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Apex Legends


久々にランパートの家を訪れたエマは目の前に飛び込んできた様に思わず驚愕した。家の裏側にある薄汚れたガレージには用途不明の機械類が乱雑に置かれ、床には金属片やランパートの仕事道具が散らばっていた。部屋のあちこちには積み上げられた空き箱や恐らく作業で使うと思われる部品の山が築かれている。一言で現すなら正に汚部屋だ。
エマはあまりに酷い光景に眉を潜めて歯を食いしばった。すると近くで物音が聞こえたため、エマは辺りを見回すと足元に注意しながら慎重に部屋の中を進んでいった。

「ランパート? ラムヤ?」

名前を呼び掛けながらエマは周りに目を凝らす。すぐに近くの空き箱の山が動き、そこからプハッとランパートが頭を出した。

「ラムヤ!」
「ふああ。ん……? あれ、エマじゃんか!」

ランパートは大きなあくびをして目を擦り、エマの姿を視認すると驚いた顔をした。どうやら作業中に疲れて仮眠をとっていたようだ。赤い作業服を半分脱ぎシャツ姿になったランパートは何週間も風呂に入っていないのか髪が乱れており、いつも以上に身だしなみが滅茶苦茶だった。
「何しに来たの?」と目を丸くして問いかけるランパートに、エマは心配しかけていた顔をムッと歪めた。

「何しに、って……最近中々ラムヤが会ってくれないから、私から来てあげたんじゃん」
「あー、そうだっけ? はは……仕事に熱中してるとつい時間を忘れちゃうんだよね」
「もう! 二週間もまともに連絡してくれなかったんだよ? ラムヤのばかっ」

特に悪びれる様子もなくぼりぼりと頭を掻くランパートにエマは余計腹立たしい思いを募らせた。
エマとランパートはこう見えても恋人同士だ。ランパートは腕利きの改造屋として知られるエーペックスゲームのレジェンドで、エマは彼女が地元で知り合ったしがない少女である。大抵はランパートが試合に参加しているのでデートも週に一回程度しかできないし、試合が終わればランパートは改造屋の仕事に戻ってしまうため彼女らが二人きりで満足に過ごせる時間も多くはない。それのみならず、ここ二週間はランパートが上客からとある仕事を任されたため、ただでさえ少ないプライベートの時間が全く取れなくなってしまったのだ――その納期は短い割に報酬が良かったため、ランパートはまんまと飛び付いた――。ショートメッセージでのやり取りは続けていたものの、忙しいランパートがエマに返してくれる返事はかなり素っ気ないものだった。そういった事情もあり、とうとう寂しさで我慢できなくなったエマはこうしてランパートの家を訪れたと言う訳だ。
ランパートは不機嫌そうに腕を組むエマを見てため息を吐いた。

「はいはい、悪かったよ。今度からはちゃんとメッセージに返信するからさ、そう怒んなって。せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?」
「そう言ってラムヤはいつもその場を収めようとするじゃん!」
「はあ? じゃ、あたしにどうしろって言うのさ? こっちは仕事で忙しいんだ、一々暇な時間も取れないことくらいエマだって分かってんだろ」

顔を睨み合わせ、二人の視線に火花が散る。あくまで上客からの仕事を優先したいランパートと、それを理解しつつもやはり彼女と一緒に過ごしたいエマでは全く意見が合わなかった。
「……もう、いいよ」先にその場から退いたのはエマだった。エマは先程までしかめていた表情を途端に沈ませるとランパートから顔を離し、彼女に背を向けた。
ランパートはまだそんな風に拗ねるエマを腹立たしく見つめていたが、やがて自身も申し訳ない気持ちになって眉の端を下げた。
よし、今からちょっくら出掛けるか。しょんぼりしたエマの背中へそう声を掛けてあげたいところだが、納期に間に合わせるためには今日中に終わらせなければいけない作業がまだ沢山残っていた。ランパートは報酬に目が眩んだ自分を今更後悔するのだった。

「なあ……今日は仕事があるから相手してやれないけどさ、その、ガレージなら好きに見て回ってくれていいから。なんなら家に泊まっていきなよ」
「それは……遠慮しとく。ラムヤの家って変なにおいがするんだもん」
「おい、なんだよそれ! あたしん家の魅力が分からないなんてねえ」

やれやれとランパートは首を横に振る。そんな彼女の様子を背中から見て、エマの表情にも笑顔が戻ってきた。
「じゃあ、ガレージ見てる。せっかく来たんだし」エマはそう言うと適当にその辺りへ荷物を置き、ランパートの仕事場を観察することにした。
「どうぞどうぞ。ただ、あんまり変な所は触んないでね」ランパートはそう言いながら空き箱の山から立ち上がると凝り固まった体を解し、作業を再開させた。少しでもエマが機嫌を取り戻してくれたことにランパートは内心安堵するのだった。
実はエマがこうしてじっくりとランパートのガレージを見せてもらうのは始めてだ。一度だけ彼女の家に泊まりに来たことはあるが、その時に機会を失って以来だった。
ガレージ内を歩き回りながらエマは何気なしに足元に転がっていたレンチを拾う。手に持って何度か裏表を確認したが、すぐに興味を無くして近くの工具箱に放り入れた。
何か面白い物は無いだろうか。そんなことを考えながらエマが近くの作業台に向かうと、ふと彼女の目に止まる物があった。一枚の紙切れだ。おおよそA4画用紙サイズのそれは、見るだけで頭が痛くなりそうな設計図の下に隠すように置かれていた。エマは好奇心から紙切れを引き抜くと内容を確認してみた。
「わっ」次の瞬間、エマは思わず明るい声を上げていた。そこに描かれていたのはランパートの物と思われる落書きだった。彼女とエマが笑顔で頬を寄せて抱き合い、周りにハートが散っている。その下にはランパートの筆跡でエマへのもどかしい思いが独白形式に綴られていた。エマはそれを読んでふと小さく笑うと微笑ましさに胸を熱くさせた。結局のところランパートもエマと会えず寂しさを感じてくれていたのだ。

「ねえラムヤ、これあなたが描いたの?」
「何が? ……ちょ、おい! 見るなよ!」

エマが例の紙切れを持っているのを目にすると、ランパートは即座に作業を中断させて彼女の方へ駆け寄ってきた。エマの手から紙を奪おうとするも、彼女はそれをひらりとかわした。
ランパートがムスッと眉間に皺を寄せてエマを睨み付ける。そんな彼女をエマはにやりと口角を上げて勝ち誇った様に見ていた。

「ふざけんのは止めろ! さっさと返せっ」
「やーだ。何で隠してたの? この絵すごく可愛いじゃん」
「あー、あー、うるさい! 余計なこと言うなあ!」

気付けばランパートの顔は彼女も分からぬ内に真っ赤になっていた。
ランパートは依然腕を伸ばしてエマに挑み続けるも、エマもまたその都度ランパートの腕から自身の手に持った紙を遠ざからせて対抗した。そうして必死な様子のランパートにエマのいたずら心はくすぐられ、心底可笑しそうにケラケラと笑ってしまうのだった。普段はどちらかと言えばランパートが主導権を握る事が多いため、こうして立場を逆転できたことがエマは楽しく感じられた。しかしそれが祟り、エマはランパートに夢中になりすぎて足元に物が当たった事にすら気付かなかった。
「このっ、このっ、返、せっ」ぐいっとランパートに強く体を押し付けられた時、エマは不意に足を躓かせるとバランスを崩した。

「わっ、あ――」
「危ない!」

背中から倒れ込んだエマへ咄嗟にランパートが手を伸ばす。そのまま彼女もバランスを崩し、二人共々叫び声をあげて地面に転倒した。どすん、と大きな音を立ててエマが尻餅をつく。幸運にも倒れ込んだのはちょうどクッション素材が置かれた場所だったようで、エマは軽く腰を痛める程度で済んだ。
「痛たた……」苦痛に顔を歪ませてエマは腰をさする。「ラムヤ、だいじょう――」ふと顔を上げると、エマの鼻先が当たりそうなほど近くに目を丸くさせたランパートの顔があった。エマはそれに思わずどきりとして肩を強ばらせた。自身の頬が熱を帯びるのが分かる。ランパートも何が起きたのか理解仕切れていないようで、エマを組み敷いた体勢のままその場で固まっていた。
「ラ、ムヤ……」生唾を飲んだエマがランパートの名前を呼ぶと、ふと彼女は空きっ歯を見せて笑った。そして逃げられないように手早くエマの両手を頭上で束ねて拘束し、次には乱暴に唇を貪ってきたのだった。驚いてエマは咄嗟に抵抗するも、熱烈な口づけが続くと次第にそれも大人しくなり、最終的に目を瞑って身を委ねた。
「――ぷはっ」しばらくして満足したランパートは唇を離すと大きく息を吸った。そのままにやけた顔でエマを見下ろしてくる。

「ああ、やっぱたまにはこういう事もしなきゃね」
「別にいいけど、次はせめて歯を磨いてからにしてよ……」
「ったく、ムードが無いなあ。口が嫌ならこっちにしてやるか」

そう言ってランパートは屈み込むと、エマの首筋にキスを落としてきた。かと思えば、唇を押し当てたまま左右に顔を揺らして激しく息を吹き付けられる。
「あはっ、ラムヤ!」くすぐったさに堪らず笑い声をあげてエマはランパートを押し退けようと彼女の頭に手を添えた。ランパートも思わず吹き出して笑うが、くつくつと肩を震わせながらもキスを止めようとはしなかった。
次第に興奮してきたランパートはエマの着ている服に手をかけるとそのまま一思いに脱がせた。その後自身もシャツを脱ぎ捨て、下着姿になる。ダンッ、と勢い良く床に両手を叩きつけて再びエマを組み敷いたランパートはキスを再開させた。
胸元に唇を吸い付かせてくるランパートを見下ろしてエマは困ったように口元を緩ませた。

「ね、仕事はいいの? まだ作業が残ってるんでしょ」
「休憩だ、休憩。どうせなら一発ヤってからにするわ」
「もう、そういう言い方は止めてよね!」

そうランパートを叱るエマだが、そんな彼女の言葉遣いすらも不思議とエマにとっては愛おしく感じられるのだった。
エマとランパートは互いに抱き合うとそのまま情事を始めた。ガレージの床にはそんな二人を見守るようにランパートの絵が描かれた紙が落ちているのであった。

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