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Apex Legends


※夢主→ブラハさん←ヒューズ










スカルタウンをキングスキャニオンの蒸し暑い風が吹き抜ける。
ブラッドハウンドは乾いた土をじゃりと踏みしめてこの荒廃したゴーストタウンを偵察していた。その後ろをチームメイトのエマ、ヒューズが続く。
未だに敵部隊の気配は無い。念のため怪しげな方向へスキャンまでかけたが、生命反応はゼロだった。安心してブラッドハウンドは仲間にサインを送り、全員で辺りを探索することにした。
ブラッドハウンドが建物群のうちの一つを漁っていた時だ。「ねえねえ、ブラッド」そう背後から肩をつつかれ、ブラッドハウンドはそちらへ振り向いた。見ればエマがにこにことした顔でこちらに片手を差し出している。その手の上にはレベル二のレーザーサイトが握られていた。
思わずブラッドハウンドは驚く。それはまさに、先ほどからブラッドハウンドが必要としていたものだったからだ。一応仲間に向けてアイテムの要請をしてはいたが、それも一度だけで数分前の出来事であった。
ブラッドハウンドはおずおずとエマの掌からレーザーサイトを摘まみ上げた。

「これは……私の言葉を覚えていてくれたのか」
「うん。これが必要だったんだよね? たまたま向こうで見つけたんだ。遠慮無く使ってよ」
「ああ、ありがとうエマ。とても助かる」
「気にしないで。ブラッドの役に立てたなら嬉しいよ」

そう言ってエマは照れ臭そうにはにかんでは、自分の頬を掻いた。
するとその瞬間、ブラッドハウンドとエマの背後で何かがばら撒き落ちる音がする。気になった二人がそちらに目をやると、そこには両手のホコリを払うヒューズの姿があった。彼の足元を見た時、二人は思わず目を見開いた。そこにはレベル三のレーザーサイトを含めたSMG用の高レベルのアタッチメント、大量のシールドバッテリー、そして弾薬が山のように積み上げられていたからだ。一体どこにしまっていたのかと問いたいほど、それは目を見張る量だった。
「ウォルター、凄いな。こんな量どこで見つけたんだ」ブラッドハウンドは驚愕で興奮しながら言った。そんなブラッドハウンドにヒューズはキザに口ひげをいじって見せる。

「探しかたさえ知っていればちょろいもんさ。どこかの素人とは違ってな」

そうヒューズは意地悪に言って、エマに目配せした。それに気付いたエマは眉をひそめて頬を膨らませる。

「お前にはいつも驚かされるな」
「まあ、相棒のことは誰よりも理解しているからな」
「わ、私だってブラッドのことならよく知ってるよ」

ムキになってエマは二人に噛みついた。そんな彼女にブラッドハウンドは一瞬目を丸くさせるが、すぐに笑い飛ばした。
「ああ、そうだな」そう言ってブラッドハウンドはエマの頭を撫でる。なだめる様に無造作にそうされて、エマは嬉しそうに表情を緩めた。そのままヒューズを見て彼にウィンクを一つ送る。今度はヒューズが顔をしかめた。
エマとヒューズは中々に相性が悪かった。特に最近、二人が共通してブラッドハウンドに想いを寄せていると知ったことで、二人の間にほとばしる火花は一層激しくなったのだ。ここ数日、彼らはブラッドハウンドを巡ってしばしば競い合いをするようになっていたのであった。
その後、何度か戦闘を重ねて三人は広い建物を漁りに来ていた。今日のマッチはどの部隊も戦闘に対して積極的で、敵のデスボックスからはまかないきれない程物資の消費が激しい。
エマは足りない分の医療品を求めて一つ一つ部屋を探っていた。すると一瞬、彼女の目の端で金色に光るものが過った。再びそこへ目を向ける。それは間違いなくキングスキャニオンの太陽に光る、金色のボディーシールドであった。
エマの瞳が黄金に輝く。それを見た瞬間に彼女の脳内でとある考えが起こった。これをブラッドハウンドに渡せばきっと喜んでくれるだろう。先ほどその人の前でヒューズから恥をかかされてしまい、エマは挽回する機会を狙っていたのだ。この金色のボディーシールドはまさに最適だった。
エマは期待に胸を膨らませながらゆっくりとボディーシールドに手を伸ばした。エマの目に、それは酷く神聖な物として写った。黄金に輝くそれは救世主のようにエマの前へ現れてくれたのだ、と。
しかしアーマーに触れようとした瞬間、エマの手は空を切った。怪訝に思って顔を上げると、そこにはにやけた顔のヒューズが立っていた。しかし一番目を引いたのは、あろうことか彼の手に例のボディーシールドが抱えられていた事だ。
「ちょっと!」エマは思わず声を張り上げた。

「それは私が先に見つけたのよ!」
「どうせブラハんトコに持っていくつもりだろ? せっかくだ、俺が届けといてやるよ」
「だめ。どうせ自分が見つけた事にするんでしょ。私の物だよ、返してっ」

エマがヒューズに飛びかかる。しかしそれをひらりとかわされ、エマは代わりに地面に転倒した。そんな彼女の姿をヒューズは頭上から笑い飛ばす。
「悪いな嬢ちゃん。だが、これがサルボのスタイルなもんでな」そう言うとヒューズはボディーシールドを抱えたままその場から走り出した。
「ちょっと待ちなさいよっ」慌ててエマも起き上がり、ヒューズの後を追いかけた。
まるで逃げるのを楽しんでいるかのようにヒューズは笑いながら建物内を走り抜けていく。その後ろを必死な形相でエマが追う。小さな子供が鬼ごっこをするように、二人はドタドタと荒々しい足音を立ててそこら中を駆けずり回った。
しかし段々と二人は距離を詰めていき、次の角を曲がった一瞬の隙を狙ってエマはヒューズの体に掴みかかった。

「はっ、捕まえた!」
「チ、駆けっこが得意じゃねぇか。だがこれは渡さないぜ」
「いいから、とっとと返してよ!」

ヒューズはまだ走り続けたまま体を何度もひねってエマを引き剥がそうとするが、エマも決して彼を離そうとはしなかった。
二人は前も見ずにしばらく揉みくちゃになりながら、エマが足をもつらせるまで走り続けた。そのまま二人は派手な音を立てて地面に転んだ。
私の、俺のだ、と土埃まみれになっても二人はボディーシールドを奪い合う。そんな彼らの前へ、ゆっくりと大きな影が近付いて来た。

「お前たち、一体何をしているんだ」

頭上から掛けられた声に気付き、ようやく二人は動きを止めて一斉に顔を上げる。
たった一つのボディーシールドを巡って手足を絡ませ合っている二人を、仁王立ちしたブラッドハウンドが睨み付けていた。マスクで表情こそ見えないものの、建物の逆光で黒い影に覆われたその姿は明らかに恐ろしいものを放っていた。
「こいつが!」エマとヒューズは互いを指差して同時に声をあげる。「違う、こいつ!」全く同じタイミングで首を横に振り、二人はまた同時に声を出す。その様は一見すると酷く滑稽なのだが、ブラッドハウンドが彼らを睨むのをやめることは無かった。

「私がこのアーマーを先に見つけたのに、彼が横取りしてきたの。ブラッドにいいトコ見せたいからって」
「おいおい酷い言いがかりだろ。俺はただ相棒にいい装備を着て欲しくてだな」
「なら、自分で物資を探してよね。とにかくこのアーマーを最初に見つけたのは私なんだから、ブラッドに渡す権利は私に」
「見つけたのはお前でも、アーマーを取ったのは俺だろ」

エマとヒューズは互いの言葉を遮りながら言い争った。
二人の言葉は嵐のように激しく対立し合っていたが、ブラッドハウンドはそれらを注意深く聞いてなんとなく状況を察した。
「もう良いっ」とうとう我慢できなくなったブラッドハウンドが声を張り上げる。それまで騒がしくしていたエマとヒューズは、その瞬間ピタリと声を出すのをやめてブラッドハウンドを見た。

「お前たち、二人とも……最近どこかおかしいとは思っていたが、とうとう仲間割れを起こすのだけはやめてくれ」
「私はそんなつもりなかったの!」
「ふん。そう言って、俺に飛びかかってきたじゃねぇか」
「だってあんたが―― ヒュ、ヒューズから始めたことなんだよっ」

ヒューズは唇を曲げてぼやいた。エマは彼の言葉に驚いて目を見開くと、まるで母親に言いつける子供のようにヒューズを指差しながらブラッドハウンドに叫んだ。
「もう良いと言っただろう」ブラッドハウンドは深いため息を吐きながら、マスクの上からこめかみを摘まむ仕草をした。「お前たち、一瞬でも仲良くすることはできないのか?」ブラッドハウンドが静かに叱ると、今度こそエマとヒューズは口をつぐんだ。少しだけ彼らの肩が申し訳なさそうに縮こまる。
「エマ」しばらく間が空き、ブラッドハウンドはまず彼女に顔を向けると口を開いた。

「エマ。私のために物資を見つけてくれるのはありがたいが、わざわざ持ってこずともシグナルで示してくれれば十分だ。自分で取りに行く。そこまで私に対して気を遣う必要は無い」
「ご、ごめんなさい。ブラッドの役に立ちたくて、あなたに喜んでもらえたらって」
「分かっている。お主がいつも仲間たちを気にかけているのは知っているからな。だが、その気持ちだけでありがたい」

ブラッドハウンドはそれまでの怒りを含んだ態度から一変して、極めて優しい口調でエマに語りかけた。ブラッドハウンドもエマの気持ちは十分分かっているつもりだ。時々少しお節介なのではと思う事もあるが、それが彼女の思いやり故ということは理解していた。
そんな風になだめられ、エマの表情は段々と明るくなっていった。エマは柔らかく微笑むとブラッドハウンドに頷いた。それにブラッドハウンドも頷き返す。
「それから……」ブラッドハウンドは今度はヒューズに顔を向けて続けた。

「ウォルターも、同志の物資を奪ってまで私に与える必要は無い。お主らしくもないぞ。その気遣いには感謝するが、やり方は改めてもらわねばな」
「わ、分かってるって。ちと嬢ちゃんをからかっただけさ」
「良く言うよ。人のものを盗んだくせに」
「なんだと? よくそんな生意気な事を――」
「やめろ! これが最後だぞ」
「ほら、怒られた!」
「お前たち二人に言ったんだ。もちろんお主にもだぞ、エマ」

ブラッドハウンドから少し強めに叱られてエマは肩を縮こまらせる。
ブラッドハウンドはエマとヒューズを交互に睨むと、彼らがそれ以上喋らない事を確認して静かに息を吐いた。

「忘れるな。我々はチーム、同じ戦場で戦う同志であって敵ではない。互いに憎み合うのは愚かなことだ」
「確かに……」
「ブラハの言う通りだな……」

ブラッドハウンドの言葉にエマとヒューズは頷く。ようやく二人の意見が一致したのだ。

「お前たちが仲間を……特に、私を……気にかけてくれているのは分かった。だがそのせいでお前たちが争いを起こしてしまっては元も子もない。それは私も心苦しいのだ。それをお前たちには理解して欲しい」

声に感情を乗せてブラッドハウンドは二人に語りかけた。
自分を巡って仲間が争うのは本望ではない。それが大切な友人同士であるのなら尚更だ。彼らの自分への気持ちは理解しているものの、ブラッドハウンドとしてはエマとヒューズは良好な関係を築いて欲しいのだった。
二人はそれを察したように互いの顔を見合わせると、無言で見つめあった。それからふと同時に微笑み、固い握手を交わした。

「悪かったな嬢ちゃん。俺たちはチーム、大切な仲間ってことを忘れちまっていたかもしれねぇ。これまでの事は水に流して、三人で仲良くやれるといいんだが」
「もちろん。私もムキになってた。ブラッドのためにも大人にならないと、だよね」
「ああ。仲直りの記念にハグでもするか?」
「あははっ、それは遠慮しとく!」

おずおずと両腕を広げたヒューズをエマがふざけて押し退ける。
エマとヒューズはそれまでから一変して、すっかり心の底から笑い合えるようになっていた。
完全に和解した様子の二人を見てブラッドハウンドも安心したように微笑む。

「よし。仲直りも済ませたことだし、いつも通り敵をボコしに行くか!」
「いいね。どっちが多くキルを取れるか競争だよ」
「二人ともそうはやるな。とは言え、そうだな……この試合に勝てたら、そのときは褒美でも出そうか」

和気あいあいと意気込んでいたエマとヒューズが、そんなブラッドハウンドの一言でピタリと動きを止める。

「ブラッドの……」
「褒美だって?」

目を丸くさせた二人は顔を見合わせた。

「ああ。酒を奢るでも、私の狩りへ招待するでもいい。お前たちの好きなように――」

しかしブラッドハウンドが言い終える前にエマとヒューズはその人の横を通り過ぎて走り出す。
「おい!」それに気付いたブラッドハウンドが二人を呼び止めるが、その声が届く事は無かった。

「優勝すればブラッドがご褒美をくれる……」
「なら早いトコ敵さんを片付けに行くぞ。俺たちでキングスキャニオンの地を真っ赤に染めてやるんだ! ワハハッ」

エマとヒューズの興奮した雄叫びが谷中に響き渡る。
ブラッドハウンドはしばらく彼らの遠退いていく背中を唖然と眺めていた。そこへ空の偵察へ出ていたアルトゥルが戻ってきて、ブラッドハウンドの腕にとまる。

「アルトゥル、私は……余計な事を言ってしまったのだろうか?」

ブラッドハウンドは力の無い声でアルトゥルに訊ねる。そんなブラッドハウンドにアルトゥルは首を傾げると、カアと一回鳴いた。
その後、エマとヒューズの目覚ましい活躍によって無事に彼らがチャンピオンの座を勝ち取ったのは言うまでもない事であった。

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