洋ゲー

Dragon Age : Inquisition


酒場に入ってすぐ向かいに設置された小さいテーブル席に、セラはどっさりと腰を落とした。
バーテンダーのドワーフからもらったエールをジョッキの半分まで一気に飲む。普段は干上がらない口の中が、今夜だけは緊張でからからに乾いていた。あるいは、唾液すら激しいフィットネス運動をする心臓の汗になってしまったか。

もうすぐ、空けた隣の椅子にエマがやってくる。
普段は審問官の身の上、堅苦しい書類仕事だかをしている恋人と、やっと今夜二人きりの時間を作る約束を取り付けることができたのだ。
二人向かい合って酒を飲み、アホらしくて卑猥な会話をたっぷり交わす。それがエマに、もちろんセラにも必要なことだった。

数分経って貧乏揺すりを始めた頃、酒場に三人の兵士のグループが入ってきた。
うわ、どいつも女に相手にされないような顔だな。彼らに対して真っ先にセラが抱いた印象だ。
兵士達は入り口に佇むと、きょろきょろと辺りを見回しだした。女を探しているな、セラは彼らの目付きからすぐに察した。
ヘイブンでの悪夢のような大殺戮が起こってから、カレンは毎日のように新兵を募っている。彼らの中にはたいした道徳心もなく、どこにも歓迎してもらえないので審問会にすがりついてくるはぐれ者もいる。そしてそういうはぐれ者は、歓迎されないだけの理由があるのだ。
セラは彼らと目が合わないうちに急いで視線をジョッキに移した。しかし、運が悪いことに兵士達は酒場に入った瞬間からセラに目をつけていたのだ。

「よう、お嬢ちゃん。一緒に飲む相手が必要なんだろう?」

近付いてきた兵士達の中の一人がセラに話しかけた。
セラは上目遣いに彼を睨んだが、続けざまに他の二人が彼女を茶化す。

「エルフは酒を飲むよりも注ぐものだと思っていたが、酔って頬を赤くさせた奴もなかなかいいじゃねえか、なあ」

「極上の酒を味わいたくはないか?俺達が用意してやれるんだが……もしついてきてくれるなら」

「失せろ、ジョッキであんたのお粗末なアソコでも掻いてな」

それだけ言って、セラは席を立って逃げようとした。
しかしとっさに腕を掴まれ、その場に強引に引き留められた。

「まあ待てよ、まだ遊べるだろう」

「離せ、この尻顔野郎!」

そう叫びながらセラは男の腕を振り払った。
しかしその言葉が兵士達を挑発した。

「な、なんだと」

兵士の一人がセラの胸ぐらを掴む。

「ちょいと俺たちをなめているようだな」

「そういう奴らにはちゃんと教えてやると決めているんだ」

そう言った兵士がセラの顔に拳を向けた。
しかしセラは彼をきつく睨み付けると、その手からひらりと抜け出し、強烈な蹴りを股間にお見舞いした。
蹴られた兵士が悲鳴をあげてその場にうずくまる。
他の兵士二人は互いに顔を見合わせて、セラに視線を戻した。

「てめえ、この……!」

兵士がセラに殴りかかる。
セラはにっと口を吊らせると、二つの拳を構えた。

そこからは、もう大乱闘だった。
酒場の人々はなんだなんだとセラ達の周りに集まり、吟遊詩人は戦いの音楽を演奏した。
セラか兵士のどちらかが殴られると酒場で歓喜が起こった。ジョッキを掲げ、最高のパフォーマンスに拍手が響く。それがセラ達を奮い立たせた。
どちらが有利かは、もうわかりきっていることだが。



エマが酒場に入ってきたのに気付いたセラは、途端に顔を明るくさせて彼女の名を叫んだ。

「エマ、やっと来たな!」

「ああ、遅れてすまない。酒を一本奢ろうか」

「ううん、もう酒はいいんだ。それより、あたしの部屋でクッキーを食べようぜ」

にこにこしながらセラはエマの手を引いた。
エマはその手が切れて少量の血がついていることに気が付くと、驚いて彼女を見やった。

「セラ、この血……」

「ああ、うん、気にすんな。ちょっぴりトラブってな。でも全然問題なし!」

「セラ、酒場で喧嘩をするなとあれほど言ったじゃないか」

「そうだっけ、ブルは面白がってたけどな」

エマは奥で椅子に座っているアイアンブルを睨んだ。
一方、アイアンブルはただいつものようにジョッキを煽っていた。

「それよりクッキーだ。今日はレーズンを入れなかったぜ」

「はあ……わかった、今回は多目に見るからもう喧嘩はしないでくれよ」

「わかってるって、審ちゃん!」

そう言いながらセラはちらりと酒場の隅を見た。
空っぽの樽の中からは、三人分の脚がぐったりと覗いていた。
あの様子じゃ、もうここには二度と戻ってこないだろう。セラは思った。

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