洋ゲー

Sky


カーン、カーン、と鉄を叩く音が鍛冶場に響き渡る。雨林の大精霊は自分の背丈以上もの巨大なハンマーを振るい、今日も忙しく鋳造に励んでいた。
ふと作業の手を止めて大精霊は額の汗を拭う。新しい材料を手探りで探すが、辺りを見回すと手元にあった分はすべて使いきってしまったようだ。
「エマ。エマ、今すぐいらっしゃい」大精霊は少し苛立ちを含んだため息を吐くと鍛冶場全体に響き渡るような大声で名前を呼んだ。すぐに遠くから「はい、大精霊様」と返事が聞こえてくると、鍛冶場の奥から大精霊の愛弟子であるエマが姿を現した。パタパタと小さな足音を立ててエマは大精霊の足元へ駆け寄ってきた。

「大精霊様、どうしましたか?」
「鉄を切らしてしまいました。今すぐ新しい分を持ってくるように」
「……あの、大精霊様」

大精霊からの命令にエマはばつが悪そうな顔で口ごもった。大精霊はエマに見向きもしていなかったが、その様子に気付くと怪訝そうに彼女を見やった。
「何でしょう。話すことがあるならば早く言いなさい」と苛立つ大精霊に急かされてエマはようやく口を開いた。

「実は鍛冶場にあった鉄はあれがすべてで……新しいものを手に入れるには雨林の採掘場か他の大精霊様まで頼みに行かないと難しいです」
「すべて? あれで? 何をばかなことを――」

そうぼやきかけた大精霊であったが、ふとそれまでの出来事を振り返った。確かに、思えば今日はいつもよりもかなり大量の鋳造品を作っていた。書庫へ送るものに加えて雨林を発展させるために必要なものまで、つい夢中になってしまいまったく気に止めてはいなかったがとにかくあらゆるものに鉄を消費していたのであった。
改めて考えてみればただでさえ多くはない鍛冶場内のストックが無くなってしまうのも時間の問題だったか。大精霊は頭を痛めた。
仮面越しに眉間を摘まみ、大精霊は少し悩んだ後に顔を上げた。

「仕方ありません。大至急、採掘場から鉄を掘り出してくるよう、精霊たちに伝達なさい」
「はい。それまで大精霊様はいかがなさるのですか?」
「わたくしは……そうね、少し休憩をしておきましょう。行く前に何か休めるものを持ってきてちょうだい」

わかりました、とエマは深く頭を下げて鍛冶場から去った。彼女が雨林へ出掛けている間、大精霊は金床に腰かけてエマが檻から連れてきた一匹のマンタの幼生を愛でながらくつろいだ。
しばらくしてエマが帰ってくるとそんな大精霊の様子を微笑ましく見つめながら彼女の前へ回り込んできた。

「精霊たちには伝達を済ませました。すぐに新しい分が送られてくるでしょう」
「そう、ご苦労様でした。エマ、お前もこっちへ来て休みなさい」

大精霊はそう言ってエマに大きな手を差し伸べてきた。エマは大精霊の手のひらに腰かけると大精霊はそのまま彼女を自身の膝の上へ持っていき、座らせた。
彼女らの周りを人懐こく飛び回っているマンタを眺めながらエマは口元を緩ませた。

「こうして大精霊様とゆっくり時間を過ごせるなんて、私は幸せ者ですね」
「ばかを仰い。お前はわたくしの大切な愛弟子なのですから、当然よ」

鍛冶作業をしている時とは打って変わり、優しい声で大精霊は言うとエマの頭を撫でる。大きな手のひらがエマの髪の毛をくしゃくしゃと乱した。鍛冶以外に関してはそんな風に不器用ながらも自身を愛でてくれる大精霊のことがエマは好きだった。
マンタの鳴き声を聞きながら二人はしばしの間、安らぎの一時を共に過ごすのであった。

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