海外アニメ

Uncle Grandpa



「と言うわけで、この週末はハリウッドセレブ達とパーティーがあるんだぜ」

「へえ、凄い!ピッツァスティーブはセレブに顔が通るのね」

「通るどころか突き抜けちまうぜ」

キャンピングカーは今日もエマに対するピッツァスティーブのフェイク武勇伝で持ちきりだった。
スティーブが何か自慢話をするたびにエマが一々拍手や歓声を浴びせるため、スティーブがどんどん話を繋げていってしまうのだ。
彼女のスティーブへの関心はアンクルグランパとほぼ同じレベルだった。

「ティーンエイジャーも皆フェイスブックやツイッターで俺のことばかり呟いてるぜ。エマも俺のアカウントのフォロワー数見たら驚くぞ」

「あのさ、私ピッツァスティーブのアカウントなんか知らないよ?だけど今検索してみるから……」

あー、あー、ちょい待ち!。携帯を取り出したエマを、スティーブは両手を突き出して左右に振りながら引き止めた。
もちろん、エマがスティーブのアカウントを検索しようものなら瞬く間に彼の嘘がバレてしまうからだ。スティーブは全くの無名であり、フォロワー数もアンクルグランパを含めて一名しかいなかった。

「その、後で見ればいいだろ?今はさ、えーっと、ブリトー食いたくないかい?」

「え?ああ、うん。私美味しいブリトーの店知ってるよ!」

「そこだ!今すぐ行こうぜ。俺様腹減ってんだ」

「外で待ってて、財布持ってくるから」

そう言って、エマはスティーブを送り出した。
部屋に戻って財布の入ったバッグを肩に下げ、外に続く扉を開けようとした時、エマは背後からの呼び声に振り返った。
見るとアンクルグランパのボディガード、ミスターガスがいつもの眠そうな顔でエマを見下ろしていた。

「何、ミスターガス?」

「ああ、ちょっと聞きたいんスけど」

何、とエマがドアノブに伸ばした手を引っ込め、ミスターガスに向き直る。

「エマはピッツァスティーブのこと、好きなんでしょ」

ガスからの単刀直入な問いかけに、エマの声が跳ね上がった。
そしてキョロキョロと辺りを見回して、少しだけ頬を染めると、小さな声で言った。

「誰から聞いたの」

「聞いたも何も、彼といる時の雰囲気でわかるっスよ」

「他の人には話さないで、本人には絶対!」

「そんなことしませんよ。オイラはただ、エマが今後がっかりしないように本当のことを教えてあげようと思って」

「本当のこと?」

ガスはハア、と一つ深い息を吐くと、あんたを傷つけたくは無いんスけど、と前提をつけて告げた。

「ピッツァスティーブの言っている武勇伝は殆ど、いや全て真っ赤な嘘なんスよ。あいつはあんたに格好つけたくて、次々大袈裟な話をしてるんス」

「週末にセレブとパーティーするのも?」

「嘘でガス」

「ティーンエイジャーに大人気で、フェイスブックやツイッターのフォロワーを沢山持ってるのも?」

「完璧嘘でガス」

ガスはばっさり切り捨てた。
エマは目を丸くして、ガスを見つめた。それからしばらくは沈黙が続いた。
その瞳にガスは深い失望感を見たと確信した。
言い過ぎてしまったか、そう思ったが、遠い未来で今までのスティーブに対する尊敬を一気に無くすよりかは、今無くす方が傷は深くないというのがガスの考えだった。
エマの気持ちを、ガスはよく知っていたつもりだった。

「あー、エマ?ショックなのはわかるっスけど、これが現実なんスよ」

「そんなこと知ってたけど」

「ええ、自分も言い過ぎたと……今何て言いました?」

うつむきかけた頭を起こして、ガスはエマを見た。
今度はガスが目を丸くする番だった。

「ピッツァスティーブが嘘をついてたってこと、ずっと前から知ってたよ」

エマが笑った。
ガスは口を開いたまま、丸い目を数回まばたかせた。

「でも、ならどうして毎回彼に乗ってあげるんスか」

「わかるでしょ、ピッツァスティーブが好きだから。私に嘘を話している時の彼は凄く生き生きして、私大好きなの!」

「……あんた凄く変わってるっスね」

ガスからの批判にエマは大きく笑った。

「変わっててもいい。私は彼の嘘が好きなのよ」

そう言ってエマはキャンピングカーを出た。
階段を降りたすぐ目の前でスティーブは自分の爪を見ながらエマを待っていた。

「ピッツァスティーブ、お待たせ」

「おいおい遅いぜエマ。さっき丁度すげえ有名人に会ってサイン貰ったんだけどさ、惜しかったなあ」

「へえ、私にも見せて?」

「あー、わりい。色紙を、その、どこにしまったか忘れちまった」

「……そう、残念だわ」

「あっちも俺のこと知っててさあ、トマトソースで顔にサインしてくれってせがまれちゃって。しつこいんだよな」

「ピッツァスティーブは有名人のファンも多いんだね」

「もちろんさ!この前だって俺がモールで買い物してたらさあ……」

いつも通りスイッチが入ったピッツァスティーブの隣を一緒に歩きながら、エマもまたいつも通り一つ一つの話に笑顔で相槌を打っていった。

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