洋ゲー

Apex Legends


※ブラハ→←夢主前提です。










「キアオラ! 部隊が全滅したよ」

マギーが最後のショットを敵の頭に一発撃ち込むと、次の瞬間相手は糸の切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちた。
マギーが力強くガッツポーズを取り、喜びの雄叫びをあげる。
血溜まりと共に地面に転がった三人分の死体を見下ろしてマギーはそこに唾を吐き掛けた。彼女の様子を横目で見ていたチームメイトのエマはその無慈悲さに一瞬眉を潜めるも、すぐに無理矢理笑顔を作った。

「ナイスキルだね、マギー」
「ナイスキルだあ? そんな当たり前のことを一々褒めるんじゃないよ、優等生のチアリーダー気取りが」

マギーはエマの賛辞にはいっさいなびかず、むしろ腹立たしそうに彼女を睨み付けた。
素直な言葉だったのにも関わらず予想外な噛みつかれ方をされてしまい、さすがにエマは怯む。
普段から仲間に声掛けをしてチームの雰囲気を盛り上げようと努めているエマの姿は、マギーにとっては"優等生のチアリーダー"として映ったようだ。もちろんエマはそんなつもりも無かった訳なので、マギーの罵倒は素直に彼女を傷つけた。
落ち込んだように目を伏せるエマを、同じくチームメイトのブラッドハウンドが隣から見やる。それからマギーに視線を向けてゴーグル越しに彼女を睨んだ。

「仲間からの賛辞は素直に受け取っておけ、マギー」
「ああ? なんだ、あたしに文句でもあんのか?」
「文句ではない、忠言だ。エマは本心からお前の腕を認めているのだ」
「ハッ。ウォーリーの金魚の糞かと思ったら、今度はお姫様を守るナイトかよ。大体こんな女の肩を持って何が――」

悪態をつきながらマギーがエマに手を伸ばす。しかし彼女の髪の毛に触れようとした時、すかさずブラッドハウンドがマギーの腕を掴んで阻止した。
マギーがカッと目を見開き、鬼のような形相でブラッドハウンドを睨む。
ブラッドハウンドの掴む力は凄まじく、マギーの腕をギリギリと締め付けてきた。マスクをしているので表情こそ分からないものの、こちらに明確な敵意を向けてきているのは明らかだ。

「その手で彼女に触れるな、サルボ人」
「お前こそ片腕を失いたくないんだったら今すぐ手を離しな」
「エマに危害を加えないと約束するならな」

声色に殺意を込めて二人はしばらく睨み合った。交わった視線の間で見えない火花が激しく散る。
マギーの目は彼女の中の残酷性を余すこと無く露にしており、ブラッドハウンドもまた獲物を狙う鋭い狩人の瞳で彼女に対抗していた。
エマはどうして良いか分からず、マギーとブラッドハウンドの横顔を交互に見ていた。何よりもこんなに殺意を露にしたブラッドハウンドをエマは今まで一度も見たことがなく、彼女はそのことに一番動揺していた。

「ブラッド、マギー……な、仲たがいはやめようよ。私が変なことを言ったのが悪いの。それにまだ試合中でしょ?」
「ああ。そうだな、ハウンド?」

マギーは困惑しているエマを見やると厭らしく笑んでブラッドハウンドに顔を戻した。
ブラッドハウンドもエマに視線を向ける。眉の端を下げて明らかに動揺している彼女の表情はブラッドハウンドに冷静さを取り戻させた。
ブラッドハウンドはため息混じりに低く唸り声をあげると無言でマギーから手を離した。

「謝罪しよう、マギー。カッとなって悪かった」
「いいさ。血の気が多い奴はサルボにだって山ほどいるからね」

嫌みのようにマギーがブラッドハウンドへ台詞を吐き捨てる。
ブラッドハウンドは何も言い返すつもりは無く、素直にマギーの言葉を受け取るとそのまま鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

「二人とも、もう大丈夫……だよね?」

不安げな目でエマがマギーとブラッドハウンドを交互に見やる。
マギーはエマに顔を向けると「ああ、仲直りの時間は終わりだ」と目元を細めて笑った。それを確認してエマはようやく表情を緩ませた。
ちょっとした口論を終えたマギーはその後死体の中の一体からピースキーパーだけを奪い取ると、残りの物資には手をつけず早々にその場から踵を返した。

「漁るもんがあるならさっさと漁りなノロマ共。残す部隊はもう半分だ。他の連中に獲物を取られちまう前に行くよ」
「うん。私たちも必要なものを取ったらすぐに追いかけるね」
「ああ、何なら手頃な袋も探しておくんだね。これからどんどん敵の内臓をぶちまけて行くんだ、吐きたい時に吐けないのはツラいぞ」
「う、うん……あったら忘れずに持っていっておく」

マギーの毒のある冗談にエマは苦笑いした。マギーは彼女を嘲笑するとそのまま先行して歩き出すのであった。
マギーの後ろでエマとブラッドハウンドも敵の死体から物資を漁る。
「エマ、大丈夫か」マギーに聞こえないよう声を潜ませてブラッドハウンドは不意にエマに話し掛けてきた。
「何が?」上手くその言葉の意味を理解できなかったエマは怪訝そうな目でブラッドハウンドを見やった。
ブラッドハウンドは静かにため息を吐くと一度マギーの様子を伺い、それから続けた。

「彼女……マギーと共に行動することについてだ。彼女は我々に対してあまりにも攻撃的すぎる。今は同志として迎えているものの、いつまた先ほどのようにこちらへ手を掛けてくるか分からないぞ」
「ブラッドは心配しすぎだよ。こっちから彼女を刺激しなければ大丈夫でしょ」
「ただの心配性だと思わないでくれ。エマのことは誰よりも気に掛けている。お前にもしものことがあったら、私はとても耐えられない」
「ブラッド……ありがとう。私を気遣ってくれているんだね」

エマは一瞬意外そうな顔をしたが、すぐに表情を和らげるとブラッドハウンドに微笑んだ。
ブラッドハウンドもエマを見て小さく含み笑う。お互いを愛おしく見つめ合う視線が柔らかく交わった。
そんな二人を背にしてマギーは独りほくそ笑んでいた。

「なるほど、そう言うことか」

エマとブラッドハウンドの会話に聞き耳を立てていたマギーはそう独り言を呟くと、にやりと口元を吊らせた。

「生意気な犬を調教するのにちょうどいいおもちゃが見つかったよ」

サルボで共に蛮行を繰り返していたヒューズが今やブラッドハウンドを相棒としていることを知った時、マギーはその事実を受け入れられなかった。
裏切られたとは言え元々は自身のソウルメイトも同然だった男だ。そんな彼を奪い、昔の面影すら感じられないほど軟弱にさせたブラッドハウンドのことが素直にマギーは気に入らなかった。
どうにかしてブラッドハウンドに道理を分からせてやれないものかとマギーは考えていた。その人は卓越した狩人で、生き物を殺す腕は研ぎ澄まされている。信仰心も非常に強いため、ただの脅しでは絶対に屈しないだろう。
しかしブラッドハウンドとエマの様子を見て、マギーはこれがその人の弱みなのだと言うことを瞬時に悟った。語らずとも二人が何か特別な感情を抱き合っているのは明らかだ。ならばマギーにとってエマは最高の脅迫材料になるだろう。
毒蛇のような瞳でマギーは肩越しに背後を見やった。彼女の目にはエマしか映っていない。マギーが非道な考えを巡らせていることは露知らず、ブラッドハウンドの隣で幸せそうにしている。
――せいぜい今のうちに笑っているがいいさ。
マギーは品定めするようにエマを見ながら舌舐りをした。黒い唇の上を真っ赤な舌がゆっくりと滑っていった。

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