
転校生の腕を思いっきり掴んでいた。これぞ無意識的行動。女がやるなら普通なんだろうがさっきまで涙ぐんでた男が女の腕を引っ張るなんて。女女しいもなにもない。プライドなんてなくなってる。それも全部てめぇのせいだ。
ホントかっこわりぃ。