SSS(超短編)

Apex Legends


洞窟の中でエマとブラッドハウンドは互いに寄り添って同じ毛布にくるまり、焚き火に当たりながら寒さを凌いでいた。
すっかり夜の帳が下りた外ではしんしんと雪が降っている。夜の雪ほど美しい物は無いが、同時にこれほど寒い物も無い。生憎防寒具を持ち合わせていない二人はこうして身を寄せ会うしか策が無かった。本来なら少し狩りを楽しんだ後に帰宅する予定だった二人だが、どうやらこの惑星では天候が不安定らしく雪で視界も悪くなっているため、仕方なく一夜を越すことになったのだ。
パチパチと火の粉を弾かせる焚き火を眺めながら、エマはいつの間にか垂れていた鼻水を啜った。体を毛布で覆っているとは言え外から流れてくる風はかなり冷たく、息を吸うのですら鼻の中をナイフで突き刺されるような痛みを感じてしまう。エマは思わずブラッドハウンドの方へ少し体を寄せた。それに気付いたブラッドハウンドはエマを見やるとマスク越しに心配そうな視線を向けてきた。

「寒いか?」
「うん……」
「では、もう少し火を足そう」

そう言うとブラッドハウンドは脇に置いた木の枝の束からいくつか掴み、焚き火に投げ入れた。パチ、と乾いた音が鳴る。焚き火の勢いは増したが、それでもさっきよりはマシになった程度で依然寒いことに変わりは無かった。
エマは洞窟の入り口へ顔を向けて外の様子を伺うとため息を吐いた。

「雪、すごいね」
「タロスで見るのとは大違いだな。最もあれはハモンドの冷却機から発生した物だが」
「うん、寒さも桁違いだし。でも綺麗……って、こんなことを思うのは変かな?」
「いいや、自然を美しく思える心は信仰あってこそだ。実のところ、私も同じ事を考えていた」

二人は互いに顔を見合わせると笑った。
「そうだ、これでもう少しマシになるかもしれない」ふとブラッドハウンドはそう言いながら毛布の中で片方のグローブを外すと、そのままエマの手を握ってきた。「どうだ?」
突然の感触にエマは一瞬驚いたが、すぐに自身もその手を握り返した。一本一本の指が太いブラッドハウンドの手はグローブに覆われていたためかほんのりと暖かく、少しだけ汗をかいていた。
エマは口元を緩ませるとブラッドハウンドの肩に頭を乗せ、「ありがとうブラッド。あったかいよ」とどこか気恥ずかしそうにお礼を言った。ブラッドハウンドも微笑むとその頭へ静かに首を傾けた。
ほんの些細な気遣いだったが、エマは先程よりも体に熱が溜まっていくのを感じるのであった。

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