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Apex Legends


「こっちだ」

ブラッドハウンドに案内をされてエマは森の中を進む。
鬱蒼とした木々が立ち並ぶ獣道を足元に注意しながら歩いていけば数十分でお目当てのものが見えてきた。
少し整理された広場にブラッドハウンドの居住船は隠されていた。船の周りには多少生活感を感じさせる小さな焚き火の跡や人が一人腰かけて休めそうな木製の椅子が置かれている。今回のゲーム開場はブラッドハウンドが普段生活している惑星タロスから大分離れているため、今はこの小型船に寝泊まりをしているのだそうだ。
ブラッドハウンドの後に続いてエマは船の中に入った。内装を目にした時、エマは思わず息を飲んだ。船の中は北欧文化を基調とした装飾品でまとめられており、棚には小さな木彫りの神像とキャンドルで飾られた祭壇らしき物まである。壁には武器が掛けられているかと思えばその横には神秘的な柄が縫われたタペストリーが並んでいたりとどこか不思議な空間だった。まるでブラッドハウンドの趣味を覗き見ているかのような予想通りの光景にエマは口元を緩ませた。
ふとエマの目線が部屋の隅に立てられた自立型の鳥かごにいく。近付いて中を伺ってみるとそこにはブラッドハウンドがよく連れているカラスが納められていた。体を忙しなく動かして身繕いなどをしている。

「ねえブラッド、この子の名前は?」
「ん? ああ、彼はアルトゥル。私の友であり導き手だ」

へえ、とエマはアルトゥルを観察する。暗闇のような漆黒の毛並みは美しく整えられており、力の象徴である口ばしと鉤爪は鋭く銀色に光っていた。こうしてまじまじと見てみると、とても立派な鳥だ。
ブラッドハウンドの話によると亡くなった叔父と同じ名を与えたのだそうだ。元々はその叔父のパートナーだったが、彼がヴァルハラに召されて以降はブラッドハウンドを導いてくれているのだと。

「こんにちは、アルトゥル」

エマが鳥かごの中のアルトゥルに微笑みかけると彼はピタリと動きを止めてエマをじっと見つめ、それから鳴き声を一つあげた。
ブラッドハウンドは鳥かごを開けて中からアルトゥルを出した。自分の腕にとまらせたアルトゥルをブラッドハウンドはエマの目の前に持っていって見せてあげた。

「ふふ、かわいいわね。鳥はどうやって撫でればいいのかな?」
「いつもはこうして首もとや、顎の辺りを軽く掻いてやるのだ」

そう言ってブラッドハウンドはもう片手の人差し指でアルトゥルの口ばしの下を掻き、エマにやり方を見せた。エマも真似してアルトゥルを愛撫してやるとアルトゥルは気持ち良さそうに目を閉じた。

「お主を気に入ったようだ」
「本当に?動物に好かれるなんて初めてだわ」
「アルトゥルは賢い子だ。彼はお主の本質を見抜いている」

ブラッドハウンドが言うには正しい心を持った者にアルトゥルは懐きやすいのだという。代わりに邪な心の持ち主や、必要以上に彼を威嚇する者には攻撃的になるらしい。そのため誰にでもハイタッチをしようと片手を振り上げるパスファインダーはアルトゥルに目をつけられているのだそうだ。確かによく鳥に襲われるパスファインダーを見たことがあった。あれはそういうことだったのか、とエマは納得したと同時に吹き出していた。

「なんだか……それもパスファインダーらしいわね」
「ふふ、そうかもしれないな」

ブラッドハウンドも釣られて笑った。
それから二人は船内でくつろぎながらお互いの話をした。休日は何をするのかとか、趣味はあるのかとか他愛の無い話だったが、時折二人が交わす笑い声は絶えなかった。互いに知り得なかった意外な一面に驚いたりもした。そうして二人は少しずつ親睦を深めていった。船内はちょっとした談話室の様だった。
ふと気付くと時刻は既に日が落ちる頃になっていた。エマは船内の時計でそれを知ると「わ、もうこんな時間」と驚いて座っていた長椅子から立ち上がりかけた。しかしすぐに落ち着きを取り戻すと、仕方の無さそうにため息を吐いてまた腰を落とした。

「なんだか貴方と試合以外で話すのって不思議な気分。でも凄く楽しいわね」
「私もだ。お主は他のレジェンド達とは違い、敬意があるな」
「そうかしら。ローバやヒューズは貴方と仲が良さそうだけど」
「二人はもちろん良き戦友だ。私が言いたいのはお主は殆ど私と会話を交わした事が無いにも関わらず、こうして私に親身に向き合おうとしてくれる。アルトゥルが見抜いた本質もそれなのだろうな」

ブラッドハウンドから予想外の称賛を受けてエマは思わず照れた。ブラッドハウンドとは初めてゲームで対面した時からいつか仲良くなりたいと願っていたため、当の本人からそんな言葉をもらえて嬉しかった。
勇気を出して貴方の船を見せてほしいと申し出て良かった、とエマは思った。そんな彼女の隣でブラッドハウンドはガスマスク越しに微笑んだ。

「ねえ、良ければなんだけど……また今度こうして一緒に話せないかしら?」

エマは自身の指をいじりながら上目遣いにおずおずと訊いてみた。

「もちろんだ。言ってくれればいつでもお主を歓迎しよう」
「わ、本当?」
「ああ。だが差し支え無ければ、今度は私がお主の客人として迎え入れられたいものだな」

ブラッドハウンドからの思わぬ提案にエマは一瞬目を丸くさせた。
つまり、ブラッドハウンドもまたエマの船を見たいと言っているのだ。それを理解した途端エマはパッと顔色を明るくさせた。
もちろん答えはイエスだ。眩しい程の笑顔でエマは大きく頷いた。約束よ、と。ブラッドハウンドもまた嬉しそうに頷き返した。

帰り際にこちらへ笑顔で手を振るエマにブラッドハウンドも真似して小さく手をあげながら見送った。
ブラッドハウンドから受け取った帰路の書かれた地図を手に去っていくエマの背中を見詰めながら、ブラッドハウンドは故人ではない誰かをこんなにも恋しく思う自分に驚いていた。こんな衝動は実に久しぶりだったのだ。
それでも長いこと経験することの無かったこの感情にブラッドハウンドはどこか心地よいものを感じるのだった。

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