洋ゲー

Apex Legends


ストームポイントの密林地帯でエマとブラッドハウンドは崖の上から獲物を探していた。丁度良く生い茂った草の間に体を這いつくばらせ、二人それぞれスナイパーライフルを構えている。遠くの避雷針から響く鈍い雷の音や、時折顔の周りを飛ぶ小さな羽虫以外はとんと・・・人気ひとけを感じないものの、現在のリング状況から考えれば今の位置が最もキルを狙いやすかった。
辛抱強くスコープを覗くエマだが、しばらくすると自然と彼女の視線は隣のブラッドハウンドへ向けられていた。それまで全く敵が現れず暇だからという理由もあるが、それ以上にブラッドハウンドの格好が頻繁に彼女の注目を惹いていた。
今日のブラッドハウンドはいつもの傷だらけの狩人服ではなく、頭にプラウラーの頭蓋骨を被り体に鳥の羽を纏った、より原始的な衣装に身を包んでいた。青を基調とするその服は『ヤングブラッド』と公称されている物で、幼い頃にブラッドハウンドが着ていた狩人服と似せて作られた試合用の特別な衣装だ。その姿が新鮮でいつもよりも若々しく見えるものだからついついユメの意識はその人へ移ってしまうのだった。恋人がいつもとは違う服を着ていたら普段よりもきれいに見えるように、獲物を探す真剣そうな横顔にすらエマは胸をときめかせずにはいられなかった。

「私が気になるか?」
「え? い、いや、そんなことは」

不意にブラッドハウンドから声をかけられてエマは思わず視線を逸らす。その人はエマへ顔を向けぬまま静かに含み笑った。

「そんなことは無いわけが無いだろう。先程から何度も私を見てきているではないか」
「あ……知ってたの?」

エマは恥ずかしそうにブラッドハウンドを見やった。
「ああ」ブラッドハウンドが頷く。「私もお主を見ていたからな」そう言ってその人はスナイパーライフルを構え直した。エマは少し頬を赤らめて笑った。

「当ててやろう。この服だな」
「う、うん。ブラッドがいつもの服を着ないなんて珍しいなと思ったの。それ、初めて見る衣装だし」
「そうだな。普段の物は馴染み深く着慣れているが、これは私に懐かしい記憶を思い出させてくれるのだ」
「確か、ブラッドが小さい頃に着ていた服なんでしょ?」
「よく知っているな?」

ブラッドハウンドがエマへ顔を向ける。ゴーグルで隠れていて表情は伺えないが目を丸くしているのがなんとなく分かった。
エマは笑顔で頷く。「あなたの事は何でも知ってるよ」そう言って優しくブラッドハウンドへ微笑んだ。
ふ、とブラッドハウンドは小さく鼻で笑うと顔を戻した。

「そうだ。まだ叔父のもとで修行をしていた頃に着ていた服を模している。細部までとはいかないものの、それでもこのヘルムは試練を終えた際にアルトゥル様から引き継いだ物だ。私がブロスフゥンダルとして生誕したあの夜に」
「特別な衣装なんだね」

ブラッドハウンドは頷いた。

「お主にも気に入ってもらえたのなら嬉しい」
「もちろんだよ。とっても素敵だね、ブラッド」
「ふふ。ありがとう、エマ。……リングが外れてしまったな。この様子なら、再び収縮する前に私達も移動してしまおう」

ブラッドハウンドが話している途中で丁度次のリングの報告がアナウンスされ、マップの情報が更新された。次のリングは現在二人がいる位置から少し離れている。かなり高低差が激しく有利不利の別れる地形のため、早めに移動してポジションを確保しておいた方が良さそうだ。エマは頷くとスナイパーライフルを仕舞い、ブラッドハウンドと共にその場から立ち上がった。

「ねえ、その衣装で一番好きなところを教えて上げる」

移動中にエマは隣を行くブラッドハウンドへ声をかける。
「なんだ?」ブラッドハウンドは怪訝そうに彼女へ振り向いた。エマはにっこり微笑んで続けた。

「こうやって、試合中でもブラッドの素肌にさわれるところだよ」

そう言ってエマはブラッドハウンドの片手を握った。そのまま指を絡ませ、露出したブラッドハウンドの指先を愛おしげに撫でる。赤茶けた太い指にエマの細い指が交差した。

「エマ、お主は……」

突然の大胆な行為に思わずブラッドハウンドは呆れる。しかし満更でもなさそうに首を横に振りながら笑い声をあげた。

「お主は、本当にかわいらしいな」

二人はしばらく手を繋いだまま肩を並べて歩くのであった。

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