海外アニメ
Salad Fingers
※サラダさんの一人称は「僕」です。
死ネタ有り。
「こ、紅茶はいかが、エマ」
サラダ指は丸いティーポットをエマのカップの方へ向けて問いかけた。
猿轡をされたエマはんーんーと唸り声をあげた。サラダ指はそれをイエスととらえたらしく、ポットを傾けてカップにどす黒い紅茶を注いだ。
「お砂糖はいる?君は甘い紅茶しか飲めないよね」
エマが唸り続ける。
「三個?わ、わあ。本当に…子供っぽい」
サラダ指はテーブルに置かれた小さな瓶の蓋を取って毛深い三本の指で器用に角砂糖をつまみ、三回に分けてエマのカップにそれを運んだ。
砂糖が紅茶に落ちる度にぽちゃんぽちゃんと音を立てて水滴が飛び、木製のテーブルに新たなシミを作った。
「今日という素晴らしい日に乾杯」
サラダ指は自分のカップをかかげ、紅茶を少し飲んだ。
しかし一向に紅茶を飲まないどころかカップにすら手を着けないエマに、サラダ指は眉をひそめた。
「エマ、この紅茶はとても美味しいよ」
エマが唸り続ける。
「ひ、一口飲んだらどう?」
エマが唸り続ける。
「ねえ、ああ、今日は君と僕の特別なお茶会なのに。僕だけお茶を飲んでたら、た、ただ君を眺めながら一人でお茶すすってるだけだよ」
エマが唸り続ける。
それでも良いけど。そう言ってサラダ指は再びカップを傾けた。
エマが紅茶を飲めるはずがなかった。彼女は猿轡だけでなく、体を椅子にロープでかたく縛り付けられているのだから。
そんなことをしたのは紛れもない、今紅茶をすすっているサラダ指本人だった。
彼がなぜそうする必要があるのかエマは全くわからなかった。いつものようにサラダ指の所へ訪れたら玄関を開けられたと同時に意識が途切れ、気がついたら変わらないお茶会の場にいたのだ。しかしそれでも自分を縛り付けたのがサラダ指だとエマはわかった。
エマは原因を考えてみた。しかし何一つ思い当たるふしが無い。
サラダ指とは友達だし、喧嘩などしたことはなかった。サラダ指の突発的に怒りやすい性格に気を使って、接し方にも注意をした。老人を介護するように忍耐強く、愛情を持って。最近では彼に淡い恋心すら抱いていた。
なのにまるで恩を仇で返すかのような仕打ちをするなんて。
エマは顔を上げてサラダ指を見た。サラダ指もじっとエマを見つめていた。いつもと同じ瞳で、いつもと同じ微笑で。
しかしそこにある狂気をエマはぼんやりと感じ取っていた。
少ししてサラダ指はとっさに手で顔を覆って、笑いながらエマから視線をそらした。
「やだな、エマ。そんなに見つめられたら僕困っちゃうよ」
エマは黙っていた。
再びエマを見てサラダ指は続けた。
「わかってる、僕も君がね…好きだよ」
「…」
「君だけだよ、僕を本当に気にかけて、愛してくれるのは」
サラダ指がにっこり笑う。その笑顔すらエマにとっては恐怖の対象だった。
怯えるエマには決して気付かず、サラダ指はクッキーを口に運んだ。ごり、ごり、と骨に響く音が静かな一室の唯一の音だった。
クッキーを紅茶で飲み込むと、サラダ指は途端に悲しげな顔でエマを見た。
「あのねエマ。僕最近、へ、変なんだ」
エマは何も言わない。
ただ俯いて、黙っていた。
「エマのことばかり気になって、しょうがないんだ。もちろん君が好きなんだからあたりまえだけど。でも、でも何かがいつもと違う。違う気持ちだ」
サラダ指は両手を胸に添えた。
「あ、あのね。僕、君が欲しいって思う。アンティックドールみたいに部屋に飾りたいって思うんだ」
「ん…んん」エマは唸る。嫌よと言ったつもりだった。
「うん、もちろんキレイな洋服を着せてあげる。君のその小麦みたいに美しい髪も毎日とかしてあげるよ」
「んん―!」
エマは唸りながら首を横に振った。嫌と言ったつもりだった。
しかしその間にサラダ指は立ち上がり、エマの側に行くと、彼女を椅子に縛り付ける縄をほどき、床に倒した。まだエマが芋虫のような格好なのは、手足を縛る縄がほどかれていないからだ。
体をねじり必死に這うエマに毛布のように倒れ込み、サラダ指は彼女の体を抱いた。
目を瞑り、ああ、とサラダ指は息を吐いた。エマはサラダ指の重みで唸るように喘いだ。
「さっきは殴ったりしてごめんよ。君を運ぶの、大変だったんだ」
エマが唸り続ける。サラダ指の自白にエマは予想出来たことであるためさほど驚かなかった。
それよりも体に重りがのしかかり、限られた箇所でしか細く呼吸をできないことにエマは危険を感じていた。体内の酸素量が着々と減っていき、エマの意識は次第に朦朧としてきた。
そんなエマにサラダ指は更なる追い討ちをかけた。
首もとにひんやりとした感触を感じて、エマは冷や汗を流した。途端、激しい息苦しさが襲った。
サラダ指がエマの首を絞めたのだ。
「人形は生きてないんだよ、知ってるかい?」
エマは必死に払いのけようとしたが、全身が束縛され、思うように動けなかった。
何も抵抗できないまま、エマの命がサラダ指によって削られていく。
「でも君はきっと、ああ、死んでもキレイなんだろうな」
元々酸欠に近かったエマの視界はぼやけ、そして苦痛のピークを迎えた途端、あまりにもあっさり、パタリと感覚が失われた。
「愛してるよ、エマ」
エマが死ぬ間際に聞こえたのは、サラダ指の恍惚と支配欲にまみれた言葉だった。
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