SSS(超短編)The Amazing World Of Gumball
「先生…私、恋をしたんです」
「恋ですか」
狭いカウンセリング室に透き通った高い声。
目の前にいるカウンセラー、スモール先生は指先と指先を合わせて小さな突起形を作った。
そして嬉しそうに目を閉じて言う。
「エマ、恋は恥ずかしい事ではありません。恐れてもダメです。恋とは…」
「スモール先生、それはわかっています。どうして私がここに来たと思います?」
「…恋してるから?」
「ええ、そうです。それは良いんです。問題は―」
眉の端を下げ、スモール先生は困った顔で答えた。
その答えに肯定しながら私は自分のこめかみを摘み、一呼吸置く。
「―私は教師に恋をしてしまったということです」
カウンセリング室の空気が一瞬で青ざめていくのがわかった。
スモール先生は困った顔のまましばらく固まっていた。
そして「ああ…」と呟くと、気まずそうに下唇を噛んだり、黄色い目をキョロキョロさせたり。
だが対して胸がむずかゆくはならない。こんな反応をされるのはわかっていたからだ。
「それは…ここに来るわけですね」
スモール先生は苦く笑う。
「ですがよく言ってくれました。同様に恥ずかしがる事はありませんよ。誰に恋をしようが、ものは皆同じなんですから」
「でも教師に恋をするのはイケナイ事だってテレビドラマでやってました」
「ああいうのは子供を秩序的にしようと極端に表現するんです」
スモール先生は椅子から立ち上がり、私の前まで来ると。
「あなたはイケナイ事なんてしていませんよ、エマ」
柔らかく微笑んで、私の頭を左右にゆっくりと撫でた。
私はたちまち心が穏やかになるのを感じた。
スモール先生のすべすべとした白い体毛に包まれた手で頭を撫でられた事、教師に恋心を抱くのは罪ではない事。その二つが私の疑問と恐怖をぬぐい去ってくれたのだ。
けれど、私にはまだ一つの不安がある。
先生。そう名前を呼ぼうとした時、スモール先生は途端に立ち上がり「さあこれで一件落着ですね」と手を合わせた。
「エマの罪悪感は無くなりました。これからはもっと自分に自信を持って良いんですよ」
「ええ、ですがスモール先生」
「あなたの恋を応援しています」
「先生」
私の声など聞こえていないかのようにスモール先生は嬉々と声を張り上げる。そして決め手に「校長と教師が交際しているここで今さら教師と生徒なんて問題になりませんよ」と囁かれ、次に口を開こうとした時には既にカウンセリング室から追い出されていた。
目の前に広がったごちゃごちゃとした風景。はあ、と深いため息をつく。
「その教師はスモール先生なんですよ」
届かぬ呟きはすぐ周りの声にかき消された。
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