memo
2023/07/15(Sat)
親分誕生日
※西ロマ
最後にと思い、ロマーノは携帯を確認した。けれどスペインからメッセージは届いていない。時計を確認すると、もう少しで日付を跨ごうとしていた。
今日中に返信が来ることはないだろうと、ロマーノはメッセージ画面を閉じた。明日は朝から飛行機に乗ってスペインに向かう予定なので、早く眠らなければならない。リビングの明かりを消し、ロマーノは静かな家の中を進んで寝室に向かった。
昨日が日本の誕生日だったため、ヴェネチアーノはイタリアにいない。ドイツと共に日本へ行き、祝いを兼ねて遊びに行っている。本来であればロマーノも共に向かうところであったが、基本的にロマーノが日本のことを当日に祝えたことがない。それは翌日に当たる今日が、スペインの誕生日だからだ。
ヴェネチアーノが日本へ向かうなら、ロマーノはスペインへ。そういう決まりがいつの間にか出来ていた。何よりロマーノは、スペインの恋人である。一番に祝ってやりたかった。
本当であれば当日に祝ってやるのが良いのだが、あいにく当日は上司に捕まっており、ロマーノが会いに行ってもスペインに会えるのは夜遅くである。夕方ごろに「明日の朝のうちにそちらへ行く」と送ったロマーノのメッセージに、未だにスペインからの返信がないことを思うと、まだ上司に捕まっているか酔っぱらいすぎて既に寝ているかのどちらかである。
どちらにしても、明日も二日酔いで使い物にならないスペインのことを思い、ロマーノはため息をついた。
「行ってもどうせ寝てんだろうな……」
明け方まで付き合わされ、昼を過ぎても起きてこないことなどよくあることだ。プレゼントを渡し祝うことが目的なので、多少のことは大目に見るが、明日のことを思うと少しだけロマーノは憂鬱だった。
携帯を充電器に差し込み、今にもベッドに潜り込もうとしたロマーノの耳に、チャイムの音した。
「ん?」
聞き間違いだろうかと、振り返って部屋の入口を見ながら、ロマーノは耳を澄ます。するともう一度、家のチャイムが鳴った。今度こそ聞き間違いでないと悟ったロマーノは、怪訝そうに顔を顰める。
「こんな時間に誰だよ……」
夜の十二時前に家を訪ねてくる者に覚えはない。緊急の悪い報せか、物取りの類か。とにもかくにも良いものではないだろうと覚悟しながら、ロマーノは寝室を後にした。
リビングと廊下の明かりをつけ、玄関へと急ぐ。廊下にある窓から外を確認すると、暗くて顔はよく見えないが、玄関前に人影が確かにあった。寒空の下、あまり長く待たせるわけにもいかず、ガウンを羽織ってロマーノはドアの前に立つ。覗き防止の飾りをどけ、ドアスコープから外を見た。
「……は?スペイン?」
暗闇の中に立つ人影に、ロマーノは驚きの声を上げた。ここにいるはずのないスペインが、寒そうに背を丸めながら、じっとドアを見つめていた。ロマーノは慌てて鍵を開ける。
「お前、何でここにいんだよ」
ドアを開きながらロマーノがそう口にすると、鼻の頭と頬を赤くしているスペインは、にっと笑った。しかしそれだけで、ロマーノの問いには答えない。
寒そうにして縮こまっているスペインは、間違いなく幻ではない。呆れた顔をしているロマーノに、スペインは手を伸ばした。
「……う、わっ」
腕は迷うことなくロマーノの腰に回され、スペインは強くロマーノに抱き着いた。勢いを殺し切れず、ロマーノは数歩後ろに下がり、ドアから手が離れる。スペインの背後で、ドアは静かな音を立てて閉じられた。
「はあ〜……ロマーノ、あったかいわあ」
ぬくもりを奪うように、スペインは冷たい頬を擦り合わせ、ロマーノの首筋に顔を埋める。外気で冷やされたスペインの体に触れられ、ロマーノは小さな声を上げて背を震わせた。
「おっまえ、冷てーぞちくしょうが」
あたたかくなるように、ロマーノはスペインの背を撫でる。するとスペインは楽しそうに「せやろ」と頷いてみせた。
「つーか、だからお前、なんでここにいんだよ」
本来であれば、今頃スペインの誕生日を祝って、上司たちに連れまわされているはずだった。しかし主役のスペインは、何故かロマーノの腕の中にいる。まさかわざわざイタリアでパーティをしていた訳でもないだろう。
「ええやんか。誕生日ぐらい、俺のおりたいとこにおったって」
なんとなく拗ねた子供のような口調に、ロマーノは珍しいこともあるんもんだと、目を丸めた。本来の性格なのか、国だからこそなのか、スペインが上司たちを困らせるようなわがままを言うことは、滅多にない。
「祝ってくれるのは嬉しいけど、特別な日なんやもん。たまにはお前と過ごしたかってん」
これをわがままというのかは微妙なところだが、朝まで祝おうとする上司たちに断り、わざわざイタリアまで飛んできたのだろう。そしてロマーノの腕の中で、言い訳のような言葉を並べている。
背を撫でていた手で少し体を離し、ロマーノはスペインの顔を見た。離れたことに、不思議そうにしているスペインのまだ赤い鼻と頬を見て、ロマーノは眉を下げて笑った。
「……俺を喜ばせてどうすんだよ」
「えっ、どういうこと?」
意味がわかっていなさそうなスペインに、ロマーノは声を上げて笑った。滅多に笑わないロマーノが急に笑い出したことに、スペインは困惑した様子であったが、すぐ楽し気に破顔する。
「よおわからんけど、お前が楽しそうならええわ」
ロマーノが嬉しそうにしていると、どうしてかいつもスペインまで嬉しそうに笑うのだ。ロマーノはそんなスペインの頬に手を添え、ちゅっと触れるだけのキスをする。
「誕生日おめでとう、スペイン」
別々で暮らすようになってから、当日に言えることが滅多になくなった言葉である。玄関に時計はないけれど、リビングの方から十二時を告げる時計のチャイムが鳴っていないので、まだ誕生日のうちなのは間違いない。
スペインは一瞬、驚いたように目を丸めた後、すぐ嬉しそうに笑った。
「ありがとう!」
少し出来た距離をなくすように、スペインはまたロマーノを抱きしめる。そのままロマーノの頬にいくつもキスをして、今度はスペインからロマーノの唇にキスをした。
角度を変えて交わりが深くなり、舌を絡めるとスペインからアルコールの匂いがする。その匂いのせいか、ロマーノまでくらくらとしてきたところで、リビングの方から十二時を知らせるチャイムの音が鳴った。その音にぴくりと肩が揺れ、どちらからともなく顔を離した。
はあはあと息をするスペインの目に、欲が揺れている。それを証拠に、スペインの手がやらしくロマーノの腰を撫で始めた。
「……お前、体冷えてるからシャワーでも浴びてこいよ」
「なら一緒に入ろ」
「俺はもう寝るつもりだったんだよ」
「ええやん。お願い」
じっと強請る様にスペインがロマーノを見つめた。それにぐっとロマーノが顔を顰める。
一緒にシャワーを浴びるのが嫌なのではない。ただ確実に、それだけで済まないことがわかるから、渋ってしまうのだ。なにせ会うのは久しぶりである。そんな二人が裸で触れあっていれば、自然とそういう流れになるだろう。
することが嫌なのでもない。ロマーノだって、明日は好き勝手させてやろうと思っていたのだ。しかし明日は朝一のスペイン行きの飛行機を予約している。今したら、確実に明日に響くのだ。ましてや朝から動くことは困難になる。
「なあ、ロマーノ……」
明日のことを思い悩んでいるロマーノに、スペインは甘えるような声を出した。男に甘えられたって、冷たく切り捨てることぐらいロマーノには容易いが、相手がスペインとなると話は違ってくる。
「……仕方ねえな」
迷いに迷ったが、ロマーノも自身に灯った欲を優先することにした。会わなければ我慢できたが、触れてしまってはもうダメだった。ロマーノだって、ずっとスペインに触れたかったのだから。
「やったぁ!」
「朝の飛行機、予約してたのによー……」
「昼過ぎからのんびり行ったらええやん」
ちゅっと頬にキスをして、スペインはぶすくれるロマーノを慰める。そんなキスひとつでまあいいか、と絆されるのだから、ロマーノは自身も随分とスペインに首ったけなのだと自覚した。それにロマーノが朝一の便を予約したのは、早くスペインに会いたかったからだ。そのスペインがここにいるのだから、確かに急ぐ必要もなくなった。
「ほら、さっさと行くぞ。特別に髪洗ってやるよ」
「ほんまに?嬉しいわあ」
抱き着いているスペインの手をとって、ロマーノは歩き出す。嬉しそうについてくるスペインと一緒にシャワーを浴びて、セックスして、眠る時はロマーノがスペインを抱きしめようと決めた。そうすれば、誕生日に会えて嬉しいのはロマーノも一緒なのだと、わからせられる気がするのだ。
お誕生日おめでとうございます!結局今日が何の日かよくわかってませんが親分のお誕生日なんだなってことだけわかってればそれで十分だな…!