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2023/07/15(Sat)
西ロマ+葡(未完)
※未完
※西ロマ+葡
※西仏?仏西?と葡ロマっぽい表現がありますがどちらも違います
※色々と迷惑を被っているポルトガル
※イギリスがかわいそう
※見返してないので色々誤字脱字がひどそう
国しかいない世界会議をする必要性があるのだろうかと、ロマーノはいつも不思議に思う。しかし上司には参加しろと命令され、弟であるヴェネチアーノには参加してと泣きつかれるので、ロマーノはいつも渋々といった様子で参加していた。
逃げないか心配そうにしているヴェネチアーノを置いて、ロマーノはひとり、会議場にある喫煙所へと足を向けた。昼過ぎから始まる会議に備え、一本だけ口にしたくなったのだ。
「ほんまに好きやねん」
そんなロマーノの耳に、熱が籠った声が聞こえた。あまりに覚えのあるその声に、ロマーノは足をぴたりと止め、気づかれないように廊下の角から様子を伺う。するとスペインとフランスが、廊下の窓際に寄って向かい合っているのが見え、ロマーノは驚きに目を瞠った。
「世界で一番愛してる……もう気持ちが抑えられへん」
ロマーノの様子に気付かないまま、真剣な面差しで告げるスペインの横顔に、ロマーノは息を詰める。熱烈な想いを告げられたフランスは、満更でもなさそうに目を細め、照れた様子で笑っていた。
「お前ってば、本当に情熱的なんだから……」
フランスがスペインに手を伸ばすところを目にして、ロマーノは耐えられなくなって、足音を殺してその場を後にした。特に逃げる場所も思いつかず、無我夢中で喫煙所から遠ざかってく。ただ喫煙所で一服しようと思っただけだったのに、ロマーノはもう煙草の存在などすっかり頭の中から抜け落ちていた。
走り続け、開けた場所まで走ってやっと足を止めたロマーノは、視界に広がる花々や噴水を見て、その場所が中庭だと気が付いた。ロマーノは噴水の前で胸を押さえながら、荒い息を整える。全速力で走ってきたせいで息が苦しいのに、ロマーノの頭の中はさっき見た二人のことでいっぱいだった。
(知らなかった……)
スペインがフランスを好きだったことも、あの二人が両想いだったということも。
仲が良い二人だとは思っていたが、ロマーノから見る限り、あの二人の間に色恋のような雰囲気を感じたことはなかった。どちらかというと、気の置けない友人のような、遠慮のない関係だと思っていたのだ。少なくともロマーノはそんな二人のやり取りに嫉妬し、何度も二人の邪魔をしてきた。
「いつ、から……」
二人が想いあっていたと知っていれば、ロマーノだってそんなことはしなかった。嫉妬する気持ちは抑えられなかっただろうが、癇癪を起こした子供のように喚いて、スペインをフランスから奪うことなんて、しなかった。
ずっと二人の邪魔をしていた過去と、さっきの二人の甘ったるい雰囲気を思い出し、ロマーノの目からぼろっと大粒の涙が零れ落ちた。手で涙を拭うが、それはシャツの袖を濡らすばかりで、止まる気配はない。
「……ちくしょー……」
震える声で、過去の自分を罵った。なんてひどいことをしていたのだと憤る気持ちと、スペインだって言ってくれればと、こんな時でも誰かのせいにしようとする、惨めな自分が恥ずかしくてたまらない。色んな感情が胸の内を渦巻いていたが、一番多くを占めていたのは「失恋した」という事実だった。
ロマーノは今日、会議が終わった後にスペインをディナーに誘い、そこで長年胸に秘めていた気持ちをスペインに伝えるつもりだった。しかしそう決意した日に、失恋するなんてどこまでも自分はついていないとロマーノは思う。いっそ告白する前で助かったのかもしれない。ロマーノの好意を、申し訳なさそうに断るスペインの姿なんて、見たくなかった。
「……ふっ、ぅ……うぅ……」
「そんなところで、何しとう?」
泣きわめきたいが、どうにか声を押し殺して泣いていたロマーノに、背後から声がかかった。はじかれたように振り返ったロマーノは、後ろにいた予想外の相手に、涙で濡れた目を見開いた。
「……ポルトガル?」
◇◇◇
欠伸をかみ殺しながら、ポルトガルは窓から差し込む日差しに目を細めた。会議などめんどくさいと思っているが、悲しいかなそういうことに参加するのも、国である自身の務めである。会議までまだ少し時間があるので、廊下の窓から見える中庭で休んでいようと思った矢先、中庭に覚えのあるくせ毛が見えた。
「ひとりやん。珍しなあ……」
噴水の前で背を丸めながら突っ立ている後ろ姿に、ポルトガルは首を傾げた。ポルトガルの認識が正しければ、そこに立っている男、南イタリアのロマーノは、馴染みのある顔ぶれを連れていることが多かった。最近では弟である北イタリアなことが多いが、未だにロマーノの親分を自称している男も、べったりと彼にくっついているのをよく見かける。しかし中庭を見渡しても、誰かがそばにいる様子もない。
噴水に何か落としてしまったのだろうかと、興味本位でポルトガルは中庭に出て、ロマーノに近付いた。かなり近付いても気付かないその無防備さに、ロマーノらしいと胸の内で苦笑する。
「そんなところで、何しとう?」
後ろから声をかけると、ロマーノは背を震わせて、慌てた様子で振り返った。
「……ポルトガル?」
涙で濡れたその声に、ポルトガルが驚かされた。まさか泣いているとは思っていなかった。
目を赤くしながら頬を濡らしているロマーノは、驚いた様子で固まったポルトガルを見て、自身が泣いていたことを思いだした。慌てて、またポルトガルに背を向けた。スーツの袖で、ゴシゴシと目元を擦っているのを見て、ポルトガルはとりあえずその腕を掴んでやめさせる。
「やめとき。あんまり擦ると目腫れんで」
「は、離せよっ……!」
腕を振って手を振り払おうとするロマーノに、ポルトガルは呆れたため息をつく。仕方なく手を離してやり、かわりに胸ポケットに入れていたハンカチを取り出した。
「じゃあせめてこれ使い。これから会議あるんやで?泣いてたってバレたくないやろ」
既に赤くなっている目元に、優しくハンカチを当て、涙をしみこませる。ロマーノは驚いたように目を見開き、瞳を揺らしてポルトガルを見た。
「い、いい……そんなこと……」
「ええから」
しばらくどうしようか迷っている様子だったが、ロマーノは震える手でポルトガルのハンカチを受け取った。擦らないようにとポルトガルが言うと、小さく頷いて涙があふれる度、ハンカチを目元に優しく当てている。
(は〜〜〜〜〜……よかったぁ……)
そんな姿を見て、ポルトガルは小さく息を吐いた。さっきに比べると、ロマーノの涙もおさまり始めている。それにポルトガルは内心、とても安堵していた。
ロマーノがよく泣く子だというのは、スペインを通してポルトガルも知っている。すぐ泣くロマーノをからかったことだって過去にはあったが、その時は必ず、ポルトガル以外にも誰かがいた。
そもそもポルトガルは、こういった幼さを残す相手をどう扱えばいいかわからない。普段なら対等に会話が出来るのだが、泣き出した相手を慰める術など持っていなかった。
(女の子を慰めるんとはちゃうしなあ……)
相手が大人の女性であったなら、ポルトガルもそれなりに扱い方はわかるが、未だに子供のように泣くロマーノは完全にお手上げだった。ポルトガルには、スペインほどの世話好きは備わっていない。
(それにしてもどうしよ……ほんまはこのまま放っときたいけど、まだ泣き止んでないし……ここで放置したら流石に人でなしやんなあ……いや人ちゃうけど……)
ぐるぐると頭の中でそんなことを考えていたポルトガルは、噴水の近くにベンチがあることに気が付いた。そもそも最初はそこで一休みしようと思っていたので、ちょうどいいとポルトガルはロマーノの腕を掴む。
「とりあえず座って落ち着き」
ポルトガルが腕を引くと、ロマーノは大人しくそれに従って、促されるままベンチに腰掛けた。ポルトガルもその隣に座って、改めてどうしたものかとロマーノを見る。
詳しい原因はわからないが、ロマーノが泣くことなど大体予想はつく。大方、弟とである北イタリアと比べられたか、上司に叱られたか、スペインと揉めたかのどれかだろう。しかし今ここでロマーノがひとりで泣いていたということは、自ずと選択肢は絞られる。
「……スペインとなんかあったん?」
図星であったのか、ロマーノは大げさに肩を揺らして驚愕の表情を浮かべる。
「なっ!?なんで……!?」
「いやまあ……なんとなくやけど……」
別にそれほど難しい話ではないので、ポルトガルは肩を竦めては話を濁した。大体、ロマーノはイタリア関係で何か揉めると、スペインに泣きつくことが多かった。特に今日はスペインも参加している会議なので、一人で泣いていた時点で、スペインと何かあったのだろうということは察しが付く。
「無理に話せとは言わへんけど、お前がそこまで泣いてんのも珍しいから、ちょい気になってん」
目を見開いて固まっているロマーノに、ポルトガルは笑みを深めた。正直なところ、ロマーノを心配しているというよりは、スペインをおちょくれる材料が出てくる気がして、話が聞きたいというのが、ポルトガルの本音だった。
「思い出したくないならええねんで。どうせあいつがなんかやらかしたんやろ」
内容は気になるが、ロマーノが泣いていたところを慰めたというだけで、スペインが動揺するのは目に見えている。今の状況ですら面白いことになる予感はあるので、ポルトガルとしてはそれでいいかという気持であった。
しかしロマーノは、ポルトガルが渡した白いハンカチをぎゅっと握り締め、ポルトガルを伺うようにじいっと見つめた。その視線に、ポルトガルはおやっとした様子で、ロマーノに視線を返す。何か言いたそうにしていることに気付き、しばらく黙ってロマーノが話し出すのを待った。
「……お前って、さ」
「うん」
「スペインの……好きな相手、って……誰か知ってるか?」
「…………」
想像していたどの内容にも当てはまらない、予想外の話題にポルトガルはしばしば固まった。
(あいつの好きな相手って……お前やん……)
ポルトガルが知る限りでは、スペインの好きな相手は、目の前にいるロマーノだったはずだ。普段の態度や言動を見ていれば言われなくても気付くが、いつか酒の席で強かに酔っぱらったスペインが「好きやけどどないしたらええかわからへん」と、泣き言を漏らしていたことで確信を得た。
「…………まあ、知っとるよ」
「そうなのか!?」
「まあ……」
何が聞きたいのかわからず、ポルトガルはひとまず曖昧に返事をする。ついにスペインに告白でもされたのだろうかと思ったが、そうであればロマーノが泣いていた理由がわからない。ポルトガルの認識が間違っていなければ、確かにロマーノもスペインのことが好きだったはずなのだ。喜んで泣いているならわかるが、あきらかにロマーノは悲しさで泣いていた様子であった。
「そうか……知ってるなら、いいか……?」
「……なにが?」
意味がわからずポルトガルが訪ねると、ロマーノは意を決したように、改めてポルトガルを見た。
「その……スペインが、告白してた、んだけど……」
まるで他人事のように言うロマーノに、ポルトガルは眉を顰めた。
「ついに告白されたん?」
「された……?じゃなくて、してたんだよ」
「え?せやから…………ん?」
なんとなく嚙み合っていない気がして、ポルトガルはひとり首をひねる。ポルトガルはスペインの好きな相手がロマーノだと知っているから、スペインが告白するならロマーノにしたのだろうと自然と思うが、まるでロマーノはスペインが誰かにしていたかのように話している。
「スペインが告白してたんやんな?」
「……ああ」
辛そうに目を細めたロマーノに、照れている様子はない。ポルトガルは自身が思っているスペインの好きな相手と、ロマーノが言っている告白された相手が同じではない可能性が深まったことに、気が付いた。
「……ちなみに、その相手って誰やった?」
「え?お前、好きな相手知ってるんだろ?」
「ええから。教えてや」
笑みを深めると、ロマーノは怪訝な表情をしながら、相変わらず辛そうな様子で口を開く。
「……フランス」
「………………フランス」
思わず吹き出しそうになって、ポルトガルは考える素振りをしながら、口元を隠した。そして震える声で、言われた名前が間違っていないか繰り返すと、ロマーノは小さく首を縦にふって頷いたので、相手に間違いはないようだった。
(何がどうなってそうなったんかわからんけど、めっちゃおもろいことになっとるやん。何やってんねんあいつらは)
本当は大笑いしたいところだが、ロマーノは本気でスペインの好きな相手がフランスだと勘違いしている。そして一人で号泣していたぐらいなので、ここでからかったりすれば、更にひどい状況になるだろう。ポルトガルは震える口角を手で隠し、わざとらしく咳ばらいをして、なんとか込み上げてくる笑いを引っ込める。
「ええと……それで?お前はその、スペインが?フ、フランスに……」
「……どうした?」
シチュエーションを考えながら話していると、また笑いが込み上げてきて、ポルトガルの声が震える。訝しげにロマーノがポルトガルの顔を覗き込んだが、ポルトガルはまた咳ばらいをしながら、それを制した。
「い、いや……その、告白してたんやんな?」
「……ああ」
「聞き間違いとちゃうん?」
「違ぇよ!ちゃんと俺はこの耳で聞いたし、この目で見た!」
「夢見てたとかとちゃうくて?」
「ついさっきのことだぞこの野郎!」
「そいつら酔ってなかった?」
「これから会議なのにか!?流石にねーだろ!」
「お前疲れてんとちゃう?」
「なんでだよ!?」
あくまでロマーノはスペインのフランスに対する告白が、事実であると思っているようだった。ポルトガルは腕を組み、改めて考える素振りを取る。
ポルトガルが知る限りでは、スペインとフランスは友人のはずだった。天変地異が起これば、スペインがロマーノへの好意をなくし、フランスのことを好きになることもありえるかもしれないが、そんな大きな出来事が二人の間で起こったとは、ポルトガルは聞かされてはいない。
(たぶんロマーノが勘違いしとるんやろうなあ……)
蓋を開けてみれば簡単なことではあるが、スペインの好きな相手はフランスではないと、どうすれば伝えられるだろうか。正直に「スペインは前からずっとお前のことが好きやから、フランスは流石に違うと思うわ〜」と伝えられたら楽だが、そうなるとスペインがひた隠しにしていた恋心を、ポルトガルが勝手にバラしてしまうことになる。
(別にあいつの恋心なんかどうでもええけど……最近はそういう、プライバシー?とか、厳しいもんなあ……)
それでスペインが傷つこうが喚こうが、ポルトガルは痛くも痒くもないが、その事実で周りからとやかく言われるのが嫌だった。それに強いて言うなら、どうして自分がスペインの為にそこまでしてやらなければならないのか、というのが本音である。
「お前は、さ……」
思考の海に溺れていたポルトガルは、ぽつりと零したロマーノの声に反応するのが、一拍遅れた。
「ん?」
「いつから……スペインの好きな相手のこと、知ってたんだ?」
スペインの好きな相手がフランスだというのは初耳だったが、本当の好きな相手のことならば、恐らくスペイン自身が自覚する前からポルトガルは知っていた。
「……かなり前やなあ」
スペインがロマーノのことを好きだと認め、口にし始めたのは近年のことだと思うが、ポルトガルはずっと前からスペインはロマーノのことが好きだったのだろうと思っている。自身の感情にすら持ち前の鈍感さを発揮するのだから、スペインというのは救えない男だ。
「そんなに長い間、好きだったのか……」
なんとなく絶望が滲んだ声色で、ロマーノが呟いた。ポルトガルがそんな彼の横顔をじいっと眺めていたが、次第にロマーノの目に涙が浮かんできたことに気が付いて、ポルトガルはどきりとした。
「な、なんで泣くん?」
せっかく泣き止んだというのに、ロマーノはまたぐすぐすと鼻を鳴らして泣き始める。ポルトガルのハンカチで涙を拭い、ロマーノはしゃっくりあげながらも、なんとか話し出す。
「お、俺……すげー、あいつらの、邪魔してた……」
「邪魔?」
たどたどしいロマーノの言い分を要約してみると、スペインとフランスが二人きりでいる時、ロマーノがわりこんでスペインをフランスから引き離したことが、何度もあったようだ。実際そんな姿をポルトガル自身も目にしたことはあった。
「好きだって、知ってたら……俺、だって……」
「……いや、別にスペインは嫌がってなかったやろ?」
むしろ喜んでいたのではないか。思い返してみて、ロマーノに手を引かれながらデレデレと顔を緩めているスペインの姿が、ポルトガルの頭に浮かぶ。
「そりゃ、あいつは俺のこと、優先するだろ……!」
「……まあそうやろうけど」
他の誰よりスペインはロマーノのことを優先する。それは好きな相手であるというのもあるが、単純に長く手をかけてかわいがってきた延長でもあるのだろう。そういった自覚はあるのに、何故その相手から好かれているという自信はないのか。ポルトガルは奇怪な気持ちを抱きながら、泣き止まないロマーノを眺めた。
「それで、お前は失恋したと思って泣いとるんか」
「……えっ」
泣いていたロマーノは、突然ぴたっと動きを止め、信じられないものを見たように、大きく目を見開いてポルトガルへ振り返った。どうして、と言いたげなその様子に、ポルトガルは肩を落としてため息をつく。
「し、失恋……?」
「せやろ?だってお前、スペインのこと好きやん」
「なっ!?なん……!?」
更に驚きの表情になったロマーノに、ポルトガルはやれやれと首を横に振った。スペインもロマーノも、周りからするとわかりやすい部類に入る。お互い好きあっていることなど、周囲の者はほとんど気付いているだろうが、本人同士が鈍感を発揮して健気に片想いをし続けている。
「お前わかりやすいんやもん」
「それっ、ス、スペインは……」
「気付いてへんよ。ほんまに節穴やと思うわぁ」
お前ら二人とも。という言葉を、ポルトガルは飲み込んだ。
スペインに気付かれていないと知って、ロマーノは安心したように息を吐き、肩を落とした。いっそ気付かれていれば、スペインはロマーノに猛アタックをして、全て丸く収まっていることだろう。
「告白してみたらええやん」
「はあ!?」
信じられないとでもいうような声を上げて、ロマーノはポルトガルを睨みつけた。
「違うやつが好きだって知ってて告白するバカがどこにいんだよ!」
「いや〜……案外うまくいくかもしれへんで」
案外どころか当然うまくいくのだが、それを言ってしまう訳にはいかない。もどかしさを感じながらも、やっと涙が止まったロマーノを見て、目を細めて笑う。
「……うまくいく訳ないだろ」
「わからんやん。それに一回ちゃんと聞いたらええわ。ほんまにフランスと付き合ってるんかって」
心細そうな顔をするロマーノを見て、ポルトガルはなるほどなあと声に出さずに納得する。スペインがロマーノを構い倒すのは、あの男の性分だと思っていたが、ロマーノは自然と周りに心配させてしまうような危うさを持っている。確かについ手を焼きたくなってしまうかもしれない、とポルトガルは思ったが、だからといってポルトガルにはスペインほどの愛着をロマーノに持ち合わせていない。かわいいなあとは思うが、ただそれだけだった。
「でも……」
震える声を出したと思ったら、またしてもロマーノの目に涙が浮かんだ。それにぎょっとして、ついにポルトガルはロマーノに手を伸ばした。
「お前、なんでそんなに泣くん?」
目尻に浮かんだ涙を指で拭うと、ロマーノははっとして、慌ててポルトガルの手を振り払う。
「触んなっ」
「そう思うんやったら、泣くんやめ……」
「何してるん」
近くで低い声がしてポルトガルとロマーノは、同時にベンチの後ろへ振り返った。そこには冷たい目で二人を見下ろすスペインと、その後ろには興味深そうに三人を見るフランスがいた。
明らかに怒りを滲ませているスペインは、圧倒的にポルトガルを睨みつけていたが、それに怯えたのはポルトガルではなくロマーノだった。あれだけ長く共にいたというのに、ロマーノはスペインの苛烈な一面を目の当たりにしたことがあまりない。そんな様子に呆れながら、ポルトガルは笑って肩を竦めた。
「何って、話してただけやけど」
「ならなんでロマーノが泣いてんねん」
お前のせいや、とは言えずにポルトガルはロマーノを見る。ロマーノはスペインに視線を固定したまま、白いハンカチをぎゅうっと握り締めていた。気が動転して、うまい言い訳も思いつかないようだった。
「お前、ロマーノになんかしたん……」
ふいに言葉を止めたスペインは、信じられないものをみたといった風に、大きく目を見開いた。今までハンカチを握りしめて固まっていたロマーノが、まるで助けを求めるようにポルトガルのスーツの裾を掴んだからだ。スペインが驚いている以上に、ポルトガルの方が驚いていた。
(え!?なんで俺の方にくるん!?お前の親分が目の前におるやん!?なんで!?俺のこと巻き込まんといてや頼むわ……!)
未だに驚愕の様相で固まっているスペインを通り越し、後ろにいたフランスも驚いた様子で目を見開いている。ロマーノが助けを求めるのは決まってスペインだったので、その手がポルトガルに伸びたことがあまりに驚きだったのだ。
しばらくその場に沈黙が落ちたが、いい加減会議の時間も迫っている。ポルトガルは仕方なく、目を閉じて泣いているロマーノの肩に手を置いて、未だに固まっているスペインへ振り返った。
「もう会議始まるやろ。俺らも後から行くから、お前らは先行っといて」
ここを去る様にポルトガルが言うが、それでもスペインは、未だにポルトガルを掴んでいるロマーノの手を凝視している。もはやポルトガルの言葉など聞こえていない様子だったが、フランスがスペインの腕を引くと、されるがままになりながらスペインはその場を離れた。それでも名残惜しそうにずっとロマーノの手を見つめるスペインが、実に哀れであった。
「行ったで」
掴んでいた肩を揺らして言うと、ロマーノは恐る恐るといった様子で目を開いた。そしてスペインがいた場所を見て、誰もいなくなっていることに、少し悲しそうにしている。ポルトガルはそれを呆れながら眺め、ため息をついた。
「お前、会議どうする?ここにおる?」
「……いく」
小さな声だったが、ロマーノは涙を拭って頷いた。そのまま立ち上がろうとするロマーノの両肩を掴み、向き合うように固定する。不思議そうにしているロマーノに、ポルトガルは語り掛けるような優しい口調で話しかけた。
「ええか。後悔しとうなかったら、ちゃんとあのアホと話し合い」
躊躇うように口を閉ざすロマーノに、ポルトガルは「ええな」と念を押した。これだけ言ってうまくいかないようなら、もう二人はそういう運命だったのだとポルトガルも割り切ることにする。結局ポルトガルは部外者でしかなく、決めるのは本人であるロマーノだ。
「……わかった」
少し躊躇いつつ、ロマーノは小さく頷いた。それを見て、ポルトガルはベンチから立ち上がり、ロマーノに手を差し出す。
「ほんなら、会議行こか。遅刻やで」
「えっ」
驚いた様子は見せたものの、ロマーノは特に急ぐ様子もなく立ち上がり、二人はのんびり歩いて会議場へ向かった。おかげで二人ともドイツの雷が落ちるのだが、のんびり歩いている二人は当然そんな未来を知らないのだった。
欧州の会議の時、ポルトガルの隣に座るのは決まってスペインになる。互いに隣に座ろうと決めている訳ではなく、国名が書かれたプレートが用意されており、渋々二人は隣り合っていた。
本日の会議とて、ポルトガルの片隣りはスペインである。そのスペインが司会進行を務めているドイツの話に耳を傾けることもせず、何か言いたげにずっとポルトガルを見ていた。こうなることは予想済みだったポルトガルは、いつもと違って会議に勤勉な姿勢を見せ、あえてスペインをずっと無視している。
目が合うことを待っていたらしきスペインは、視線に気づかない(フリをしている)ポルトガルに痺れを切らし、資料の端に短いメッセージを書いた。それをポルトガルの方へ投げるような手つきで寄こし、指先でとんとんと小さく机を叩く。
流石にここまでされているのに無視しているわけにもいかず、ポルトガルは渋々視線を落とし、机に置かれた資料を見下ろした。資料の端に小さく、けれど荒っぽい文字で『話したい事あるから、終わったらちょい付き合え』と、随分偉そうなメッセージが綴られている。
(わかりやすいヤツやなあ)
苛立ちを滲ませたインクは、力強く書かれたことがよくわかるほど濃くなっていた。なんとか笑いをかみ殺したポルトガルは、スペインが書いたメッセージの上にトマトのイラストを描く。トマトの真ん中に、ロマーノを前にした時のようなスペインのだらしない顔を真似て表情をつけ、矢印を書いて『お前』と書き足して、資料をスペインへ突っ返した。
「……なんやねん!」
返された資料を見てすぐ、スペインが声を張り上げる。すると会議のまとめに入っていたドイツが、厳つい顔をしながらスペインに振り返った。
「何か意見があるのか、スペイン」
「えっ、い、いや……なんもないで!」
「なら静かにしていてくれないか」
「ご、ごめんなあ……」
肩を落として謝ったスペインは、ドイツがまた話し出したのを見てから、ポルトガルを強く睨みつけた。それは会議が終わるまで続き、終了の合図と共に立ち上がって逃げようとしたポルトガルは、呆気なく隣にいたスペインに捕まえられる。
「ちょお、待たんかい!どこ行くねん!」
「は〜〜〜〜〜めんどくさ……」
仕方なく足を止めたポルトガルは、わざとらしく大きなため息をついてスペインに振り返った。
「話あるって言うたやろ。何帰ろうとしてんねん」
「お前の言いたいこと想像つくしなあ」
ポルトガルがちらっと視線をロマーノに向けると、つられるようにスペインもロマーノへ視線を向けた。ポルトガルとスペインを見ていたロマーノは、視線が合ったことに肩を震わせ、わかりやすく二人から顔を逸らしてしまう。その様子に、見るからにショックを受けているスペインを見て、またしてもポルトガルはため息をついた。
「……しゃあないなあ」
掴まれていたスペインの手を逆に掴みなおし、ポルトガルはスペインを引っぱって議場を出た。後ろからスペインが何か戸惑った声を上げているが、全て無視してポルトガルが向かった先は、会議が始まる前にロマーノがひとりで泣いていた中庭だ。
噴水のそばまで来て、周りに誰もいないことを確認してから、ポルトガルは手を離してスペインと向き合った。
「ロマーノが泣いてた理由やけど……」
じっとポルトガルの深い緑の目でスペインを見つめる。スペインは一度頷いて、一字一句聞き逃さないよう真剣な面持ちで、ポルトガルの言葉を待った。
「本人に聞き。ほな」
「ちょっ、ちょい待って!」
踵を返してその場を去ろうとしたポルトガルの手を、スペインが慌てて掴んだ。振り切ろうとしたが、スペインの掴む力が強く、振り切れそうにない。仕方なくポルトガルはまたスペインに振り返り、睨みつけているスペインと対峙する。
「ここまで移動した意味ないやろ!なあ、教えてや」
「せやから本人に聞いたらええやん」
「き、聞かれたくなさそうやったから……」
悲しそうに視線を落とすスペインを見て、ポルトガルはあることを思いだした。ベンチに座っていた時、ロマーノがスペインではなくポルトガルに助けを求めるように、手を伸ばしたことを。普段は鈍感だなんだと言われているスペインだが、流石にあのことは堪えたようだ。
「なら聞かんかったらええやん」
「でも気になんねん!」
話してくれるまで手は離さない。そんな雰囲気を感じ、ポルトガルはどうしたものかと思案する。そもそもポルトガルとて、真相はわかっていない。ロマーノが失恋した、と勘違いして泣いていたが、実際スペインとフランスの何を見てそのような勘違いが起こったのか。普通に話している二人を見てそんなことは思わないだろうし、フランスのセクハラなど今に始まったことではない。きっと何か、そうだと思わせる行動を、二人がとったのだろう。
「……俺もお前に聞きたい事があんねんけど」
「俺に?」
首を傾げるスペインに、ポルトガルは一度頷く。先にロマーノのことを知りたいだろうが、スペインは渋々「なんや」と聞き返した。
「お前、フランスのこと好きなん?」
「フランス?まあ、嫌いやないけど……」
「せやなくて……恋人にしたいんかってことや」
「こっ……!?」
絶句するスペインを見て、予想通りの反応に何の感慨も浮かばない。ポルトガルは白けた顔つきで、驚きのあまり固まっているスペインを眺めていた。
「そんな訳ないやろ!?なんでそんな疑問がわいてくんねん!」
「いやあ……俺もそう思うわ」
「なんやねんそれ!?大体お前、俺が誰好きかわかっとるやろ!?」
いつかの酒の席でうっかり弱音を吐いたスペインは、夜が明けてアルコールが抜けた時、青褪めながら誰にも言わないでくれと懇願してきた。人の秘密を言いふらして喜びを得る趣味はなかったので、二つ返事で答えたポルトガルは、それからスペインの想い人を誰にも口外していない。正直なところ、言いふらさなくともみんな大体予想はついているはずだが、知られているということにスペインは気付いていなかった。
「……お前、まだロマーノが好きやねんな?」
重要な部分を確認するため、ポルトガルはスペインをじっと見つめた。するとぎくっとした様子で肩を跳ねさせ、スペインは気まずげにポルトガルから目を逸らした。その頬は赤く、何かに耐えるように一度唇を噛んだ後、スペインは躊躇いがちに口を開いた。
「……せやね」
「何照れてんねん。気持ち悪いな」
「ほっといてや!」
ムキになるスペインに呆れながら、内心ポルトガルはこれからどうしたものかと考えていた。明らかにスペインとロマーノは両想いで、どちらかが告白すれば恋人になれる状態だ。しかしロマーノはスペインに好きな相手がいると勘違いしており、妙な方向に拗れ始めている。
ここで馬鹿正直に「ロマーノもお前のこと好きなんやって」と言えたら楽でいいが、そういう訳にもいかない。当事者でない者から、ロマーノの想いなど聞きたくないだろうし、ロマーノだって知らない場所で勝手に暴露されるのは嫌だろう。しかしスペインはロマーノが泣いていた理由を話すまで、ポルトガルがとっているホテルの部屋まで着いてきそうな勢いがある。
「……ロマーノ、失恋したんやって」
仕方なく、ポルトガルは内容をぼかして事実を伝えた。スペインはそれに大袈裟に驚いて、目と口を開いてぽかんとしたまま、少しの間固まっていた。
「……お前に!?」
「ちゃうわ」
顔を青くしながら見当違いなことを言うスペインに、ポルトガルは首を振る。子分が子分なら、親分も同じだ。どうしてこうも勘違いがうまいのかと、ポルトガルは途方もない気持ちになる。
「失恋して、ひとり寂しくここで泣いててん」
「それでお前が慰めてたん?」
「慰めてたっていうか……話聞いてただけやけどな」
正直なところ、慰める気持ちなど全くなく、面倒くさいというのが一番強かったが、それはそれでスペインの反感を買いそうなので、ポルトガルは本当のことは口にしなかった。放っておいてもよかったのだが、何分ロマーノが小さな頃からの知り合いなので、無視するというのは罪悪感に苛まれる。泣いていたのがフランス辺りであったら、ポルトガルは当然無視して会議場へ向かっていた。
そんなポルトガルの気持ちを知らないスペインは、疑いを含んだ目でポルトガルを見ている。そんな視線を向けられるいわれもなく、ポルトガルは訝しげな顔つきになった。
「……お前、実はロマーノのこと好きやったりせえへん?」
「なんでやねん!お前があいつのこと好きやからって、世界中の人みんながロマーノのこと好きになる訳とちゃうねんで!」
むしろポルトガルは、ロマーノのような子供くささが抜けていない子は、苦手だった。話していても面倒くさいと思うこともあるし、扱い方もわからない。スペインはよくロマーノとうまくやれるな、などと思うこともあるほどだ。好き嫌いの問題ではなく、根本的に相性が良くないのだろうとポルトガルは思っていた。
あまりに予想外な質問に珍しく声を荒げたポルトガルは、気持ちを落ち着かせるように長く息を吐いた。そしてまだ疑いを拭いきれない視線を向けるスペインを睨み返す。
「お前が慰めたり」
「え?」
きょとんと目を見開くスペインの姿に、毒気を抜かれたポルトガルは、肩を竦めて笑った。
「ちょうどええやん。傷心中の相手って落としやすいやろ」
「下世話な言い方やなあ……」
「でもその通りやん。それに……」
渋い顔をしているスペインの肩に腕を回し、顔を近付ける。驚いているスペインの耳元に口を寄せ、周りに聞こえないように小さな声でポルトガルは囁いた。
「お前、略奪好きやろ」
息がかかったのか、スペインは背を震わせてポルトガルの体を押し返した。そして耳元を手で覆いながら、嫌そうにしているスペインの顔色は、あまり良くない。
「……ロマーノは誰のもんでもないやろ」
「まあな。でも心は誰かのもんっちゅー訳や。一種の略奪愛やんなあ」
おどけたように笑って言うポルトガルに、スペインはぐっと歯を噛みしめた。そんな悔しそうな顔をしているが、実際ロマーノの心を射とめているのは、略奪しようとしているスペイン自身である。ひどい茶番劇だが、それが事実だった。
そこでふと、スペインの後ろにロマーノの姿が見えた。まだ遠いので会話までは聞こえていないだろうが、心配して見に来たらしいロマーノは、ポルトガルとスペインに近付くか迷っている様子だった。それにいち早く気付いたポルトガルは、にやっと笑ってスペインの肩を掴んだ。
「役者もそろったことやし、気張りや」
「は?役者、って……」
スペインの体を後ろへ向けると、ようやくロマーノの存在に気付いたようだった。はっと息を詰めたスペインの背を軽く叩き、ポルトガルは今度こそその場を後にする。その後の二人がどうなるか気にならないといったら噓になるが、ポルトガルはもうあの二人に巻き込まれるのは御免だった。
「まあ、流石にうまくいくやろ。ここまでお膳立てしてやってんから」
後日スペインに何か奢らせようと思いながら、ポルトガルはホテルへと足を向けた。本当はどこかの店で夜を済ませようと思っていたが、すっかりくたびれてしまったポルトガルは、早くホテルで休みたかった。ルームサービスを頼むか、ホテルのレストランで済ませようと、暮れ始めた空を見ながら考えていたポルトガルはふと、何かが引っかかって足を止めた。
「……んー。なんか忘れとる気ぃするわあ……」
何かが引っかかっている。しかしその場で立ち止まって少し考えても、結局何も思い出せなかった。ということは、さほど大したことではなかったのだろう。そう考え直し、ポルトガルは改めてホテルへと向かった。
一方、その頃会議室にて。
議長であるドイツと話を終えたフランスが、人が少なくなった会議室を見渡して、ぽつんと席に座っているイギリスに目を留めた。栄誉ある孤立を気取っていたイギリスがひとりでいることなど珍しくはないのだが、この時間にひとりで会議室にいることに疑問を抱いた。しかも座っているイギリスの表情はどこか暗い。
フランスはゆっくりイギリスに近付いて、軽く肩を叩いて声をかけた。
「よお。お前何してんだ?今日はポルトガルと飲みに行くんじゃなかったのか?」
ポルトガルを待っているのかと思ったが、会議室にポルトガルの姿はない。今頃二人で飲みに行っているのだろうと思っていたフランスは、イギリスがひとりでいることに驚いていた。
「……あいつ、会議が終わったらすぐスペインとどっか行って、帰ってこねえんだ」
「オーララ……」
力なく話すイギリスの肩は下がり、明らかにどんよりしたオーラを纏っている姿に、フランスは同情の念を隠せない。どこまでいってもかわいそうな男の肩をまた叩き、慰める。
「お兄さんがとっときのお店に連れてってやるよ……」
比較的優しい声で言うと、イギリスは体を震わせて机に顔を伏せた。ぐずぐずと鼻を啜る音がして、泣いているのだとわかり、フランスは哀れだなあと少しだけ気分を良くする。
「あいつ……!自分から誘ってくるくせに、すぐ忘れやがる…!いっつも、いっつも……!」
「うんうん。ラテンなんてそんなもんだよ。かわいそうだね眉毛ちゃん」
「うるせークソ髭!お前もラテンだろバカぁ!」
泣きながら喚くイギリスを憐れみながら慰めるフランス。そんな二人のことを、早く鍵を閉めたいドイツが迷惑そうな顔で、しばらく見守っていた。
一応まだ未完なんですけどなんかここで終わっててもあまり違和感ないな…。
しばらく書けなさそうなのでひとまず供養で!
いつか続き書ければいいな〜と思います。