ラッパ吹きの苦悩と見解


12月頭。
小波パワプロ(中学3年)の隣に住む苗字名無し(高校1年の吹奏楽部員)はある事に頭を抱えていた。


「ぬああーーーーっ!これじゃだめだああーーーーー!!」

「!!?
な、なんだ!?隣りから聞こえてきたけど…。…………ん?隣り?ああ、名無しさんか。今日は何に頭を抱えてるのかな。こういう時はいつも俺の部屋の窓を割るんじゃないかってぐらい勢いよく叩きに来るのに……。」
(窓をちらりと見て)
「来ないな。受験生に気を使ってくれてるんだろう、うん。一つ上のお隣さんに住むお姉さんの事は今日は忘れよう」

〜5分後〜

(ドンドンドンっ!!)

「!?遠慮も無しに窓を豪快に叩くこの音は…!」

(ガラガラっ!)

「小波くん!!!!!!!」
「えええーーっ!名無しさん!?今日はこないと思ってたのに!?」
「聞いて、私今日から毎晩毎朝走り込みする!!!!」
「は、はい?」
「聞いた!!?聞いたね!!?よし、いってくる!!」

(ガラガラっ!)
(ドタドタドタ…)

「は、はぁ…いってらっしゃい」
「嵐が通り過ぎてった………」

(でも名無しさん…。いつも以上に焦ったような顔してたな。毎晩毎朝走り込みだなんて。…何も無ければいいけど)



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毎晩毎朝のランニングを初めて1ヶ月。


「っはぁ、っはぁ…!ふぅーーーっ!今日はたくさん走った走ったー!」
「無我夢中すぎてここがどこだかわからない程に走ったよ…こんな大きな球場見たことないし」
(キョロキョロ)
「このコースもなかなかに良かったかも。帰りも覚えられるように来た道を戻ろう!」
(くるり)
(タッタッタッ…)
「……ん?あっちから走ってくる人がいる。同士がいるって嬉しいわね、ここはひとつ挨拶でもしようかな!」

(タッタッタッ…)

「こんばんわ!」
「…?こんばんわ」

(タッタッタッ…)

「うん!我ながら気持ちのいい挨拶ができたわ。高身長の男の子だったけど…部活やっていそうだから鍛えてるのかしら?よーーし私も負けてられない!やって―――」

(ガシッ!)

「!!?」
「待って」

「(さっきすれ違った男の子!でもなんで呼び止められたの?手首掴まれて動けないし…)」
「わ、私は体力強化のために走り込みしてたんだ。もしかしてあなたに何かしちゃったかな…?」
「……………ここがどこだか知ってるかい?」
「??どこかの球場前みたいだけども」
「……………どうやってここまで来れたの?」
「無我夢中で走ってて、気づいたらここまで来てたの。あっ言っとくけど怪しい人じゃないからね!」

「……………(本当みたいだな)。わかった、君の言うことは信じるよ。どうやって僕の練習球場までこれたかは追追聞くとしようか」
「…ん?ぼくのれんしゅう…んん?」
「これから家まで帰るんだろう?僕はまだ走り始めたばかりだから、付き合ってあげるよ」
「えっいいの?」
「ああ。色々と話を聞きたいからね」




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優愛の家の前

「うう…改めてごめんね守くん。君の家の敷地内に侵入してただなんて」
「僕が通りかかってなければ大変なことになってただろうね」
「(そうなってたら今頃家に帰れなかったかもしれない…)しかも私の家の前まで送ってくれて、感謝しきれないよ〜」
「話を聞くためだって言っただろ?僕もいいトレーニングになるからね」
「……(ひとつ年下の猪狩守くん。彼も体力強化のために敷地内のランニングコースで毎晩走り込みをしてるみたい。そこに私は不法侵入するとか…ありえない。とてつもなく恥ずかしいわ)」
「ほんとうに、ありがとう。今度は周りをよく見て走るから!」
「っはは。別に構わないよ、もう僕の球場周りでも庭でも好きなように使っていいから」
「えっ!?」

「言っとくよ。部活バカが走り込みしたいってさ」