「じゃあまた、明日」


改札口まで来てくれたジャンに、何度も何度もお礼を言ってようやく切り出した言葉なのに。足は動こうとしない。ずっと感じてた、まだ一緒にいたいっていう正直な気持ちが今日ほど爆発したことはない。
しばらくうつむいたたままでいると、どうしたって声をかけられて。さっきはこれ以上迷惑かけられないから断ってしまったけど、こんどはお願いしても、いいだろうか。


「…初めからそう言えよ、優柔不断」


チッ。舌打ちしたのが聞こえた。
ええええ私今声出して言ってないよテレパシー? びっくりしてる間に彼に手を引かれて一緒に改札から出てしまった。「あんな顔してつったってるお前を放っておくとか、薄情な男だと思われるだろ」 そう言われて納得なるほど、私だってそこまでバカじゃないからどんな状況だったか察しがついた。ジャン、あなたは優しいね。
そのおかげで今まで気づけなかったことがあった。そうよ、考えてなかったのがおかしいぐらい。だってもし、あなたに好きな人がいて、わがままなわたしに付き合わしちゃってたら―――わたしとっても最低な女じゃない。


「ご、ごめっ、…!」


前をつかつか歩く彼に謝ろうとしたら、おでこを小突かれた。地味にいたい。


「もとは俺が誘ったんだ。そこまで気にすんなよ」
「でも、わるいよ彼女さんに」
「はぁ?」
「うわ、ぷ」


急に立ち止まったもんだから彼の背中に顔面強打。いたい。痛いのばっかりだ。


「…あのな、女がいたらここまでするか普通」
「だって、ジャンかっこいいじゃん」
「シャレかよ」


言うつもりはなかった。ジャンの名前のせいだよ!なんて心の中で言ってみる。くそう恥ずかしい。
でもそっか、今は彼女いないんだね。安心したら元気でてきた。その場から動かないでどこか遠くの方を見つめてるジャンの手を引っ張った。わたしの家はもうすぐそこだ。
るんるん気分で前を歩いてたわたしには、「バンザイ世界だな。」ぼそりと呟く彼の声はここまで届かなった。


comebackIV