※名前変換無し

「どっちも似合ってるよ?」
「……ありがと」
 
さっきからそればかり。いつもなら嬉しいと思うけれど、いま欲しいのはその言葉じゃない。「こっちのが好き」「さっきのがかわいい」とかそういうのを聞きたいのに。

隣からかけられる声に返事はするけれど、私の視線は目の前の鏡に向けられたまま。ちょっとそっけなかったかな、と後悔してちらりと水戸くんを見れば、彼は私の心の中さえもお見通しらしい。にこりと微笑むが返ってくる。
セールの言葉に釣られて立ち寄ったシューズショップ。ちょうど新しい靴が欲しかったし、せっかくなら水戸くんの意見も聞きたくて彼を連れて店内に入った。水戸くんも「オレが選んでいいの?」なんて乗り気だったから。

ぐるりと回って気に入ったのは二足のパンプス。ベージュと黒で、それぞれ若干デザインが異なったもの。どちらも迷うほどかわいいものだから、なかなか買う一足を決められないでいた。

水戸くんに「どうかな?」と尋ねると彼は「かわいいよ。似合う」を繰り返すばかり。しかもそれが心からの言葉だということも、悩む私に愛想を尽かして適当に答えているわけではないこともよーくわかる。わかっているからこそ困ってしまう。私はあと一押しの言葉がほしいのに。

「そんなに悩むならオレがプレゼントしちゃうけど」
「だめ。さすがに申し訳ない」
「そう? オレは大歓迎なのに」
「そうなの!」
 
だって靴ってそこそこいい値段するし。
たださえさっきのランチは水戸くんにごちそうになったのだから、自分の靴ぐらい自分で買うし、買えるぐらいのお金はちゃんと持ってきている。

それを伝えれば彼はふぅんと頷いて、頬杖をつきながら私を見つめるばかり。その表情はなぜか楽しげだ。

「楽しいさ。好きな子のファッションショーが特等席で見れんだから」

さらりと言われた一言に体温がどんどんあがっていく。その言葉も全部心からのものだとわかるから。
熱を帯びた視線を振り払い、履き替え、履き替え、また履き替える。
よし、心は決まった。

「こっちの、ベージュのにする!」

ちょうどこの色の靴が古くなってきていたし。さんざん悩んだからこそ、心は決まった。でもやっぱりかわいいと思ってしまう黒い靴を、後ろ髪引かれながら棚に戻そうとして——ひょいと横から水戸くんがそれを手の中から奪っていってしまった。え、と驚く前に、水戸くんはそのままレジに向かっていってしまう。慌てて彼の服を引っ張った。

「ちょっと水戸くん!?」
「あ、そうだ。箱はいる?」
「ストップ、ストップ!」
 
買うなら自分で買います! と伝えても水戸くんは素知らぬ顔。それでも私が洋服を掴んで離す気が無いことがわかったのだろう。ふっと表情を緩める。その笑みはいつもよりずっと子供っぽくて、なんだかあどけなさを感じる。

「オレがプレゼントしたいんだって。埋め合わせってワケじゃねーけど、最近バイトばっかりでなかなか会えなかっただろ?」
「……大事なバイト代は自分のために使いなよ」
「使ってるって」
 
水戸くんはポケットから財布を取り出すのをやめ、ふいに真剣な表情を私に向けた。先ほどの無邪気さはどこにもない。じっと真っ直ぐ、そして強い瞳が私を射抜く。ドキリと心臓がはねた。

「この靴履いて、オレとたくさんデートしてほしい」
「!」 
「なーんて、ヨコシマな気持ちがあるって言ったらどうする?」

急な言葉にぽかんとしたのは束の間。言葉の意味を理解した途端にじわじわと顔に熱が集まりはじめる。
水戸くんはさらにダメ押しと言わんばかりにちゅとキスを落とし「このまま履いて行くんでタグ切ってもらえますか?」と店員さんに伝えてしまった。

ちょきん、と軽やかな音が響く。


水戸洋平からの贈り物 〜靴〜
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