「おお! 積もってる!」

一面の銀世界。ふかふかの新雪。吐く息は白く、寒さで肌は痛い。それでも歓声があがってしまう。久しぶりにこんなに雪が積もったのだ。テンションもあがるというもの。
現にカイリューをはじめ、ポケモンたちは雪の中に次々に飛び込んでいく。はしゃぎ回る姿は微笑ましい。起きてよかった。

朝日が昇って間もない時間なせいか、自分たち以外に誰もいない。とはいえ、私自身もポケモンたちに叩き起こされたのだけれど。雪を見て走り回るのはガーディあたりが鉄板ではあるが、ドラゴンタイプの彼らも元気だ。『こおりのぬけみち』が近くにあるといえ、こおり技は苦手なはずなのになぁ。まあ、ワタルさんが育てているから、これぐらいはへっちゃらなのかもしれないが。

「……寒い」

しかし当の本人はこの寒さがダメのようだ。眉間のしわを深くして、いつも以上に怖い顔をしている。厚手のマフラーに顔を埋め、先ほどから一歩も動いていない。普段の常にきびきびとした姿とのギャップに胸がくすぐられてしまう。

「無理しなくてよかったんですよ」
「さすがにきみだけをこの寒さの犠牲にするわけにもいかないだろう。大丈夫。もう少し陽が当たればなんとか」
「そんな声を震わせていても、説得力無いですって」

確かに、陽が高い時の彼はそこまで寒さに弱いというイメージは無い。ただ、いまは夜明け近い時間。単純に気温が低いのがいけないのだろう。フスベはもともと涼しい土地でもあるし、影になっているところは本当に寒い。タイミングが悪かったかな。あと寝起きなのも原因かも。体温低くなるし。

「チクマは元気だな」
「朝は強い方なんで。それにこんなに雪積もっていたら、テンションあがるってもんですよ!」
「雪かきが大変なだけだろう? ……やだなぁ、どうせおれがやらされる」
「あはは、お手伝いしますよ」

彼の言うとおり、雪かきで駆り出されるのは若い労働力だ。フスベには元気な高齢の方も多いが、やはり滑ったりしたら危ない。ポケモンたちにも手伝ってもらうが、ワタルさんは引く手数多になるだろう。その光景が目に浮かぶ。

さて、日中重労働になる未来が約束されているのだから、そろそろ家に戻ったほうがいいかもしれない。しかし、ポケモンたちは未だに雪で遊んでいて、満足している様子もない。まだまだこれからといったところか。長丁場になるなら、彼だけでも帰ってもらおう。
それを伝えれば「今更ベッドに戻っても、そっちだってもう冷えてる」と渋い返事。

「でも外にいるよりはあったかいですよ。カイリューたちは私が見ておくので戻ってください」
「おれのポケモンなのにきみに面倒はかけられないよ」
「私は気にしませんから」

しかし彼は戻ろうとしない。代わりに何かを閃いたようで、唐突に腕を広げてくる。先程の苦い顔とは打って変わって、にこやかに微笑みさえ浮かべてくる始末。

「ワタルさん?」
「いいことに気づいた。ここでチクマがおれを温めてくれればいい」
「は!?」
「ほら、寒いから早く」

抱きついてこい、と言外に伝えてくる。というかコート同士で触れ合っても、そんなに暖かくないはずだ。それを指摘すれば「さすがにここで肌を触れ合わせるのはなぁ」なんてしれっと言ってくるものだから、無言で睨む。
にらみつける攻撃! だが、効果は無いようだ……。

「チクマ」 

名を呼ぶ声。有無を言わさないその声色に私は弱い。

「……もうっ、私がとてつもなく優しいことに感謝してくださいね!」
「もちろん」

雪の上に倒してやろうと画策して、腕の中に勢いよく飛び込んだけれど、残念ながらワタルさんはびくともしない。むしろそのままぎゅうと抱きしめられた。彼の香りを強く感じて、くらりと頭が揺れる。首筋に当たる息がくすぐったい。

「やっぱり、思ったとおり。あたたかい」
「……まあ悪くはないですね」
「素直じゃないなぁ。まあそういうところが、きみのかわいいところだけれど」

結局のところ、理由が欲しいのだ。
こうやってお互いに触れる理由が。
彼にも、私にも。



雪やこんこん
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