私がハッサクと出会ったのは数年前、私がパルデア芸術コンクールで初めて大賞を受賞したときにまで遡る。
版画作家として身を立てていくと誓ったにも関わらず、現実はなかなかに厳しくて。自分で言うのはしんどいけれど、成人を迎えてもなお花は咲かず。「もうダメかもしれない」なんて思っていた矢先に受賞の連絡が飛び込んできた。その報せを聞いて飛び跳ねて喜び、思わず相棒のコマタナとハイタッチしたせいでざっくりと手を切り、喜びも束の間に流血沙汰になりながら病院に駆けこんだのは私の笑い話の鉄板ネタになっている。
そのコンクールの審査員がハッサクだった。まだあの頃のハッサクはアカデミーの先生でもなければ四天王でもなくて。でも芸術家としてはすでに名を馳せていた。そんな彼が審査員を務めたコンクールは世間の注目度も高かった。必然的に授賞式もひっそりとしたものではなく、大々的に行われることが決まっていた。
当日、クローゼットからなけなしのスーツを引っ張り出し(ドレスなんて大層なんて持っているわけがなかった)、正真正銘の一張羅を着た私はまず控室に案内される。歩くたびに足が沈むようなふかふかな絨毯が敷き詰められたそこにはすでにハッサクがいた。あの特徴的な瞳を遠慮なく向けられたものだから、さらに緊張を増したのをはっきりと覚えている。ただでさえカチコチな私の身体はかたくなる≠積んだキョジオーンのようになっていたに違いない。
でも仕方ないとも思うのだ。年齢だって経験だってハッサクのほうがずっと上だったのだから。そんな年の離れた男性に対峙したことなんて、数えるほどしかないし。
なにか話したの方がいいのだろうか。ありがとうございました、とかお礼を伝えたほうがいい?
ぐるぐると考え込んでドアの前から動けない私にお構いなしと言わんばかりに、ハッサクが近付いてきた。あの独特な歩き方で。
「あなたがチクマくんですね?」
「は、はい」
返した声が上ずっているのが自分でもよくわかる。距離が縮まれば余計に彼に圧倒されてしまったのだ。まったくもって不本意だが、私は年齢の割に身長が低い。平均身長を大きく下回っている私とは正反対に、ハッサクはそれを大きく上回っている。首が痛くなるほどに見上げないと、彼の顔もまともに見られなかった。加えて、自分を見下ろす眼力が鋭い。
シンプルに怖かった。ハッサクが。彼の存在が。
なにを言われるのだろうか。このタイミングで作品のダメ出しとか? それとも着ているスーツの話? 審査員としてこの場にいる彼ならどちらもありうるから困る。とにもかくにも。早くなにか言ってほしかった。無言の時間が一番不安でたまらなかった。
「……ぐすっ」
身構えていた私に届いたのはダメ出しの言葉ではなかった。
……聞き間違いでなければ、いま鼻を擦るような音が聞こえたような?
気づけばハッサクは大粒の涙をこぼしていた。太い眉を下げ、ハンカチで拭うこともせず、大泣きしている。
「チクマぐんの作品、どでもずばらじい作品でじだぁ!!」
「へっ!? あ、ありがとうございます……?」
「ハブネークとザングースというポケモン界でも指折りのライバルたちの熱い闘いを、版画特有の彫りと鋭さで表したあの作品! 息をのむ緊張感がこちらまで伝わるようでした! 表情、構図、それぞれのこだわりをひしひしと感じ……! 小生、本当に……感動じで! うぼおおい! おいおい!」
雄叫びのような声をあげて泣くハッサクから次々ともたらされる褒め言葉。ぽかんとしたのは最初だけ。じわじわとあたたかいものが心の奥から広がってきた。私の作品にここまでの賛辞を贈ってくれたのはハッサクが初めてなものだから、ついつい頬が緩んでしまう。むずがゆいこの気持ちをどうやって落ち着かせばいいのだろう。私の伝えたかったこと、見せたかったもの、この人は全部受け取ってくれている。
それがこんなにも嬉しいことだとは知らなかった。
「そう言っていただけて光栄です。『若いから作品の深みがない』ってよく言われていて。自分でも自覚していたんです。だから、今日の受賞も、今の言葉も、私にはもったいないほどです」
「……そうでしたか」
ハッサクはようやく胸元からハンカチ出し、顔中に溢れ出た涙をぬぐう。そのおかげか、ようやく落ち着いたようだった。息を整えるように大きく呼吸し、先ほどとは打って変わって静かな凪いだ金の瞳で私と目を合わせた。
「たしかに年齢というのは、それだけで作品に味を与えるスパイスになり得ます。ですが、無いことでチクマくんの作品のマイナス要素にもなり得ないのですよ。小生はあなたの作品が、このコンクールの大賞にふさわしいと感じました」
ハブネークとザングース、終生のライバル同士の闘い。一進一退の攻防、隙を見せずに伺う視線。そして相手を一手でいいから上回ろうとする気迫。それを一枚の版画で表現する。その域に至るまでポケモンたちを観察した時間、費やした努力。
「それらはまさしく、あなただけの『深み』を生み出すものではないのですか? 年齢だけを重ねたからといって生み出されるものではないと、小生は思うのですよ」
今度は私が泣きそうになってしまった。今までの苦労が全部、消えていくようだった。油絵でも彫刻でもない、版画という美しさに魅了され、自分も表現したくなった。そこに傾けた情熱も、捧げた時間も、味わった挫折も。全て間違いではなかったのだ。
この人に作品を見てもらえてよかった。胸に宿る想いはそれだけだった。
声が震えるのを必死に我慢し、私は一言「ありがとうございます」と頭を下げる。
私の視界には滲んだ絨毯しかないのに。彼がやわらかく微笑んだのを、感じた。
その後、授賞式は無事に終わることができた。緊張でスピーチになにを話したかまったく覚えていない。変なことを言っていませんように。
これで終わり、解散なのかと思いきや、そのまま流れるように懇親会という名の立食パーティーが催された。大きな授賞式にはよくあることらしい。初めて知った。
なにもかも不慣れな私は様々なことになんとか対応し、人の波が落ち着いた時にはもうふらふらだった。いろいろな人としゃべり疲れて喉はカラカラだし、食事にさえ手をつけられていない。お腹はとっくに空っぽだ。
せっかくのパーティーなのに、なにも食べないのはもったいないなんて思うのは、貧乏性ゆえだろうか。けれども目の前に広がるのは滅多に食べられないような料理にドリンクばかりなのだ。そして極めつけはアルコール。輝くそれらに惹かれないはずがない。
とりあえず、なにか飲みたい。グラスを探していると、優秀なウェイターがきょろきょろしている私にすぐさま気づき「ドリンクはなにを?」と尋ねてきた。
「ええと、お酒をいただけますか?」
「かしこまりました。こちらでいかがでしょうか」
にこやかに渡されたシャンパングラスに入った薄い色の飲み物はパチパチと気泡が弾け、その度に上質で芳醇なアルコールの香りを運んでくる。透明感が美しく、シャンデリアの光に輝き、私を照らしていた。
お酒を飲むのは久しぶり。禁酒をしていたわけではないけれど、懐があまり豊かではない私にとって、嗜好品はなかなか手が出しにくい。お酒を買うなら、その分他のものに……となってしまっていたのだ。しかもこんな高そうなお酒、スーパーアルデネーノにだって置いていないはず。
さすがパルデアでも有名なコンクールの受賞パーティーで振舞われるお酒だ。改めて自分の作品が受け入れられたことに感動してしまう。今日ぐらいはいいお酒を飲んで、おいしいご飯を食べたって許されるはず。
心擽る甘い香りに味わうべく口元にグラスを近づけ――
「なにをしているのですか!」
鼓膜が破ける勢いで怒鳴られた。
私からグラスを奪ったのはハッサクだった。その中身がアルコールであると確信を得たのだろう。さらに眉をつりあげ、表情を怒りで満たしていく。
「まだあなたは酒を飲める歳ではないでしょう!」
「……はい?」
「興味を持つな、とは言いません。ですがそれはルールを守ってこそ成り立つものです! あなたにこれを勧めた大人はどこですか!? そもそもチクマくんの保護者の方はどちらに!? 授賞式はともかく、このようなパーティーに子供を一人にしておくなど、許せませんですよ!」
ハッサクの声は大きい。会場中の視線が自分たちに集まっているのを肌で感じる。
けれども、そんなことは些細なことだった。なにしろ私にとっては聞き捨てならない言葉を告げられたのだ。
深呼吸を数回。意識して心を落ち着ける。大丈夫、慣れている。慣れているから大人として、冷静に対応できる。そう、慣れているから……!
「……成人しています」
「なにかおっしゃいましたか?」
「私、成人しています。とっくに。独り立ちだってしているし、お酒だって飲める年齢です」
目を丸くするハッサクにこそこそとコンクールスタッフが近づき耳打ちをした。恐らく私の言葉が真実であること、そして本当の年齢を伝えているのだろう。現にハッサクは狼狽え、視線を彷徨わせはじめた。
先ほどの勢いが嘘のように。
「子供だと思っていたんですか」
「い、いえ、あの、小生はてっきり……」
「まあ確かに私の身長はお世辞にも高くないですし、友人からも童顔だと言われますけど」
身長は平均のそれを下回り、顔立ちだって同年代と比べればずいぶん幼いと自覚している。
だからというわけではないけれど。アルコールを買うとき、飲むときには毎回年齢確認をされている。そのたびに私は言うのだ。
「もうとっくの昔に成人をこえてますから!」
ハッサクからグラスを奪い返し、そのまま一気に中身を煽る。
久しぶりのアルコールが喉から腹に落ちていく。カッと身体が熱くなるこの感覚も久しぶりだ。
「もう一杯いただいてもよろしいですか?」
我ながら嫌味っぽく言ってしまったな。しまったと思ったけれど、恐縮するハッサクはそれどころじゃなかったようで。気まずそうな表情を浮かべ「お持ちしますですよ……」と彼は私から空のグラスを受け取った。
*
「なんてこともあったよねぇ。もうあの時点で、ハッサクには遠慮らしい遠慮がなくなった気がするよ」
「いつの話をしているのですか、チクマ。そんな昔のことをいまさら……」
「なんか急に思い出してさぁ」
仕事終わりの会社員、「久しぶり〜!」なんて言葉が飛び交う友人同士の集まりでにぎわう大衆バルの片隅。私とハッサクは久しぶりの飲み会を開いていた。
なにかの拍子に思い出した私たちの出会いを肴に赤ワインを喉に流す。息つくこともなく、一度にワイングラスの中身を全て煽るのは身体に悪い飲みかたとわかりつつも、アルコールが身体を瞬間的にカッと熱くさせる感覚が好きなのだ。それにパルデア地方のワインは品質がいい。悪酔いもしないから、多少無茶な飲み方をしても構わないはず。
あの一件以降、私たちは距離を置くどころか、友人になれた。その後いろいろなコンクールや美術展などで顔を合わせることも多かったからだろう。となると、自然にハッサクからコルサも紹介されるわけで。二人は年上でキャリアも上だけど、私を含め自分の芸術にはプライドが高く。いろいろな衝突や仲直りを経て、気の置けない友人でありライバルといった存在になっていた。
明確なきっかけはあのとき。ほどよく仲良くなったあたり、今日のようにお酒を飲んでいたときに私がもらしたのだ。「私がもっと早く生まれていたらなぁ」と。
私がもっと早く生まれて、年齢が近かったら。そんな夢想をつい描いてしまうの、と。
それを聞いたハッサクはかすかに笑いながら、言ったのだ。
「それはそれで楽しいことでしょうね。苦悩の日々、傍らに友がいるだけで気持ちは晴れるものですから。ですがね、チクマ。あなたが小生たちと歳離れ、生まれたことには意味があると思うのですよ」
「意味?」
「ええ、そうです。あなたの若い感性は小生たちには抱けないものでしょう。それは逆もしかり。ゆえに、お互いが教師であり生徒になれる。素晴らしい関係だと思いませんか?」
ストンと私に落ちていく。身体の奥に染み渡って、肩の力が抜けるようだった。
ハッサクはすごい。私に無い視点と考えを持っていて、ちゃんと言葉にしている。それができる人はとても少ない。私を含めて。
学校に通っていたことなんて遠い昔だけれども。この人の生徒たちが羨ましいとさえ思った。
まあでも私はどんなに頑張ってももう学生には戻れないし。
「コルサはやっぱり来れないって?」
「ええ。先ほど改めて連絡がありましたですよ。ジムのほうで起きたトラブルが長引きそうだと」
「コルサはジムリーダー。ハッサクは四天王にアカデミーの先生。大変だなぁ」
久しぶりに三人で集まりたかった、が本音だけれど。二人はそうもいっていられない。ポケモン勝負について私はからきしだからわからないけれど、ポケモンリーグにスカウトされるだけあって、二人はとても強いのだろう。
私もいつか挑戦してみようかな、と酔った頭で考えながら、ハッサクの空けたグラスの隣に自分のものを並べた。
「次、何にしようかな。ハッサクは?」
「酒はもう結構ですよ。チクマは少々飲みすぎでは? 小生はいまだにあなたが酒を飲んでいるのを見るとハラハラしますですよ……」
「今日も年齢確認されたしね。アカデミー近くだと厳しいから、お店も徹底しているし」
「チクマは強い酒を頼みますから、余計に目につくのでしょう。飲む量はほどほどにしておきなさい」
「はーい、先生」
「先生はやめなさいと何度も……」
「はーい、先生」
「チクマ……」
渋い顔をするハッサクを放ってメニューをめくる。
お酒はもちろんだけれど、食事も一品ぐらいオーダーしておこうかな。ハッサクに訊くと「任せます」の返事だったので、勝手に選んでしまおう。
「恋人限定メニュー?」
目に留まった文字を読み上げる。
ピンチョスを始めとした前菜の盛り合わせのようだ。恋人限定メニューなんて銘打っているだけあって、それぞれ二人前で用意されるらしい。値段も通常で頼むより少しお得だし、食事の量もお酒も進んだこのタイミングで頼むなら軽いもののほうがいいかも。いまさら前菜に戻るのかと思わなくもないけれど、格式ばったお店でないのだから気にしないことにした。
「これでいい?」
「……小生たちの条件には当てはまっていないように思えますが」
「なんで? 『お二人様から』『ご友人』で当てはまっているけど?」
恋人限定≠ニされているが実のところ条件はだいぶ緩いらしい。『お二人様からのオーダー。ご家族・ご友人も可』なんて文章が添えられている。ようはちょっと特別感を出すメニューの名前をつけたかっただけのようだ。まあ確かに『ペアメニュー』とかよりは目に留まりやすいかも。あとは場所的なのもあるのかもしれない。テーブルシティは学生の街だけれど、夜のライトアップは結構ロマンチックになるから恋人のデートスポットにもなっている。ハッコウシティの夜景ほどじゃないけれども。
「ま、ともかくこれでいいでしょ? あと一杯二杯飲むには充分だしさ」
それでも彼の表情は晴れない。嫌いなものがメニューの中にあるわけでもなし、どうしたのだろうか。そこまでオーダーしたくないのなら、別のものにしてもいいけれど。
それを伝えるとハッサクは眉間に皺を寄せたまま、答えた。
「……年の差があるでしょう」
「え?」
「小生とあなたでは、どうしても埋められない年の差が」
「なに言っているの、いまさら! それがいいって言ってくれたのはハッサクじゃない」
「それは芸術においての話です。プライベートでは話が異なりますですよ。実のところ、ずっと――あなたへの接し方を、自分を律してまで、意識していました」
「ハッサクは私と友達でいたくないってこと?」
「そうではありません! 友人でいられるのが一番です。ええ、そうですとも。友人……友人です。チクマとは友人でいたい。ですが……小生は……しかし、年齢が……」
なんとも歯切れの悪い返事だ。アルコールに酔っているのだろうか。たしかに珍しくペースがあがっていたけれど。それにしたっていつものハッサクらしくない。隠し事をする子供か、はたまた青春真っ盛りのティーンエイジャーのように見える。
「よくわからないけどさ、ハッサクは私の父親じゃないんだから、変な気を回さないでよ」
それともパパ≠チて呼んでほしいの?
軽口で茶化せば、彼の表情はさらに渋くなる。地を這うような声で「絶対にやめてください」とまで言われてしまった。
「なら変な気遣いやめて。私、どちらって言えば年の差とか気にしてないから」
まあ時と場合によってはフル活用させてもらうこともあるけれど。それはそれ、これはこれ。
「お互いが納得していればいい派だよ、私はね」
「……恋愛も?」
「もちろん。友情も恋愛も、いいと思うよ。さすがに未成年に手を出すのはアウトだけどさ。お互いに成人していて、納得していればいいんじゃない?」
「そう、ですか……」
ここまできてようやく勘づいた。もしかしてハッサクには好きな人がいたりする? しかも年下(そりゃ彼の年齢を考えれば大体年下だろうけれど)で、そこそこ年の差があると見た。
ええ? だれだろう。彼の交友関係的にはリーグか学園の関係者? 職場に恋愛を持ち込むタイプとは思わなかったけれど、もしかしてもしかするかもしれない。コルサがいたらもっと候補が挙がったのに。
それにしてもハッサクが恋愛。しかも本人は無意識に相談までしてきている始末。これは結構……なかなかいいものだ。申し訳ないがちょっとわくわくしてしまう。相手はじっくりと後から聞き出すとして――まずは存分に楽しませてもらおう。
椅子ごとハッサクの隣に距離を詰める。驚く彼が身を引く前に、その腕を取り、絡めた。まるで恋人がするかのように密着する。「チクマ!?」と慌てる声を無視して、顔を覗き込む。
「そんなに悩んでうじうじしていたらさ。いい感じの雰囲気のとき、こうやって好きな人に詰められたらどうするの?」
「す、好きな……! いつから、わかって……!」
「バレバレだって」
放り出されたままの彼の手を包む。わかりやすく身体を跳ねさせるハッサクが愉快で仕方ない。年齢も経験もあると思っていたのに、意外と初心なところがあるんだな、なんて。
ハッサクはめったにアルコールでは赤くならない。なのに今は首まで真っ赤だ。確実に照れている。私がちょっとからかっただけで。
にやける頬を叱りながら、最後にもう一度だけぎゅっと腕を抱きしめて、私は離れた。
「あはは! ハッサクもかわいいところあるじゃん!」
「チクマ!」
「ごめんって! でもさ、ギャップでときめいてもらえるかもよ?」
見た目は圧があって怖いと評判のハッサクなのだ。話せば気さくだし、優しくて思慮深い人だとわかるけれども。そのうえでこういった一面を見せれば、ときめくこと間違いなし。
事実、私だってきゅんときた。かわいい一面は誰だって弱い。
「私のお墨付き! いい感じな場面でいい感じに見せたら、絶対その人もときめいてくれるって!」
「……どうにも信用なりません」
「ええ、どうして?」
「あなたのお墨付きだから、ですかね」
じとりとした視線はなんだか裏目がましく見えて。「信用ないなぁ」とごちると「自身の行動を振り返ってみますですよ!」なんて怒られる。
「まあ、でもさ。恋愛相談は乗るから! コルサよりは私の方が適任でしょ?」
「……ええ、そうですね。これからはあなたに相談にのってもらうとしましょうか」
「あれ? 急に開き直ったじゃん」
「小生も男ですから。多少は打算的になりますですよ。――それにあなたは、年の差なんて気にしないのでしょう?」
ああ、そういうことか。たしかにそこに抵抗がある相手だと、そもそも相談をすることさえ難しい。
となると確かに私は適任かも。
「じゃあまずは好きな人のこと、教えてもらおうかな」
「ええ、じっくり教えてさしあげますよ」
「まさかハッサクと恋愛の話ができるなんて! あ、すみません!」
通りかかった店員さんにお酒と追加の料理を頼む。先ほどの恋人限定メニューを友人同士≠ナ利用したいと頼めば、快くオーダーは通された。
でもなぜか、ハッサクはまた渋い顔をしていて――私の知らないだけで苦手な食べ物でもあったのだろうか?