エイプリルフール。嘘をついても許される日。
最近では大手企業もここぞとばかりに、盛大に企画を立てている。
日付を越えた瞬間、SNSは大賑わい。昼頃には「各企業のエイプリルフールまとめ」なんてネットニュースにもなるほどだ。
普段の私ならそれを楽しく見る側だったけれど、ふと魔が差した。せっかくだから私もこの大イベントに乗ってみよう、と。
とはいえ真実味のある嘘はちょっとなぁ、と悩む。あからさまで「なにやっているんだ?」と呆れるぐらいの嘘がちょうどいい。最後には2人で笑い合えるような感じの。
そんな諸々を加味して、練り上げた嘘を久しぶりの休みを満喫している彼に落とす。
「私、実はポケモンだったんです」
いつものマントは脱いだ、家にいるとき限定のラフな格好。最近買ったというポケモン育成論の新書を読みながら、リラックスムードを漂わせている。そんな様子を見て「いまだ!」とソファに座る彼の隣に突撃した。
唐突なそれにきょとんとした表情を浮かべたのち、今日≠思い出したのか「へぇ」と探るように言葉を返す。
「それは気づかなかった。人間そっくりじゃないか」
「そういう新種なんですよ。ワタルさんが発見者第一号です」
「ふぅん、なるほど」
新書を閉じテーブルの上に置いたワタルさんは、まじまじと私を眺める。どうやら、この『嘘』をお気に召してくれたようだ。なら、しばらくこの『ごっこ遊び』に付き合ってもらおう。
「新種、ということは野生か?」
早速の暗雲。正直そこまで考えていなかった。設定の甘さが露呈してしまう。
まあそういうことにしておこう! 軽いノリで決定して頷くと、彼はなぜかバトルの時によく見る獰猛な光を瞳に宿した。なんだろう嫌な予感がする。というより、当初の予定からなんだか遠ざかっているような気がしてきた。
「ならゲットしよう」
「え?」
「チクマは野生のポケモンなんだろう? ということは、おや<gレーナーがいないということになる。おれがゲットしてもなんら不思議ではないし、むしろ新種なら余計に保護しないと」
トレーナーとしての腕がなるなぁ、彼は肩を回す。私はというと混乱する一方だ。まさかモンスターボールを投げられるのだろうか? あれって意外と固いし、当たったら痛そうだ。そもそも嘘だってわかっているんだから、笑い話でお開きにするべきでは!? 彼がこうして乗り気になっていると痛い目を見ることをよく知っている。しかも主に私がその痛い目にあうのだ!
「エイプリルフールの嘘で、冗談ですよ!? とっくにわかってますよね!?」
「エイプリルフール? なんのことやら」
「ワタルさん!」
素知らぬ顔で距離を詰めてくる彼に私は変な声をあげながら、逃げる。しかしそれさえも掌の上だったらしく、すぐさま押し倒されてしまった。ソファのスプリングが背中に響く。
「な、なにして……」
「ゲットするためにはまずバトルして弱らせないと、だろ?」
なに当たり前のことを言っているんだ?
きょとんとするワタルさんに反論する。しかし彼は聞き入れてくれない。「だってチクマはポケモンなんだろ?」と一言。だからそれは嘘なんですって……!
何度も抗議を重ねれば、彼を諦めたようにため息を吐く。
「――きみの意見はわかった」
「! じゃあどいて、」
「確かバトルならポケモン同士が当たり前だもんな。気が利かなくてすまない」
「そ、そういう意味じゃ……!」
「でもきみは新種のポケモンだし、それにおれが相手したほうがヨさそうに思うんだが?」
「ひえ」
話が通じない。それどこか、足の間にワタルさんの身体がいつの間にか入り込み、逃げられなくなっていた。最後の抵抗とばかりに必死に押しのけようと力を入れていた腕も、彼の前では片手で簡単に拘束されてしまう。睨んだとしても「にらみつける=H」と笑われてしまう始末。
そう思うなら、下がれよ防御ぉ!
「じゃあおれのターン」
首筋に彼のくちびるが触れた。熱いそれにやわく食まれ、甘いしびれが走る。複数回、違う場所につけられるキスマーク。そのたびに私は必死に声を我慢した。しかし彼はそれが気にくわなかったのか、とどめとばかりに舌を這わせてくる。
「ひぅっ」
「……ああ、今のは」
なかなかに効いた、と吐息と共に囁かれる声。その音に再び私は小さく鳴いた。
「おれに効いているってことは、きみは――そうだな、フェアリータイプかな? 同族って感じじゃないし、かといってこおりとも違いそうだ。なにしろ、こんなに熱い」
甘く熱く欲に溶けた色を浮かべ、ワタルさんは愉し気に笑う。欲に負けた表情に見惚れていると、空いている彼の手がゆっくりと下りてくる。節くれ立った指が静かに服の中に入ってきた。
「おれはドラゴンタイプ専門だけれど、フェアリータイプでも大丈夫。もちろん、チクマ限定だけれど。じっくりと育てるから――」
おれのものになってくれるよな?
ああ、そんな声で言われたら捕まるしかないじゃないか。
肯定した途端に彼からの深い口づけが待っていることを知らず、すっかり弱った私はふわふわと頷くのだった。
「思ったのだけれど、お互いに効いていたからやっぱり同族同士かな。フェアリーなら、きみはおれの攻撃が効かないワケだし。でもチクマはドラゴンって感じじゃないよなぁ」
「……知らないです」
「拗ねてもかわいいだけだぞ?」
「ワタルさんなんて嫌いだもん……」
「おれは愛しているよ。ほら、そんな見え透いた嘘ついていないで、機嫌直してくれ」
そしてまた、キスの雨が降ってくる。