海外アニメ

My Little Pony



「きゃあああ!」

その日、最近ガールフレンドになったばかりのラリティのブティックに行くと、扉を開けた次の瞬間には彼女のかん高い悲鳴を浴びていた。
反動で少し乱れた鬣を直しつつ丸くなった目でラリティを見つめる。
彼女はわなわなと口を震わせ、驚愕といった表情を私に見せていた。

「ラリティ、ねえ」

「いやあああ!」

「ちょっと、ラリティったら何をそんなに」

「きゃあああ!」

ラリティと話をしたいのに、言葉を言い終える前に彼女の悲鳴で遮られてしまう。近付きたいのに、前足を一歩出す度にラリティの後ろ脚が一歩下がってしまう。
もしかして自分の容姿に何か問題があるのだろうか。ラリティくらい神経質で繊細なポニーならば恋人に求める容姿も基準が高いに違いない。そう思って急いで体を見回したが、私には汚れすら見つからない程清潔に思えた。
しかし、ラリティはまだ何かに怯えている様だ。

「もう、何なの?ラリティ、何か問題なら叫び声じゃなくてちゃんと言葉で伝えてよ」

さすがに少し頭にきて、私は大股にぐいとラリティの目の前まで迫った。
目を点にして、ラリティが今にも悲鳴を上げそうに閉ざした唇をぷるぷる震わせている。

するとラリティの目を睨みつけていた時、私は彼女の視線が私の口元にいっていることに気付いた。
不審に思い試しに唇を舐めてみると、そういえば出掛ける時にリップクリームをしてくることを忘れていたことを思い出した。
もしや、これが?そう頭の中に光を見つけ出した時、ラリティは正解だと教えるように近くの棚からリップクリームを取り出し、震える手でそれを私に差し出した。
素直に受け取り、乳白色の先端を急いで唇に滑らせる。何度か唇をはんで潤いを確かめてからラリティを見ると、彼女はやっと安心した顔で息を吐き出した。

「ああ、良かった。エマったら本当に唇がカサカサで、私びっくりしちゃったのよ」

「ごめんなさいラリティ。でも早々に私の唇がカサついてるって見破るだなんて、ラリティは凄いのね」

「当たり前じゃない!」

ラリティは背を高くした。そしてすぐに「だって」と気恥ずかしそうに顔を逸らす。
真っ白な美しい頬を僅かな茜色に染めて、ラリティは前脚をもじもじと何度かクロスさせた。

「だって、なあに?」

「だって、私」

そこまでラリティが言った時、彼女はとっさに顔を上げて私の唇を奪った。
驚いて、私の目が丸くなるのがすぐにわかった。ラリティと恋人同士になってから初めてのキスだったからだ。
ラリティは柔らかい唇を控えめに私の唇に押し付けて、しばらくしてからゆっくりと離した。
美しい滑らかさを宿した長い睫をまばたかせ、時折恥じらいに揺らぐラリティの青い瞳が私を見据えてくる。
リップクリームを少しつけた唇を動かして、ラリティは言った。

「だって私、初めて味わうエマの唇が乾燥したものなんて嫌なんですもの!」

それは全くラリティらしい理由だった。
同時に、私も初めてラリティに捧げる唇が乾燥したものとならなくて良かったと思った。
そう言うと、ラリティはくすくす笑い「ちゃんといつもチェックしてるんだから」と自慢げに言った。
途端、私の眉がピクリと動いた。

「…ということは、ラリティはいつも私にキスをする機会をうかがっていたってこと?」

「え!?…やあね、まさか。そんな事あるわけないじゃない!」

「でも、私はいつか済ませたいとは思っていたよ」

そう言うと、高飛車な仕草をしていたラリティは力が抜けたように体をくねらせた。
白さを取り戻していた頬が、今度ははっきりと赤に染まる。

「も、もうやあねエマったら。かわいいんだから」

よしよしと私の鬣を撫でるラリティ。次第に無意識だろうかその脚は鬣から頬に滑らされ、ラリティの視線が私の唇に移っている。
望み通り今度は私から二度目のキスを贈ると、ラリティは素直に目を閉じて押し付けてきた。
ああ全く、かわいいのはラリティの方じゃないか。
そんな甘いムードに包まれた私達は、しばらく時間を忘れて互いが思うままにキスを交わした。
新しいドレスを仕立ててもらおうとトワイライトが訪ねてきて悲鳴を上げられたまでは。

Back to main Nobel list