(1 / 1) 粘り強さとしつこさは紙一重 (1)

雪はその日、買い物に出かけていた。
万事屋の社長である銀時に一目惚れされ半ば強制的に働いてから幾日も経ち銀時や神楽とのやりとりも慣れすっかりツッコミが板についてきた頃だった。
銀時が好きな結野アナの天気予報では今日1日天気は晴れ。
曇り1つない青空でしょう、というお決まりの言葉が出るほどの天気だったはずだった。
だが突然曇りはじめ雨が降りそうだと買い物を早く切り上げたのだが、運悪く振られてしまった。


「どこかで雨宿りしなきゃ…」


雨と言ってもすぐに止むだろうと思う雨雲だったため、止むことを信じ雪は近くの寺に避難した。
その寺はすでに人間の手から離れすたれていたが、それでもしばらくの間雨風を防げるほどの役割はある。
雪は寺で雨宿りさせてもらい、少し濡れた水滴を払う。
濡れ具合を確かめようと背中を見るため後ろを振り返ったその時、視界の端に人が映り雪はビクリと肩を揺らし驚く。


「わ…っ!!」


驚きすぎて一歩二歩と下がってしまった雪の目に映ったのは男と女だった。
男の上に女が覆いかぶさり衣服は荒れていた。
そう、雪が避難した場所にはまさにあんなことやこんなことをしようとしているカップルがいたのだ。
男と女と雪はお互い黙り込み…雪は我に返り慌てて2人に背を向けた。



「ご、ごめんなさい!!」


どう見ても邪魔者は雪である。
その証拠に女が雪を睨んでいた。
顔が整っていたため怖さは半端ないが、お妙を姉に持つ雪にはそれほどの恐怖はない。(と言っても怖くないとも言えない)
お邪魔しました〜、とお馴染みの言葉を告げながら雨が降る中その場を去ろうとした。


「さあ!邪魔者は消えたわ!!私達だけの世界よ!!」

「そ、そうだね…でもそろそろ冗談で済まされないから…やめてくれないかな?」


あの二人の邪魔にならないように走り去るだけの雪だったが、ふと背後から2人の会話が聞こえた。
別に盗み聞ぎも盗み見もする趣味はないが、どうしてもその聞こえた会話がカップルではなかったため思わず足を止めてしまう。
静かに恐る恐る振り返って見てみれば男性は何故か焦った表情を見せていた。
ただそれだけなら彼氏がその気じゃないのに強行する彼女、としてとらえられたのかもしれない。
だが…


「冗談じゃないわよ!!私があなたに冗談を言うとでも思った!?あなたはいつもそうよ!!私をその気にさせる癖に手を出さないじゃない!!あれほど愛を呟いてくれたっていうのに…!!私とは遊びだったの!?好きって言ってくれたじゃない!愛してるって言ってくれたじゃない!!」

「い、言ってないよ!?言ってないよね!?俺は誰にもまだ愛だの好きだの言ってないつもりだけど!?それにそもそも君とは初対面なはずだ!!俺は君を知らない!!」

「違うわよ!!初対面じゃないわ!!だって…だって!私あなたをずっと後ろから見てきたんだもの!!!」


だが、会話を聞く限り彼女というよりは…


「ストーカーかいイイイイ!!!!」


まんまストーカーだった。
まず最初に浮かんだのは上司のストーカーと姉のストーカーだった。
雪は思わず顔を引きつらせ必死に服を脱がされそうになり抵抗する男と、必死な顔で力いっぱい男の着物を脱がそうとする女の背後に周り羽交い絞めして男から離れさせた。
女は雪に無理やり放されキッと雪を睨み、雪が放した隙に男を再び襲おうとした。
しかしそれを雪がすかさず2人の間に入り、雪に立ちふさがれた女は立ち止まってしまう。


「何よ!!あんた何なの!?」

「ちょっと落ち着いてください!!」

「煩いわね!!私達の問題でしょ!!あんたに関係ないじゃない!!邪魔しないで!!私はただ彼を後ろから見守って写真に収めてアルバムを制作して思い出を作ってたまに私の分身を入れた手料理を振舞ったりしてる彼女よ!!」

「それストーカーアアアア!!それは立派なストーカーっていうじゃアアアア!!!なんだよ!何なんだよ!!ストーカーってそうなの!?そういう頭の仕組みしてんの!?妄想と現実見れないの!?あんた立派なストーカーだよ!!大事なところだから2回も3回も何度も言ったけどストーカーだよ!!!」


女の言い分に雪は頭を抱えた。
身近にいるストーカー然り、この目の前のストーカーも然り…頭の思考がまったく同じだったことに声を荒げた。
その間も雪の後ろにいる男は乱れた着物を整え雪の背を見つめていた。


「とりあえずあなたのしていることは立派な犯罪です!!目を覚ましてください!!」

「目なんてとっくの昔に覚めてるわ!!この人には私しかいないの!」

「それは思い込みっていうもので…」

「それにこの人だって私に愛してるって言ってくれた!!」

「さっき本人から言ってないって聞いたんですけど!?」


ああ言えばこう言う。
この言葉が今の状況にあっているであろう。
雪は言い合いをしながら『あれ、私どうしてこの人と喧嘩してるんだっけ?』とか思っていた。
女は一向に退こうとしない雪にしびれを切らしたのか床に投げ捨ててあったカバンから包丁を取り出した。


「何で邪魔をするの!!やっぱりあんたもこの人の事好きなのね!!?」

「エエエエ!!?なんでや!!どうしてそうなった!?どういう経緯でそう思い込んだ!?私一回もこの人の事好きって言ってませんけどオオオオ!?」

「えっ…そうなんですか…?まいったな…」

「おいそこオオオオ!!!そこオオオ!!何本気になってるの!!?何本気で困ってるの!?何頬染めてんだ!!!何『ふう…』って諦めついたため息ついてんだ!!言ったよね!言ったよね!?私あんたの事好きって言ってないって言ったよね!!」

「いや…でも俺、いつも目と目が合ったら惚れられるから…」

「目と目があっただけで惚れられる!?はああ!?ふざけてんのあんた!こんな時に!!」

「でも本当だし…多分この子もどこかで俺と目と目が合って俺に一目惚れしたんだと思う……あ、だったら俺のせいか…どうしよう…またやっちゃった…また兄上達に迷惑かける…」

「オイイイイ!!オイイイ!!突っ込み増やすなよ!!ボケ増えるなよ!!今修羅場アアアア!!!っていうかあんたどんだけ自分に自信あるの!?どんなだけナルシストなの!?あんたもしかしてホスト!?狂死郎さんだってそんなこと言わないんだけどーー!!?」


ナルシストな発言をする男に雪はツッコんだ。
しかし改めて見れば確かに男の顔はこれでもかと整っているためナルシストになるのも、ナルシスト発言も頷ける。
優しそうな目尻の下がった黒い瞳、すっとした高い鼻、女性でもそういないであろう薄く形のいい唇、透き通った肌の白さ…身長も低くもなく高すぎてもいない。
声色も腰に響くような低すぎず高いわけでもなく、どこか色香のある声で、まさに男の存在は完璧だった。
確かに雪の知る中でも一番美形と思わせるほどの破壊力を持つ男だが、正直雪は周りに顔の整っている人間に囲まれているからかキュンともすんともせずツッコミを入れることができたのだ。
しかし世間の女性が雪のように美形に見飽きるという美味しい環境にあるわけでもなく、ストーカーの女は男に惚れてしまったらしい。


「そうよ!!あなた私を見てくれたじゃない!!団子屋で働く私に会いに来てくれたじゃない!!私に声を掛けてくれたじゃない!!帰り際に私に微笑んでくれたじゃない!!」

「それ多分客ーー!客と店員の関係イイ!!!それ以上もそれ以下もないよ多分ンン!!!あれだよね!?あれですよね!?あなたに会いに来たのはただ団子が食べたかったからですよね!?声かけたのも注文したかったからですよね!?微笑んだときだって美味しかったからですよね!?」

「すごいね…もしかして君もあの時いたのかい?」

「やっぱりね!!そうだろうね!!!というか考えるまでもねえよ!!もういいよ!もういい加減にしろよ!もうお前ストーカーでいいよ!!っていうかもうストーカーだよ!!こちとらお前以上の生ストーカー2匹現物で見てんだよ!!最低でも毎週5日は見てんだよ!!もう警察の幹部と個人の携帯番号交換し合ってるよ!!もうお前ら何が楽しいんだよ!!人に嫌がらせして何が楽しいんだよ!!」


雪が言い当てたことに驚く男と雪の言葉に反論する女に雪はもう我慢の限界だった。
正直に言えばストーカーに限界だった。
某近藤勲と某猿飛あやめからの被害が何故かこちらに来ていたから仕方ないと言えば仕方ないだろう。
某ゴリラは姉を落とすにはまず溺愛している妹を手懐けた方がいいと猿知恵ならぬゴリ知恵を働かせ更に姉の機嫌を悪くさせ尻拭い&ご機嫌取りはいつも雪。
某ドM変態忍者は上司しか見ていないにも関わらず何故か自分に嫉妬し『銀さんの嫁は私よ!この泥棒猫がアアアア!!!』と白昼堂々と叫ばれ親子連れには白い目で見られるわ上司の大家からは同情の目を向けられるは上司は上司で『ちげえよ!!雪が俺の嫁じゃアアア!!!』と叫んで悪化させるわ仕舞いにはそれを聞きつけた姉からは『どういう事か説明してもらえるわよね?雪ちゃん、銀さん?』と目が笑ってない笑顔をもらうわでストーカーには散々な目に合ってきた。
だから雪がストーカーに冷たく当たるのは当たり前であり…それがなくても冷たいのは当たり前である。
雪は今この時、襲われていた男を見捨てなかった自分を恨んでいた。
もし見捨てていれば今頃濡れていたが万事屋に帰ってだらけた旦那気取りの上司と妹のように可愛い同僚が迎えてくれたはずである。
もし見捨てていればここまで声がかれるんじゃないかと思うほどのツッコミはしていなかったはずである。
雪はツッコミし終えたのか肩で息をし、雪が突っ込み終えればその場は静まり返った。


「…なによ…なんなのよ…!!もしかしてこの人が私を見なくなったのはあんたのせいなのね!!!あんたが私からこの人を奪ったのね!!この泥棒猫!!ドブス!淫乱!!クソビッチがアアアア!!!」

「人の話を聞けエエエエエエ!!!!!」


某ドM以外のストーカーから泥棒猫どころかドブスやらビッチやら淫乱やらという聞いてられない単語で罵られ、どこをどう間違えたのか勘違いされ、さらには持っていた包丁を雪に向かって突きつけようとする女に雪は突っ込んだ。
そこはツッコミのむなしい宿命なのだが…雪はまっすぐに向かってくる女の包丁に気づいていたが、避ける暇なく刺されると覚悟し目をギュッとつぶった。
しかし衝撃も痛みも一向に出ず、雪は恐る恐る目を開けた。


「…、ッ」

「!―――あなた…!」


目を開ければ後ろにいたはずの男が雪の目の前に立っていた。
大きな男の背に雪は目を丸くする。
するとポタポタと何かが落ちる音が聞こえ、雪は床を見た。


「…!!」


そこには赤い血がこぼれているのが見えた。
雪は当然呆気にとられただ自分をかばった男の背を見つめるしかなかった。


「ぁ…、…っ」


女も男がかばうことを予想していなかったのもあったが、男の血に唖然としていた。
ポタポタとこぼれる男の血に女は恐怖から体を震わせる。


「じょ、せいが……」

「…っ!」

「貴女のような美しい女性が…そのような物騒な物…振り回すべきではありません…」


男はぽつりとつぶやいた。
男が呟けば女はビクリと肩を揺らして怯え、体は更に震わせる。
しかし男はそんな女に怒号を浴びせるわけもなく、微笑みを向けたのだ。
男の声色や言葉を聞いて背中しか見えない雪にも、男は怒っておらず逆に微笑みを浮かべている事が分かった。
雪はそれだけでも驚きだが、何よりもあんなに声を上げて半狂乱だった女が怯えているとはいえ大人しくなったのが驚きだった。
それはそうだろう。
雪の周りのストーカーはこれ以上にやばいのだから。


「だ…だって…あなたが…急に出てきたし…あいつがいけないのよ!!あいつが私からあなたを奪うから!!だから私は何も…っ!!!」

「…俺は…貴女のモノになったつもりはないよ…」

「でも!だけど…!!」

「俺は俺のモノだ…君は俺なんかよりももっと素晴らしい人と恋に落ちるべきなんだ」

「あなた以上の人なんていない!!私…あなたがいいの!!あなたをずっと見てきた…ずっとずっと!!あなたの仕事がどんなのかだって理解できてる!!あなたがどれだけ人に愛されてるのだって理解してる!!あなたには私がお似合いなの!!あなたは私がいないとダメなの!!」

「違う、違うよ…君は外見の俺に騙されてるだけなんだ……きっと本性を知ったら君は失望する…」

「騙されてなんか―――」

「―――――」

「………っ!!!」


男の言葉に女は首を振った。
自分が男にふさわしいのだと何度も何度も説得しようとした。
帰ってきて、という女に雪は思わず呆れてしまう。
だが、今は2人の問題だし、他人の雪が今口を挟めば自分で説得しようとしている男の努力が水の泡となる。
だから雪はできるだけ口を挟まないようにした。
しかし何度も自分がふさわしいと言って聞かなかった女の耳に男が何か耳打ちをしたその時、女は表情を恐怖の色に染めた。
雪からもわかるほど女の顔色は青い。
不思議に思っていると女は怯えた様子で後ずさり悲鳴を上げてその場から立ち去っていく。


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