一緒にいたいだけ
※本作の男主人公も出てきます。こちらは名前変換は無く「アル」という名前で統一しております。
『名無しちゃん、今日も頑張ってたなあ』
『家畜の世話も畑作業もやりくして。俺らとあんま年かわらないに』
『それに料理も上手で顔も可愛いくってさ』
『あ〜んな子が嫁さんだったら幸せだろうねぇ…』
「――ふん、あんなやつのどこが…髪はこの俺が毎日結ってやってるんだから大いに誉めて構わないがあいつは身だしなみや服のコーディネートとか美容のことに関して俺がいちいち言ってやらなきゃ出来ないわけで、今のあいつは俺がいたからこそなわけで、」
「…まあまあアレンさん。落ち着いて」
「は?じゅーぶん落ち着いてるだろどこ見てるんだお前」
そんな窓の外チラチラ見つめて同じとこぐるぐる回ってちゃどこ見てもわかりますよ。
通行人男性のこそこそ話が耳に入ったアレンさんは機嫌が少し悪い。心の中で思ってることを言ったらきっと問答無用で変な髪型にされるに違いないから僕は苦笑いするしかなかった。
「それで?今日は何の用だ?」
「用ってほどでもないけど、はいコレ」
「…ほう」
アレンさん家の玄関先で突っ立っていた僕をようやく上にあげてくれた。持ってきた差し入れを受けとると、今回も上出来だな、と作ってきたプリンを見て嬉しいコメントをもらえた。うん、作ってきてよかった。
ともあれ。アレンさんさっさと告白しちゃえばいいのにと心底思う。見ててとても焦れったい。
名無しも名無しでアレンさんのこと意識してるみたいだけどきっと彼女のことだ、牧場生活を一番に考えてるから恋愛なんて後回しにしちゃってるんだろう。
あとでキツく言っておこう。結婚のこと考えなさいって。
「アレンさん」
「なんだ」
「あとで名無しに言っておきますね」
「…なにをだ」
でも、心の奥底に小さなモヤモヤした塊がある。
「………えっと、」
「アレンさーん!」
「!」
「……噂をすれば」
モヤっとした塊のせいで言葉に詰まってたら彼女の元気な声がドア越しから聞こえてきた。
一通りの作業が終わったからアレンさんに会いにきたんだろう声が黄色いのは気のせいじゃないはず。アレンさん大好きだよなぁ名無し、と再確認。
「あいつまた懲りずに…」
あーいやだいやだ。
そんな嫌そうにため息吐いてるけど口の端あがってるよアレンさん。早く素直にならないと俺が名無しと結婚しちゃいますよ?とかなんとか挑発すれば本気だしてプロポーズするのかな。
モヤモヤは相変わらず続いてるけど2人の幸せを考えてるうちに忘れる。
「…なんだよそんなニヤニヤして気持ち悪い」
「いいえ、なんでもありませんから早く名無し連れてきて3人でお茶しましょうよ」
「…仕方ないな」
ニヤニヤしてるのはアレンさんの方ですよ。と小走りでドアに向かう彼の背中に小さい声で言ってみた。
まずは3人で会話して2人がいい感じの雰囲気になってきたら僕は退散することにしよう。
「ほう、贅沢なフラワアレンジメントだ。よく作ったな」
「えへへ、アレンさんをイメージしたんですよ?」
「………ふん、自室に飾ってやるとするか」
「わぁ!ありがとうございます!」
「…あがってくよな?」
「もちろんです!今日はサンドイッチ作ってきましたよっ」
距離が近くお互いニコニコ。うふふきゃっきゃっ。これで付き合ってないのだ。
ティーカップに口をつけたままジと目で彼らを観察してた僕は少しずつ肩を落としていった。ため息が自然と出てくる。
でもあの人たちが幸せそうにしているならいいかもしれない。あの笑顔を見ていると。
のんびり焦らずいこうって思えてきてたり。
「あれ?アルくん!」
「やぁ名無し。午前作業お疲れさま」
「アル、やっぱお前帰れ」
「ちょっとやだなーアレンさんのためにここに残ってあげてるんですよ?それに僕も名無しの手料理食べたいですし」
「…お前何かと邪魔するよな」
はてなんのことやら。僕はただあなた達のキューピッドになろうとしてるだけですよ。「………。」 そんな睨まないで下さいよアレンさん。僕は名無しを狙ってなんかいませんから。
………無意識に邪魔しちゃってることわかってるんだけどさ。だって3人でいるの楽しいし。
こののんびりとした時間が大好きなんだ。
「あ、そうか」
「うん!そのレタス、アルくんが作ったやつだよ!」
2人が結婚してもこの時間は作れるかな。その不安がモヤモヤの原因だったのかも。
俺がそんなことを考えて無意識に口にしていたら、名無しは俺が口に運んでいたサンドイッチを見てそう呟いたと勘違いしニコニコしてる。
「うん、本当だ。ありがとう名無し」
そう捉えてくれた彼女に僕もニコりと微笑み返した。
隣でムスっとしてる俺たちよりもいい年してるのに子どもみたいに不貞腐れてるアレンさんを横目で見て、「このトマト、名無しが作ったやつだよね?」って言えば彼の耳がぴくっと動いた。そりゃ反応しないわけがないと考えて切り出した話だ。
アレンさんが手に持っているサンドイッチを指さしながら僕は口の端をあげながら続ける。
「アレンさんからもらった大切な種なんだから一生懸命育てなきゃ!とかはりきってたよね?」
「うん!」
「…まぁ当たり前だな」
「出来上がったらアレンさんに料理作ってご馳走しなきゃ、どんなのが好きなのかな?ってアレンさんアレンさんばかり言ってたっけね」
「………へぇ」
「アルくんっ、そ、そこまで言わなくてもっ!」
名無しの顔真っ赤。からかうように笑うと、もぅ…とそっぽを向いてしまった。
アレンさんがご機嫌ナナメな名無しの頭を不器用に恥ずかしそうにしながらも撫でてやると、一瞬きょとんとしていたがすぐさまふりゃりと彼女は笑う。アレンさんにしか見せない顔だ。
「アレンさん美容師なのに頭撫でるのは下手なんですね」
僕がおちょくって、煩い黙れと食いかかってくるアレンさんを見て名無しが小さく吹き出して僕もつられて笑って、ため息吐いた後にアレンさんも困ったように笑う。
僕はこの3人でいる時間が大好きだ。
結婚しても二人のお家にお邪魔しにいけばいいきっと今と変わらないだろうし。
誰か見守ってないと大変そうだしね。
一生僕も2人と一緒にいることにしよう。
「ねぇねぇ、今度3人で旅行いこうよ!」
「さんせい!アレンさん何処いきたいっ?」
「…アルもついてくるのか?」
「(もちろん。キューピッドだから)」
「(こんなまとわりつくキューピッドいらん)」
「まぁまぁ2人とも」
「ふん…、だがお前がいて助かっているのは事実だしな、感謝してる」
「それはどうも」