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「っていう、夢を見たわけなんですよカナエちゃん。」
「うーん。よくわからないけれど、とりあえず名前ちゃんはかわいいからいいんじゃないかしら?」
「カナエちゃん、それ何の答えにもなってないよ。」

ふふふと笑うは、生物の胡蝶カナエ先生。学生のころから変わらずとりわけ美人で有名な先生は、その美人な顔の周りに花を咲かせたように笑う。
窓のサッシに寄りかかって、つま先をパタパタと揺らす。
女子高生というものになってから、はや2年が過ぎた。中学生のころにあこがれていたよりも、思いのほか変わりはなかったように思う。
けれどもきっと、中等部の子たちからすれば、大人に見えているんだろうな。


「不死川くんとは割と付き合いが長いけれど、名前ちゃんと知り合いとは聞いたことないわねえ。」
「や、私も記憶には無いわけよ。あんないかつい顔、5年間見てて思い出さないわけないしね。」

かたや話題に出ていた不死川は、輩先生と呼ばれる美術教諭と並んでその道の人なんじゃないかと噂される数学教師である。
常に瞳孔は開いているし、よくわからない傷がも多くある。
数学の授業まともに受けない人間に対しての仕打ちは男女関係なくひどいし(もちろんさっきも叩かれた。)それによってPTAからの苦情もめちゃくちゃ多いだとか。
でも、実は優しい先生っていう話もよく聞くし、しっかり生徒たちから人気のある先生だ。


「うーん、私ほんと夢って覚えてないタイプなんだけど。なぁんでかはっきり覚えてるんだよね。」
「不思議なこともあるものねぇ。ごめんね、力になれなくて。」
「うーうん。誰かに話聞いてほしかっただけだからだいじょーぶ。ごめんね、変なこと言って。」

先生たちの昼休みって貴重なんじゃないかなと思う。
カナエちゃん、もとい胡蝶先生はそんな貴重な時間を私の話に付き合って費やしてくれるんだから、そりゃあ学園内でも人気じゃないわけがないと思う。
華道部だからって理由だけで、私のことも気にかけてくれる先生だから、きっとこんなこともついつい話してしまうんだろうな。


「んー、でもすっきりしたかも!ありがとね、カナエちゃん」
「名前ちゃんがそうやって頼ってくれてうれしいわ」
「ねえさ…あら?名前、ここにいたの。」

生物準備室に入ってきたのは、同じクラスの胡蝶しのぶだった。
学園三大美女の一角を担うしのぶと、在学中学園三大美女であったカナエちゃんが並ぶと本当に目の保養だ。
きっと薬学研究部のことで借りる機材があるのだろう。
話の邪魔になるのはよくない。じゃあしのぶ、また後でねとひらりと手を振って準備室を出た。


あの夢、本当に何なんだろう。
リアルすぎる感触や、本当に一筋の希望だって思ったあの心の高揚感が、ただ事ではないということはわかっている。
けれど誰にでも彼にでも話せることじゃない。
カナエちゃんに話して、すっきりしたのは本当だ。
けれど、何も解決はしていない。どうして急に、不死川先生が夢に出てきたのか。あの夢を見てからもう3時間くらいたつのに、まだ心臓がどくどくと音を立てているのはなぜなのか。
…本人に聞くべきだろうか。

「…違う、気がする。」

神様に聞くのは、ちょっと違うかな。とりあえず今日は、この不思議な感覚を、ただの夢として処理することにする。
ペタペタと上履きを鳴らして、とりあえず教室に戻るために歩を進める。
どくりどくり。昨日までと打って変わって、不死川先生を思うと心臓が鳴る。夢に自分を支配されているみたいで、少し不快だ。






tallone