深夜1時、バイトにて
「いらっしゃいませー」
自分の腑抜けた声が店内に響き渡る。
なんとなく始めた夜のコンビニのバイト、深夜にくるお客さんは少なく快適なのだが個性的な人が非常に多い。最近だと、毎日プリンを買っていく人がいる。その人は私の働くコンビニじゃ有名で勝手にプリンさんと呼ばれている。噂として聞いた時は「まじかー」ぐらいの感想しか抱かなかったのに、実際見てみるとやばい。艶やかな黒髪イケメンなのに服装がもうどこぞのバンドマンみたいな格好なのだ。やばい。
「お会計お願いします」
「はい、お会計4点で573円になります」
置かれたコンビニのカゴから商品を拾いあげてバーコードリーダーで読み取りお会計をする。単純な作業だけどこれがすごい楽しい。
白いビニール袋を下げたサラリーマンは「ありがとうございます」とひとこと言って此処を出ていった。
(ああいう何気ないの嬉しいんだよな...)
暇だし無くなった肉まんを補充しようと、レジ横の機械に入れていると噂のプリンさんがやってきた。でも、いつも見るバンドマンの格好じゃなくスーツ姿に包帯。別の意味で心配になってくる。プリンさんもプリンさんで毎日来るのではなく何個か買っていって冷蔵庫に保存しておけばいいのにとか思ったり。
冷蔵デザートコーナーで黒い頭が動いているのを横目に今度はあんまんを追加する。そういえば、店長がプリンまんなるものを仕入れるとか言ってたな...プリン好きにとっては嬉しいのか邪道なのか。そんなことを考えていると、すっと目の前にプリンがおかれる。
「あ、プリンさん」
「プリンさん...?」
あ、やば、自然と口から出てしまった。
心の中で連唱してたせいかポロっと口から零れるように出てしまった。目の前のプリンさんはピクっと片眉を動かして反応する。
バーコードリーダーに通しながら「いつもプリンを買っていかれるので」なんて曖昧に笑いながら答える。正直言ってめちゃくちゃ怖い、ドラム代わりに叩かれそう。
「...なるほどな」
返ってきた言葉はわりと淡白で、もっと掴みかかられる勢いで怒られると思ってたからほっと胸を撫で下ろす。わりとどうでもいいってかんじっぽい。
お会計をしながら、小さなプラスチックプーンとプリンを袋に入れてる中ある疑問があたまに疑問がふつふつと沸き立つ。
「プリンさん...プリンまんって邪道ですか?」
「プリンまん?」
「こういうのの中にプリンが入ってるやつです」
傍にある蒸し器を指さしながら言えば、ふむとつぶやき顎に手を添えた。あっ、その仕草ちょっと格好良い。2、3分悩んだと思えば「食べてみないと分からない」とのこと。確かにそりゃそうだ。
「まぁそうですよね、今度入荷するのでぜひ食べてみてください」
「ああ是非そうする」
満面の営業スマイルを引っさげて言えばプリンさんの目尻が少し下がったのが見えた。
プリンの入った袋を渡すと「ありがとう」と言葉が聞こえる。この人絶対いい人だ...見た目怖いけどさっきのサラリーマン並にいい人だよ絶対。
私も「ありがとうございましたー」と笑顔でその背中に返せば彼の歩みがぴたりと止まった。それから綺麗な顔がくるりとこっちを向いて「あぁ、それと」と呟く。
「クロロ、クロロ=ルシルフル」
「...?」
「オレの名前だ、また"プリンさん"と呼ばれたらかまわないからな」
さっきとは違った微笑みを返され店内を出ていく。その後ろ姿に「クロロさん、また来てくださいねー」と返す。
今日、休憩時間に入ったら連絡ボードに『プリンさんの名前はクロロさん』とデカデカと書いてやろう。そんなことを考えながら掃除をするため私はモップを握ったのであった。
BACK