洋ゲー

Farcry 5


携帯のアラームで目を覚ましたジェスはゆっくりと瞼を開いた。
寝室の窓はカーテンが開け放たれており、そこから差し込む陽光が室内を明るく照らしている。ホープカウンティの新しい朝だ。
ジェスは唸り声をあげながら体を伸ばすとエンドテーブルの電子時計を確認した。時刻は七時を少し過ぎている。普段早起きなジェスにしては遅い方だ。恐らく、昨夜のせいで寝過ぎてしまったのだろう。そう思いながらジェスは空いた隣の枕元を見やり、口元を緩ませた。
ジェスはベッドから起き上がるとあくびをしながらそのままキッチンへ向かった。
ジェスがキッチンに入ると、ちょうどエマが朝食を作っているところだった。こちらに背を向けた恋人はコンロで何かを焼いており、カウンターに置かれたラジオから流れる音楽に合わせて鼻唄を歌っている。
ジェスはゆっくりとエマの方に近付くと、背後から彼女の腰を抱いた。
「きゃっ」驚いたエマが悲鳴をあげる。しかし振り向いてジェスの姿を確認すると、すぐに笑顔を見せてきた。

「ジェス。もう、びっくりさせないで」
「ふふ、悪い悪い。何してんの?」

エマの反応が面白くてついジェスはいたずらに微笑む。そのまま背後からコンロを覗き込んでジェスは問いかけた。

「ジェスのために朝ごはんを作ってるの。いつもピザとかバーガーばかりじゃ体に悪いでしょ」

そう言ったエマの握るフライパンでは目玉焼き二つと厚切りのベーコン二切れが焼かれていた。目玉焼きは黄身が半熟状で、油のにじむベーコンは程よく焦げて周りがカリカリだ。自然とジェスの口内で唾液が湧いてくる。
カウンターにはまだボウルに入ったパンケーキ生地も用意されていた。ベーコンエッグの次はそれも焼くつもりなのだろう。

「ありがたいね。あんたが料理してる所を見るなんて初めて」
「こう見えて料理は得意なの。まるであなたの母親にでもなったみたいね」
「けど、母親にはこんなことしないだろ?」

ジェスはそう囁くと、昨夜自分がエマへ付けた首筋の痕にキスを落とした。
突然のことにエマは驚き、文字通り体を飛び上がらせる。それから背後に振り向き、真っ赤な顔でジェスを睨んだ。
「ジェス、ふざけないで」照れ隠すようにエマが素早く笑い声をあげる。「料理中は危ないでしょ」そう言ってフライパンに顔を戻し、フライ返しでベーコンをいじった。
「はいはい、分かったよ」ジェスもにっこりと口元を緩ませると仕方なくエマの体から離れた。
顔を洗ってきて、とエマに言われたのでジェスはそれに従い洗面所へ向かう。身だしなみを整えて再びキッチンに戻ればエマは既にパンケーキを焼く行程に移っていた。ジェスはまた背後から近付こうとしたが、エマに叱られてしまうだろうと思い仕方なく彼女の隣へやってきた。
カウンターに背を預け、ジェスはエマがパンケーキを焼く様子をじっと眺めていた。エマはジェスの方を一瞬見やると声を出さずに笑い、口を開いた。

「今朝ダッチから無線が入ったの。前に三人でディナーをしないかって話をしたでしょ。ようやくそれにオーケーを貰えたわ」
「はっ、いいね。叔父さんはそう言うのあんまり好きじゃないけど、こっちも早く彼に自慢のガールフレンドを紹介したかったから」
「自慢の?」
「当たり前だろ。こんなに美人で強くて、あのクソペギーどもから街を救ってくれるガールフレンドを持てたのはあたしの一番の自慢だよ」
「ふふふ。私もよ、ジェス」

エマは少し照れて、でも幸せそうにジェスへ微笑みかける。ジェスもエマに笑顔を返した。
「さ、できた」パンケーキを焼き終えたエマはコンロの火を消して二人分の皿にそれぞれ取り分ける。
綺麗なきつね色の焼き目がついたパンケーキは白い湯気をたてて、甘い香りを漂わせていた。先程のベーコンエッグと合わせて机に並べれば、まるでアメリカの朝を体現したかのような光景が出来上がっていた。
「すごい。美味しそう」ジェスの口から素直な感想が漏れる。

「エマは本当に料理が得意なんだね」
「ありがとう。ダッチとのディナーも楽しみにしておいてね」
「ああ。それじゃ……そろそろキスしてもいい?」

そう言ってジェスはエマの顔色を伺うように上目遣いになりながら彼女に肩を寄せた。先程からずっとジェスの頭の中にあったのは、早くエマとおはようのキスをしたいという事だけだった。そのままエマの腰に手をまわすと、彼女は一瞬目を丸くさせながらもすぐ仕方無さそうに微笑んだ。
「もう、ジェスったら……」まるで小さな子供に呆れるように首を横に振り、エマもジェスの方へ顔を寄せる。
ジェスは小さく笑うとエマの頬に手を添えた。そのままジェスが目を閉じながら唇を近づけるとエマも同様にそれを受け入れ、二人は口づけを交わした。添えられたジェスの手にエマも手を添える。
窓の外ではホープカウンティの住民も徐々に起き始め、賑わいを見せてきた。店が開き、道路に車が走り、歩道に人気ひとけが多くなってくる。ジェスとエマの二人もこうしてまた新しい朝を迎えるのであった。

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