洋ゲー
Team Fortress 2
※スカウトが病んでます。
両手に巻かれた包帯の下にリストカット痕があったら、という妄想の下書きました。
スカウトのイメージを崩したくない方は閲覧をご遠慮ください。
暗い部屋の中、テレビの明かりだけがスカウトと彼の座っているソファーを映し出している。
まるで自分の心みたいだ。大の字でソファーに沈みながらスカウトはなんとなしに思った。
目の前のテーブルからボンクの缶を取ろうと左手を伸ばした時、手首に鈍い痛みが走った。
たまらず手を引っ込めて確認をする。先ほどつけたばかりの真新しい切り傷が何ヶ所かにつけられていた。
「深く切りすぎちまったか?」
そうぼやき、スカウトはいつもより強くカッターを押し当てていたことを後悔した。
今日は兄達からいつもよりも酷い扱われ方をされたため、自然とリストカット時に力が入ってしまったのだろう。
とにかくこれ以上は止めておこう。スカウトははだけた包帯をまき直した。
エマに見つかったら、どう思われるかわからない。
気分転換にテレビ画面に目を移すと、ちょうど夜中のアニメをやっていた。
見るに、大兄弟の末っ子の主人公が兄達に嘲りを受けながらも、彼らより精一杯勉強をして良い大学へのぼり、見返すオチだ。
ふっ。スカウトはエンディングを鼻で笑った。
こいつは恵まれているな。自分は耐えきれずこうしているのに。
惨めか純粋な冷笑か、スカウトはくすくす笑いを止められなかった。
兄達の扱いに折れ、リストカットの毎日を送るオチならもう少し感情輸入できたかもしれない。
今度は右手でボンクを取り、スカウトは一口あおった。
すると、突然視界が真っ白になった。
何事かと顔を見上げると、部屋の電気がついているではないか。
「暗い中テレビ見てると目ぇ悪くするよ」
「余計なお世話だよ」
背後からの声にスカウトは片手で顔半分を覆った。
振り返って確認する必要は無かった。
「エマ、どうやって入ったんだ」
「メールも電話も繋がらないって言ったらお母さんが入れてくれたよ」
余計なことしやがって。スカウトは心の中で舌打ちをした。
しかし今更後悔しても遅い。リストカット中に運悪く掛かってきた電話とメールをスカウトは、確かにエマのものと知りながら無視していた。そんな態度をとられてエマが心配しないわけがなかった。
エマはふてくされてテレビ画面に目を向けるスカウトに苦笑いし、お土産に買ってきたボンクを手にぶら下げながらソファーに近付いていった。
「ねえ、どうして私が来るといつも不機嫌なの」
「彼女でもないくせにしょっちゅうメールや電話をしてくるから」
「何よ、幼なじみじゃないの」
背もたれに寄りかかり、エマは後ろからスカウトの肩に腕を回した。
「触るな」
素早くスカウトは左手でエマの片手を掴みとった。
エマは目を丸くさせた。しかし腕を掴まれたことではなく、とっさにスカウトが左手を押さえつけたことに。
まずい。スカウトは体を捻って左手をソファーの間に隠したが、エマの目は確かにそれを見た。
スカウトの左手首にまかれた白い包帯が、真新しい血液で薄紅色に彩られていたところを。テーブルに置かれた血錆びたカッターを。エマの視線に気づき、急いでそれも懐に隠したスカウトを。
エマは無言でスカウトの隠された腕を上に引っ張った。
痛い痛いとスカウトも抵抗するが、爪を立てんばかりに掴んだエマの手が決して左腕だけは自由にさせなかった。
なすすべも無いまま、包帯が乱暴に剥がされる。エマの前に、包帯の隙間からのぞく、リストカット痕を残したスカウトの手首が晒された。
「何してんのっ」
傷に目をやったままエマがスカウトを怒鳴りつける。
スカウトはそっぽを向いて、まだ少し抵抗した。
「自分が、自分が何やったかわかってんの」
「わかってる…そんくらいわかってるさ!」
腕をひとふりさせ、スカウトはエマの手を振り払った。先程より彼女の力が抜けている気がした。
それでもエマは眉の端を吊り上げ、呼吸が荒っぽくなっていた。
「リストカットの一つや二つ、俺の勝手だろ!」
「でも、でも…何になるのよ」
「俺が存在している証になるんだよ!」
一喝して、スカウトはエマを力いっぱい押した。
どずん、と重たい音をたてて尻餅をついたエマ。手に持っていたボンクの缶が床を無情に転がる。彼女は息をのんだだけで悲鳴は上げなかった。
そんなエマ、ソファーに膝を立てたスカウトが見下ろす。
二人の間に沈黙が訪れた。長い長い沈黙だった。本当は三分程に満たないのだろうが、重たく冷たい空気がその空間だけ時間を遅めていた。
「何言ってんのよ」
先手をとったのはエマだ。
偶然かテレビのCMが終わり、音楽番組の何曲目かが始まった時に彼女は口を開いた。聞き覚えの無い曲だった。
重たい腰を上げて立ち上がり、エマがスカウトに近付く。彼女が手を伸ばしてきた時、スカウトは思わず体を強ばらせた。
しかしスカウトが想像していた痛々しい暴行は起こらず、エマはスカウトの左腕を掴むと、腫れ物を扱うように優しく自分の頬にスリ寄せた。
「な、何するんだよ」
戸惑いを隠せない口調でスカウトはまた腕を振り払おうとした。
「黙って、動かないで」
しかし上目遣いに睨みつけてきたエマの視線はナイフのように鋭く、一回の怒鳴り声でスカウトを命令通り黙らせ、そのまま静止させた。
スカウトが汗を浮かべながら生唾を飲み込む内もエマは行為を続けた。
そして慎重にまだ絡みついた包帯を取り除くと、傷口へ唇を近づけ。
ぺろり。
大分滴りの収まったそこを舐めた。エマの口内に酸っぱい鉄の味が広がる。
もちろんスカウトはすぐに体を跳ね上がらせ、顔を真っ赤にして言った。
「や、止めろよ!汚いだろ!」
「やだ、止めない」
きっぱりと切り捨て、エマは今度は小さなリップ音をたてて軽く口付けをした。
スカウトの眉の端がガクンと下がり、全身を鳥肌が駆け抜ける。しかしスカウトはエマの顔を押しのけようとはしなかった。むしろ彼は勃起すらしていた。
エマの行為は三回程続いた。いずれも軽いキスだった。
スカウトの心臓は既に頭に響くまで高鳴り、体中を熱が纏わりついていた。
最後のキスを済ませるとエマは名残惜しげにゆっくり顔を離し、リップクリームのついた唇を一舐めしてスカウトに顔を向けた。
スカウトが二度目の生唾を飲み込む。
「証なら、もうあるわよ」
「何だよ…何言ってるかわかんねえよ」
スカウトは眉間に皺を寄せた。
エマは腹立ちを隠さない顔でスカウトを睨んだが、徐々にそれを哀愁に変えていくと強い口調で言った。
「あなたはここにいるの。あたしがその証。リストカットをするよりももっと確実な」
証なのよ。涙声と化した語尾がスカウトの耳にじっとりと入り込んだ。
エマはすすり泣きながらスカウトの頭を抱いた。
スカウトは一瞬目を見開いて誇張したが、すぐに力を抜いた。
「…エマ、ごめん。ごめんな」
自然とそんな言葉がでていた。
スカウトもまたエマの背中に腕をまわし、強く抱き返す。
自分の中の黒く湿ったぶよぶよの巨大な肉塊が、中心から激しく爆発して跡形も無くなったのを確かにスカウトは感じた。
その実感を離すまいとするようにスカウトは必死にエマに抱きついた。手首の痛みも気にせずただ必死に。
そうだ、なぜ気付かなかったのだろう。
自分にはずっと前からエマがいたではないか。
兄達に虐められ、母親にも我慢をしろと押しのけられた自分を、唯一寄り添って慰めてくれた相手。楽しみも悲しみも分かち合ってくれた相手。それはエマ以外の何者でもないのだ。
スカウトが涙を流したと同時に、背後から聞こえる曲は丁度サビへと入った。
『僕の弱さに気づいて抱きしめてくれ』『僕を離さないでくれ』とボーカルは何度も力強く歌っていた。
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