海外アニメ

Uncle Grandpa



ミスター・ガスは最近、酷く頭を悩ませていた。
ガスの悩みと言えば、いつも彼にちょっかいを出しているピッツァ・スティーブが大抵だ。それは当たっていた。
しかし、同時に違う。スティーブを含め、もう一人。ガスに頭痛を煩わせる人物がいた。

キャンピングカーを走らせている最中、ガスは助手席を一瞥した。そして彼らに聞こえるように大きくため息を吐く。
ガスの隣で激しく生々しいリップ音を生み出しているスティーブとエマは、そんなことはお構いなしといったように依然キスを止めようとしなかった。
スティーブはエマの頬に手を添え、エマはさらにスティーブを自身へ抱き寄せた。

「あのお…」

ガスが声をかけるが、二人は愛おしそうに目を瞑り、彼を見ることすらない。
あの。ガスはもう一度呼ぶが、結果は同じだった。それどころかまるで彼の声を遮るかのように、リップ音が大きくなるばかりだ。
とうとうガスは歯をむき出しにしながら顔を歪め、ハンドルを握る力を強めた。
ガスは一旦道路脇に車を止めると、二人を睨みつけた。

「二人とも、車内でいちゃつくのは止めてもらえないっスか。……二人とも!」

もはや聞く耳持たずの二人を、ガスは力付くで引き剥がした。
ああ。エマが残念そうな声をあげる。

「何だよミスター・ガス。俺達の邪魔すんなよな」

「それはこっちの台詞っス。あんたらこそちゅっちゅ音鳴らして運転の気を散らすのを止めるでガス」

「いいじゃねえかケチだなあ。誰がキスすんなっつったよ」

「今から、運転席では、カップルでいちゃつくのは禁止でガス!」

ガスがぴしゃりと言った。
エマとスティーブは互いに顔を見合わせた。
「しょうがねえなあ」それからスティーブは呆れたといった風に肩をすくめた。

「エマ、向こう行こうぜ。ミスター・ガスは俺達がここでキスしてると嫉妬しちゃうってよ」

そう捨て台詞を吐き、エマとスティーブはガスへの嘲りの笑いを上げながら運転席から消えた。
ガスはスティーブの言葉に眉間を寄せたが、大したことでもなかった。
ラジオの電源を入れてクラシック音楽でしばし癒されてから、ガスは再びアクセルを踏んだ。
隣が静かになったことでガスはようやく運転に集中できた。

しかし、そんな時間はものの数分で切り裂かれた。
ガスは運転席を出た先の部屋からかすかに聞こえた声に、思わず耳をすませた。

「……で……のか……が……」

「……スティーブ……やめ……」

落ち掛けたガスのまぶたが完全に上がった。
さらに聞き入ると、何やらエマのものと思われる、笑い声にも近い声が時折聞こえてきた。
まさか。呟いたガスの背中を一瞬冷や汗が通り抜けた。
エマのあられもない叫び声があがった時、とうとうガスは運転席を飛び出した。

「何してんスか!」

見ると、スティーブはソファに寝転んだエマの腹の上で四つん這いになっていた。
並大抵の状況には慣れているガスが、さすがに顔を赤くさせた。
そんなガスにスティーブは涼しい顔で言った。

「何だよミスター・ガス。また俺達の邪魔したな」

「あんたら何やってんスか!」

「何って、なあ……エマ?」

スティーブがエマににやけ顔を向ける。エマは両手で口を隠し、恥ずかしそうにくすくす笑った。
ガスは二人の前に仁王立ち、恥じらいではなく怒りで真っ赤にした顔で二人をきつく睨んだ。
鋭く人差し指を突き出して、ガスは叫んだ。

「車内でのいちゃいちゃは今から一切禁止でガス!」

「げえ、まじかよ」

息を吹いて唇を震わせ、スティーブが垂らす。

「あんたいつからそんなにうるさくなったんだ?」

「うるさくさせたのはあんたらでガショ」

「いいじゃない、大目に見てよミスター」

エマは首をすくめてガスを上目遣いに見つめてみるが、彼のしかめっ面が緩むことはなかった。

「あんたらが何を言い訳しようが関係無いっス。このキャンピングカーはカップル専用車ってわけじゃないんスよ」

「あー……じゃ一ついいかな」

スティーブが困った顔で人差し指を上げた。

「何でガス」

「今運転席にいんのって誰だ?」

あ。そうガスが呟いた時だ。
車が大きく揺れると、次には激しい衝撃と共に三人が車内ではね飛ばされた。
運転手を失った車が電柱に直撃したのだ。フロントは電柱を避ける様にヘコみ、激しいアラームを鳴らしながら白い煙をもくもくと吐き出した。
散り散りになった三人がそれぞれうなり声を上げながら体を起こす。
ガスは軽く痛む後頭部を撫でながら外に出て、衝突した箇所を見た。言うまでもなく、酷い。
はあ、とガスはこういう状況につきものである呆れたため息を吐いて、車内へ修理道具を取りに戻った。

「どうだった?」

「言わなくてもわかるっしょ」

ソファーに座り直していたスティーブからの質問に、ガスは素っ気なく答えた。
それを聞いた途端、スティーブは大きくあくびを上げながら後頭部で組んでいた手を離すと、伸びをするふりをして隣に座ったエマの肩―正確には背中―を抱いた。
スティーブがエマの名前を呼び、サングラスを少しずらして目で合図を送る。エマはすぐにそれを察し、スティーブを抱き寄せながらソファーに横になった。
ガスが工具を持って戻ってきた頃には、二人はすっかり甘い世界に入り浸っていた。
ガスはしばらく無言になり、彼に全く気付かない二人を見つめた後、迷うことなくソファーを軽々しく持ち上げてキャンピングカーの掃き溜めと化した使われない個室にそれを押し込め、慣れた手つきで扉に板を打ち付けた。
その後すぐに、ガスは口笛を吹きながらその場から去った。個室の中から猛獣の呻き声と二人の悲鳴が聞こえたのはそれからままない頃である。

Back to main Nobel list