SSS(超短編)

Apex Legends


今年もハロウィンの季節がやって来た。レジェンドが待機するドロップシップ内は騒がしく、彼らの興奮が伝わってくるかのようだ。皆それぞれこの行事に相応しい装いを身に付けていた。ある者はゾンビ、ある者は怪物、そしてまたある者はヴァンパイアといったように。エマも今回は主催側から特別な衣装を与えてもらったので、今日の試合ではそれを着て参戦するつもりだ。

「エマ、その服似合っているわね」
「あ、レイス!」

いつの間にか後ろにいたレイスに声を掛けられてエマは振り返った。レイスは魔女風の格好をしていた。彼女の言葉にえへへとエマは照れ臭そうにはにかむ。

「ありがとう、レイスの衣装も素敵だよ。こういうのって仮装の内に入るのかな? ハロウィンパーティーみたいで面白いね」
「ふふ、そうね。毎回この時期になると他のレジェンドたちも楽しそうにしているわ。あのブラッドハウンドやレヴナントでさえもよ」
「ブラッドハウンドもここにいるの?」
「ええ。ほら、あそこ」

そう言ってレイスが指差した方向には頭に大きなカボチャを被ってカカシ風の衣装を着ている人物が佇んでいた。思わずエマは丸くなった目でレイスを見る。

「……まさかあのカボチャ頭がブラッドハウンド? 誰だろうとは思ってたけど」
「そのまさかよ。主催側も随分とユーモアのセンスに溢れているのね。まあ、以前からおかしな衣装を渡してくることはあったけど」
「へえ……カッコいい……」
「少し声を掛けに行ったら?」
「ええっ、恥ずかしいよっ」
「いいじゃない。ちょっと相手の服を褒めるぐらい簡単でしょ?」
「うう……そうかなあ」

俯いたエマの顔がぽうっと赤らむ。それを微笑ましく見るレイスに顎で促され、エマは小さく唸り声をあげた後おずおずとブラッドハウンドの方へ近付いていった。

「ハ、ハイ、ブラッドハウンド」
「エマ、か? 気付かなかった。威勢ある装束だな」
「あはは……それは褒めてくれているのかな」
「もちろんだ。お主によく似合っているぞ」

ブラッドハウンドの言葉にエマはせっかく熱が引いてきた顔をまた赤らめさせた。

「あ、ありがとう。ブラッドハウンドもすごく似合ってるよ。その衣装カッコいいね」
「そうか? お主にそう言ってもらえるのは光栄だな」
「うん。お世辞じゃなくて、本当にカッコいい!」
「分かった、分かった。その言葉をありがたく受け取っておこう」

興奮した様子で目を輝かせるエマを軽く制止しながらブラッドハウンドはマスク越しに苦く笑った。エマもつい我を忘れてしまったことにハッとすると恥ずかしそうに顔を掻き、ブラッドハウンドと見つめ合って微笑むのだった。
すると船内にアラームが響き、試合会場に到着したことがアナウンスで告げられた。今回競い合うチームの振り分けが船内の巨大なスクリーンに映し出され、エマは偶然にもブラッドハウンドと同じ部隊になった。それを確認したブラッドハウンドは興味深く唸り声をあげた。

「どうやらお主と同じ部隊のようだ。丁度良い、もう少しその姿を見ていたいと思っていた」
「え、うそ、ほんとっ?」
「本当だ。せっかくお主が新しい装いに身を包んだと言うのに、こうして少し顔を合わせただけではあまりに物足りない」
「そ、そ、それこそお世辞だよね? ……だよ、ね?」

ブラッドハウンドの甘い言葉でエマの頭の中はさまざまな思考がぐるぐると回り、顔から火が出そうだった。ブラッドハウンドはそんな彼女の様子にふと小さく含み笑うと、「さて、どうだろうな」と意味深に見つめてきた。カボチャ頭に刻まれた表情が笑っている。エマも思わずブラッドハウンドから目が離せずじっと見つめ合うが、すぐに慌てて顔を逸らした。

「えへへ……でもまあ、いいや。私もブラッドハウンドのカッコいい姿を間近で見られるし」
「……お主」
「え?」
「よもやフルドラの化身ではあるまいな」
「な、何それ? どういう意味っ!?」

聞き慣れない単語を口にしたブラッドハウンドにエマは困惑した眼差しを送った。ただ笑い声をあげているブラッドハウンドにエマは何度もその意味を問い掛けるが、ブラッドハウンドは彼女を相手にしようとはせずそのまま待機場へ移動してしまうのだった。

「……もう、やっぱり変な人だなあ」

去っていくブラッドハウンドの背中を狐につままれたような顔で見るエマは、まだ少し頬を赤らめてそう呟いたのであった。

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