中身
三ツ目様が言った。
「夕刻、きっと雨が降るよ」
僕は空を見上げる。笑ってしまいそうなほどの快晴。雲ひとつない。けれど、三ツ目様は額に縦向きについた金色の目を閃かせた。
「大きな、黒い傘を持っていきなさい。そのほうがいいから」
三ツ目様が言うんだから、確かに降るんだろう。僕は三ツ目様の予言が外れたのを見たことがない。まあ、三ツ目様は大概、夕飯のおかずを当てたり天気予報の真似事をしたりして遊んでいるのだけど。がなるオンボロラジオよりずっと優秀だから僕は重宝している。
「傘はいらないよ」
僕は言った。
「斜向かいの美代ちゃんはいつも置き傘をしているから。二人で帰るから、いらない」
いつもだったら三ツ目様は予言をしたら黙るのに、今日はそれでも「傘、傘」と煩かった。
美代ちゃんは今日はお休みだった。
僕が一番美代ちゃんの家に近いから、配られた手紙を預かって、僕は一人で帰る。すぐ後ろで三ツ目様が「傘、傘を」とまだ呟いていた。
空を見ると、確かに、日は差しているのに、僕の上には今にも降り出しそうな暗雲が立ち込めていた。
「三ツ目様、走って帰れば降られないかな」
「さあ」
三ツ目様はそっけなかった。
「でも急いで帰りなさい。そうするに越したことはないから」
だんだん僕は早歩きになって、前のめりになり、わあと叫んで、できるかぎり速く走った。三ツ目様は滑るように着いてきた。
ポタリ、地面に黒い染みが一つ。
「あ、」
染みは見る間に増えて、むせかえるような湿った土の匂いを感じた瞬間、バケツをひっくり返したかのように降り出した。僕はすっかり濡れ鼠になってしまった。
もう急いで帰っても仕方ない。どうせ通り雨だし、太陽は出てる。夏だから、止んだ後にしばらく日に当たれば乾くだろうし、もういいか。とぼとぼ歩くと、三ツ目様が急かした。
「はやく、はやく、何かの陰に」
「え?」
振り返る。
三つの目を泣きそうに歪めた三ツ目様の向こうに、太陽を遮る黒い戦闘機が見えた。
もどる