※pkmsイベ「正しき心に舞い降りる翼」の一部ネタバレがあります。
「チクマに見せておきたいものがある」
そうシルバーに言われ、私は彼の後ろを必死について行くこととなった。
はふはふを息を切らしながら思う。パシオは人工島と聞いているが、わざわざこんな険しい山まで作ったというのだろうか? 一応山道あるけれど傾斜がすごいのだ。あっという間に疲労は貯まり、足は痛みを訴えはじめている。
野生ポケモンもいないのに、生息域に近づける必要はあるのだろうか。もうちょっと考えてほしかった。
そしてそれは彼にも言えることでもある。
「ね、ねえシルバー。まだかかるの?」
「……あと少しだ」
あと少し。つまり、まだまだ歩かないといけないということ。ここまで休憩も無く延々と歩いたのに、まだ目的地に着かないなんて。
つい口をつぐんでしまう。朝早く起こされて、朝食も取らず山へ登らされて……。その上、ろくな説明もない。
もともとシルバーが口下手なのはわかっていたけれど、さすがにこれは心が折れてしまうというものだ。
そんな私の胸中を察したのか、シルバーは「あまり他人に見られたくない」と小さく呟いた。
「他の人に?」
「ああ。この時間の山なら誰もいないだろ」
「それは、そうかもしれないけれど……」
そこまでして隠したいもの。でも、私に見せておきたいもの。
いくら悩んでもその答えにはたどり着けない。そもそも彼には秘密が多すぎる。
独りになりたがる鋭いナイフのような彼が気になってちょっかいをかけていたけれど、結局根元のところはいまだに私は理解することができない。
ひょんなことから友人となって長いけれど(少なくとも私はそう思っている)、彼のパーソナリティは全然見えてこないのだ。ただ強さを求める。そんなトレーナーがシルバーという少年だ。
実を言うとシルバーから「パシオへ行かないか」と誘われた時に嬉しかった。決して安くはない航空券を渡されたとき、それが輝いて見えたほどに。彼の中で、自分が気の許せる相手≠ナあり旅行に誘う相手≠ナあると思っていてくれていることが、たった1枚の紙で証明されたのだから、これ以上の喜びは無い。心を許してくれたのだと、そう思っていた。
でも、それも気のせいだったかもしれない。
シルバーにとって私は「都合のいいバトル相手」ぐらいの存在なのかも。だから肝心なことは話してくれないし、今もこちらを気遣うことなく前へ進んでいる。
「…………」
遠くなる背中にふと魔が差した。私はシルバーとどうなりたいんだろう。そんな邪念が頭を過ぎる。過去を知りたいとか、全てを教えて欲しいとは思わない。
ただもう少しだけ――
「こっちを見てほしいかも……」
本当はこんな山、へっちゃらなのだ。私だってジムバッジを集めたトレーナー。それなりに旅をしているし、リーグへの危険な道のりを踏破してきている。そうだというのに、なぜ足が痛んでいるのか。その答えは簡単、私はおしゃれしたのです。今日、シルバーと2人きりになるから。
いつからか「友達」の関係だけに満足できなくなった。シルバーのそばにいたくて、少しでも彼に笑ってほしくて――端的に言うとシルバーに恋をしている。
そんな想いを寄せる相手に「見せたいものがある」と言われて、期待しないほうが無理というもの。何か特別なことがあるのでは、とそわそわ、どきどき。なかなか寝つけなかったぐらい。
一番のお気に入りの服を着て、ちょっと高めのヒールを履いて、髪だって気合いを入れた。
パシオに来てからバトルばっかりだったし、なによりシルバーは顔なじみのヒビキくんと一緒にいることが多くなっていて、あまり2人きりの時間が無かった。男の子同士の会話にはなかなか入りにくくて、距離を取ってしまったこともあった。
だから、本当に、本当に、このデートを楽しみにしていたのに――。
勝手に期待して、勝手に落ち込んで。わがままな自分に自己嫌悪しつつ、痛む足を無視して私は必死に山を登り続けた。
***
「ちょ、頂上だぁ」
ようやくたどり着いた頂上。限界が来る前でよかったと胸を撫で下ろす。
悲鳴をあげる足をさすりながら、彼に訊く。
「それで、見せておきたいものって?」
「――これだ」
そう言ってシルバーは何かに合図するかのように、手を挙げた。
少しの空白のあと、何かの鳴き声が静かな山に木霊する。私はその姿を探すため空を仰いで、目に映ったそれに息をのんだ。
「ホウオウ……!」
ジョウト地方、伝説のポケモンの1匹。虹色の輝く羽を持つホウオウがそこにいた。そのポケモンは静かにシルバーの隣に舞い降りる。驚く私とは裏腹にシルバーはいたって冷静で、優しくホウオウの身体を撫でた。
その光景から導き出される答えは1つ。
「まさかホウオウとバディーズになったの!?」
「いろいろあってな」
「で、伝説のポケモンといろいろと……?」
パシオに来て、彼は何をしていたのだろうか?
説明を求める私に、シルバーはブレイク団と一悶着あったこと。そして、紆余曲折を経て彼らはバディーズになったことを教えてくれた。
「って、あれ? ニューラはどうするの?」
「試合に出すのは1匹というルールなだけで、バディーズ登録自体は何匹もできる。ニューラもオレのパートナーのままだ」
当たり前だろ、という呆れた顔をするシルバー。
私はそこまでパシオのバトルに慣れていないから、わからないのは仕方ないと反論する。
でもずっと一緒にいるニューラも彼のバディーズのままなのはよかった。
私は2人のバトルが好きだから、余計に。
「ともかく、オレが見せたかったのはこのホウオウだ。オレのバディーズになる以上、チクマにも伝えておきたかった」
「あ、だから『誰もいない』場所か………」
「あまり見せつけるものでもないしな。バトルの時ならともかく、ホウオウだって好奇な目で見られるのは気持ちがいいとは言えないだろ」
その言葉を聞いて、なんとなくホウオウがシルバーをバディーズに選んだ理由がわかった気がした。ぶっきらぼうで、癇癪持ちで、目の前の女の子が頑張ったおしゃれにだって気づかないけれど、シルバーの本質はきっとあたたかくて優しい。それをちゃんとホウオウも――ううん、彼に関わるポケモンたちはちゃんと見抜いているのだ。だから彼のそばにいる。
「――チクマ」
「なあに?」
改めて呼ばれた名に応えると、シルバーは静かに私を見据えて宣戦布告を告げた。
「オレはホウオウと一緒に最強のトレーナーを目指す」
「うん」
「このパシオにいる誰にも負けるつもりはない。ヒビキにもワタルにも、もちろんお前にも」
「うん。私も負けない」
「ああ。それでこそお前だ」
それと、と彼は続ける。
「何も言わず、こんなところに連れてきて悪かった」
「いいよ。ホウオウのこと想ってでしょ? 仕方ないって」
「そうじゃなくて……その……」
先ほどまでの高らかな宣言とは異なる、ぼそぼそとした声は聞き取れない。
なんて言ったの? と尋ねるが、彼から漏れるのは、同じく聞き取れない呻き声だけだ。
「ねえ、シルバー。ちゃんと聞こえるように言ってよ」
「ああもう、うるさいな! 似合ってる! かわいいって言ったんだよ!!」
「え」
「その服も、靴も、髪も……! かわいいって言ったんだ!」
「き、聞こえなかった! もう1回言って!」
「嘘をつくな! 聞こえているだろ! もういい、帰るぞ!」
「待ってよ、シルバー! ねえったら!」
さっきの言葉は訂正しよう。
どうやらシルバーは女の子のおしゃれには、ちゃんと気づくタイプのようだ。
【after】
「シルバーくん」
「……またアンタか。なんの用事だ、ワタル」
「いやあ、シルバーくんも隅に置けないなって思ってね」
「?」
「あんなかわいいガールフレンドがいるなんて、知らなかったよ」
「っ!? チクマはそんなんじゃ……!」
「へえ、チクマちゃんって言うのか。でもデートで山というのは、もう少し考えたほうがいいんじゃないか? せっかく彼女、おしゃれをしていたのに」
「〜っ! うるさいな! オレだってあんなかわいい格好してくるなんて予想外だったんだよ!」
「…………」
「な、なんだよ、急に黙って。気色悪いな」
「いや、シルバーくんもそういうお年頃だと考えたら感慨深くてね」
「しみじみしてんじゃねぇ!」