「ジャン君、あの、今日はありがとう」
ジャン君だとよ。距離を置く呼び方に違和感を感じで顔に力がはいる。やっぱこいつ、もう彼氏いんのかな、なんて。隣を歩く小さなお前をちらりと見た。
はにかんでお礼を言う嬉しそうな顔は、さっきまでモヤモヤしてた俺の気持ちを見事なまでにぶち壊した。オレンジ色に染まる空を仰いでため息をひとつ(すげぇ腹立つ)心の中で呟いた。
「君付けすんな。背中かゆくなる」
「え?え、と………ジャン?」
懐かしい響きに寂しさを感じた。
おまえは何も知らない。俺が今どんな気持ちでおまえの隣を歩いてるかわかるか?
「そっちのがしっくりくるわ」
俺は今ひじょーにウレシイらしい。
「帰りも同じ方向なんだね」
自分の家からひとつ駅離れた所にエリスは住んでるらしい。家まで送ると言うと駅から歩いてすぐだから大丈夫だと必死になって断られた。
「まだ辺りの地形把握してないだろ。帰れんのか?」
「………かえれます」
現代だろうが昔だろうが方向音痴の才能を発揮するであろうから気が気でない。ひしひしと伝わる不安オーラが何よりの証拠だった。
「でもほんと、これ以上してもらっちゃうとバチが当たっちゃうんじゃないかなって!」
だから大丈夫!と親指を立てた。なにが大丈夫なのかさっぱりわからない。用は迷惑かけたくないんだろ。
ああ、そうか。俺の対応が不審だから離れたいっていうのもあるだろう。転校初日からこんな長く男子に付き纏われればそう思わないはずがない。変な奴だと思われただろうか。
「…わかった。何かあったら連絡しろよ」
「うん!ありがとうジャン」
ぎゅっとケータイを握り締めたエリスは「幸せものだなー」なんて呟いてて少し気恥ずかしくなった。おまえ、聞こえてるからな。
そういえば。先ほど交換したばかりの俺のアドレスをさっそくホーム画面に置いてたのを思い出し、こういう準備は早かったなと笑った。
