洋ゲー

Apex Legends



試合が終わった夜のパラダイスラウンジは毎回大勢のレジェンド達で賑わっている。
エーペックスゲームには今シーズンからの参加となったエマは、カウンター席で何人かのレジェンド達と横になって座りながら談笑していた。

「――で、私は幸運にもブリスクの推薦を受けてゲームに参加したってわけ」

エマの経歴を聞いたジブラルタル、ヴァルキリー、そしてパスファインダーはその壮大な物語に大きく歓声をあげた。それはすごいね、とパスファインダーは拍手さえしていた。三人から黄色い声援を浴びたエマは少し照れ臭そうな笑顔を見せた。

「ははは、さすがは俺の次に今注目されているレジェンドだな」

そこへカウンターの向こうで話を聞いていたミラージュが茶々を入れた。

「ほらエマ、今夜はお前が初めて俺のバーに来た記念すべき日だ。特別に一杯、いや二杯までは奢りにしとくぜ」

そう言うとミラージュは背後の食器棚から未使用のグラスを一つ取り出してエマからの注文を待った。
エマが小さく笑い声をあげる。

「じゃあお言葉に甘えて。そうね……実は私、あまり苦いお酒は飲めないの。何か甘いものを作ってよ」

突然、エマの隣に座っていたヴァルキリーは彼女の言葉に飲んでいた日本酒を口から吹き出した。驚いてエマがヴァルキリーに振り向くと彼女は腹を抱える勢いで大笑いしながら自身の口を拭いていた。一方、カウンターに酒を吹きつけられたミラージュは慌てて布巾で後始末に取りかかった。

「エマ、あんたそんなに物騒な経歴をしておいて甘い酒しか飲めないのかよ?」
「な、なによ。人の好みにとやかく言わないでよね」
「あはは、いいや別に……そんなあんたもかわいいなって思ってさ」

ヴァルキリーからの思わぬ口説き文句にエマは心臓を高鳴らせた。そんな彼女を知ってか知らずか、ヴァルキリーは涼しい顔でおちょこに残った酒を呷った。
本気なのかはたまた冗談なのか上手く判断のつかないエマはいつの間にか赤くなった顔でヴァルキリーを見つめていた。その視線に気付いたヴァルキリーもエマをちらりと見ると、「んー?」と間の抜けた声を出してニヤケた顔を向けてきた。

「なんだよ、そんなに見つめちゃって。これに挑戦してみたくなったのか?」

そう言ってヴァルキリーは日本酒の瓶を持ち上げて見せる。

「エマの舌にはまだ早いと思うぜ」
「こ、子供じゃあるまいし日本酒の一杯や二杯飲めるわよ」
「あ、そう。あんた普段はどんなのを飲んでるわけ?」
「え? ……ほろよい、とか」

おずおずと商品名を口にしたエマにヴァルキリーは再び大笑いを浴びせた。エマの出身国である日本でしか流通していない酒だが、彼女と同じ日本人であるヴァルキリーにはそれがどんなものなのかしっかり分かった。
エマ、あんた最高だよ、と笑いながら背中を叩いてきたヴァルキリーに当のエマは不満げに彼女を見ていた。歳もそれほど違わない彼女から酒の好みだけで異様に子供扱いをされる事にエマは納得がいかなかった。
ひとしきり笑い終えるとヴァルキリーは酒瓶から次の一杯をおちょこに注ぎ、それを飲もうとした。しかしちらりとエマを見やると、何かを思い付いたかのように彼女の方へ体を寄せてきた。

「なあ、あたしが口移しで飲ませてやろうか」

顔を近づけてヴァルキリーがエマに耳打ちをする。その突飛な提案にエマは驚いてヴァルキリーを見た。彼女の目は誘うように細められ、ふくよかな唇の端を緩ませて笑顔を作っていた。
エマはしばらく呆気にとられた表情でヴァルキリーを見つめていた。その顔はヴァルキリーにとってかなり滑稽に映っただろう、それから少しして彼女は吹き出すとからかうように笑い声をあげてエマから顔を離した。

「エマ、まさか本気にした?冗談に決まってるだろ」
「私で遊ばないでよ、ヴァルキリー!」
「はは、悪いね。でもあんたの照れた顔があんまりにもかわいかったからさ」

再び甘い言葉を口にしたヴァルキリーだったが、エマは拗ねた顔で彼女を睨んでいた。

「またそんなこと言って……」
「ん? 今のは冗談じゃないんだけどな」

ヴァルキリーが頬杖をついてエマの顔を覗き込む。

「そんなに頬を赤らめられちゃ、今すぐベッドに押し倒したいくらいだよ」
「な、何言って……!」
「ああそれとも、壁に押しあてて間近でじっくりとその愛らしい顔を見させてもらおうかな」
「ヴァルキリー、悪い冗談なら今すぐに止めてっ」

ヴァルキリーからの数々の口説き文句にとうとう耐えきれなくなったエマは僅かに顔を逸らした。彼女の髪の毛から赤くなった耳が覗いているのを見て、それにヴァルキリーも微笑ましく笑う。
いっそ耳たぶにキスしてやろうか。ヴァルキリーがそんな事を考えた時、カウンターからミラージュが制止に入った。

「ほらほらお前ら、いちゃつくなら他の場所でやってくれよ」
「私は別に、ヴァルキリーがおかしなことを言ってくるから……」
「なんだよ、エマも照れてたくせに。なあ?」
「オーケー、オーケー。とりあえず酒は作っておいたから、エマはこれでも飲んで落ち着きな」

そう言ってミラージュはカクテルの入ったグラスをエマに渡した。
エマはまだどこか不満そうだったが、素直にグラスを受け取るとカクテルを一口呷った。彼女の要望通りはっきりとした甘い風味が口の中に広がる。美味しい、と呟いてエマはようやく安心した表情を見せた。

「なあ、あたしにはくれないのか?」
「え? 同じものが飲みたいならミラージュに頼めば……」
「そうじゃなくて、あたしに口移しで飲ませてくれないの?」

ニッと歯を見せて笑顔になりながらヴァルキリーは再びエマをからかってきた。

「もう、いい加減にしてよねヴァルキリー!」

しかし今回ばかりはさすがに呆れて、エマはその言葉を最後に今度こそそっぽを向いてしまった。
なんだよ、悪かったよ、と苦く笑いながらもエマの背中に謝るヴァルキリーだったが、エマは二度と彼女とは口をきかなくなってしまうのだった。

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