自家製ミルクとレモン


今日も今日とて平和なからっぽ島。
もの作りに勤しむこの世界では、見様見真似で作った本棚を作った私さえもビルダーと言われる。
君もビルダー、私もビルダー。皆がビルダーというリーダーの考えが浸透し、この世界に住む全ての住人が作り上げた世界なのだ。噂では今では元神様のシドーとクリエが作った新しい世界らしいが。

平和で優しさに溢れた世界だ。適当に作った料理さえもすげーすげーうめーうめーと何でも美味しく食べてくれる心優しい住人がほとんどである。荒んだ心を浄化してくれたりクリエとシドーのちぐはぐな恋愛を眺めているのが最近の癒しであり。輝かしい未来しかないこの世界はとても居心地がいいのだ。

そんなある日。


「火にかけ暖かくなったミルクに、皆が育てたレモンの果汁を入れると…」
「何よこれ、白いドロドロが出てきたわ。ヒナ、失敗したなら正直に言いなさい。ルル、怒らないから」
「いやいや、これが大切なんだよ」


お鍋の中は白いドロドロの塊と白く濁った液体の二層に別れた、見るからに食べ物ではないであろうものがおたまによってくるくる回ってる。
ルルは眉を寄せながら鍋を覗き込む。失敗したでしょなんて言われてしまったが完成系を知っている私はふふんと得意げに鼻をならした。


「優しくくるくる混ぜて。5分ぐらい弱火で放置よ」
「へぇー。何ができるか想像もできないわ。あなたのことだから思ってもない物を作ってくれるんでしょうね」
「そうだねー今回は私も覚えてる範囲でやってるだけなんだけど。特殊なやり方だと思うな」

「おーい!頼まれてた小麦粉、持ってきたぜ!」
「お、ありがとうシドー」


分厚い紙袋に入った、30キログラムはあるだろうものを軽々と肩に掛け持ってきてくれたシドーにお礼を言う。
細かく製粉するのも大変だったろうな。小麦製粉をお願いしていたミルズとマッシモには後でお礼を言っておこう。この粉で美味しくなった料理を食べてもらって、その勢いで製粉機械なんちゃらも後でクリエに作ってもらえれば、万々歳だ。


「で?俺に頼みたいことってこれだけじゃないんだろ?」
「うん、今日はシドーが主役のクッキングタイムだよ」
「あ?俺が料理するのか?」
「あーそれもいい考え。最近はたいまつも余裕で作れるようになってきたんだから。出来上がったものをクリエにプレゼントでもしたら?ものすごく喜ぶはずよ」
「ルル、ナイス。まさにそれを考えてた。クリエにプレゼントをする目的で、シドーを呼んだのよ」
「クリエにプレゼント………。よし、やってみるか!」


拳に力をいれて意気込むシドーを見て、スイッチが入ったことを確認。これなら最後までやり通してくれるだろう。

数十分後。
隣のキッチン台で何度も失敗して唸り声をあげていたシドーから「出来たぞ!!」喜びの声が聞こえてきた。嬉しそうに持ってきてくれたボウルいっぱいに入った粘り気がある白いものは、シドーが丹精込めて作り上げたホットケーキの元そのもの。ちょっとダマになっているのはみないふりをしておこう。キラキラした満面の笑みでこちらを見ている彼には何も言えない。

さて、こちらも準備は万端だ。
ザルに入った白い固形と、白い固形から出た透明な液体が入ったボウルを並べ私は腕まくりをした。




***




「うんんんまぁああーーーい!!!わがはいのヒゲもとろけてしまいそうなぐらい甘くて美味しいぞ!!!」
「めっっっっちゃくちゃ美味しいっスヒナさん!!このパンケーキどんな魔法使ったんスか??!!!」
「あーうん。ドルトン、そんながっつかないで。魔法は使ってなくて、誰でも作れるよポンド」


みどりの開拓地に建てられた木陰のテラスにてルル主催のプチパーティーを開くと、こぞってやってきたモンゾーラ組。
私が先程行っていた、ミルクとレモンを火にかけ分離したものをザルにあけ出来上がったものはカッテージチーズ。それを入れたメープル掛けパンケーキを幸せそうに頬張る皆を見ては作って良かったなぁと心底思っている。が、ドルトンの髭に絡まった細かいチーズを見ると口元は引きつった。おっさん、いい加減髭剃ろうよ。
「じゃじゃーん!」ひきつった口が緩んだのはそのすぐのこと。隣のテーブルから楽しげな声が聞こえた。


「クリエ!これは俺がつくった、ぱんけーきだ!」
「!」
「ここに至るまで何度も失敗してヒナが大変な目にあってたわよ。ルルが手伝おうとしたら全力で止めにくるし、失礼しちゃうわ」


別席ではシドーとクリエとルルの3人が仲良く座っている。シドーが作ったクリエ用特盛パンケーキを見て彼女はいつにも増して驚いたり喜んだりしていた。ルルは不貞腐れながらティーカップで紅茶を飲みながら私の方を睨んでいるじゃないか。いやいや、あなた目を離すと隠し味に泥とか入れる、鉄の味がする以前のポイズンクッキングをする人じゃないですか。死人を出したくないよ。
乾いた笑いで手を振るとぷいっとそっぽを向かれてしまった。…あとでクッキーを差し入れするか。


「―!」
「お、美味しいか?!―――ふわふわでチーズも入っていて塩っけもあっていくらでも食べられる って?」


一口食べたクリエから感想が聞きたくてしょうがないシドーは、そう言われると「へっへーん、オレも作れるようになってきただろ!」と手に腰を当て誇らしげに胸を叩く。ニコニコ笑うクリエはシドーを褒めくり回す。なんだこれ。この2人ずっと見てられる。可愛い。


「分かるぞ、ヒナ」
「アネッサ」
「あの2人が仲良くしているところを見ると、たまらなく嬉しい」
「うん、めっちゃ分かる」


あれあなた、あおの開拓地にいなかったっけ?そんな疑問はさておき、拳を握りしめながら涙するアネッサに同意せざるを得ず、私は彼女の肩に手を置き何度も頷いた。

END